異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-93- 雇用契約

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祖父さんとシリルが色々と言葉を交わす中、俺はオリバーに視線を向けた。
すぐさま視線が合うと、どうしましたか?と優しく尋ねてくる。
琥珀色した綺麗な瞳が甘やかに俺を見ている。
ヤバい、さっきからなんでもないことでときめいてる。

「や、おまえとアレックス様の友人だって聞いたから、どんな方か気になって。コナーがすげーインパクトあったし」
「ああ、ユージーン=ハワードは、今のアレックスの上司、魔法省の副官をしています。
長男ですが、第二夫人と神器様との間の生まれで家を継いでいません」
「そっか…そういうのって、やっぱり領主と神器様の子供じゃねえと継げないもんなのか?」

第二夫人、まあ、そうだよなあ。
貴族となれば、女性を妻として迎えるのは難しいだろう。
貴族の男と結婚し、神器様との間に子供をもうけるのはなにも特別なことじゃない。

「そういうわけではありませんよ?私の言い方が悪かったですね。
彼は、魔法学の中でも魔法陣と魔法具の研究が好きだったので、やりたい仕事に就いただけです。
性格的にも領主は向かないと思いますし、自分自身でもそう口にしてましたから」
「そっか」
「第一夫人と伯爵との間にも一人ずつ子供がいますが、家族中も良いですよ」
「ん。なんかまだそういう感覚に慣れなくて変に勘ぐっちまった。悪い」
「謝ることなんてありません」

血のつながりは神器様とだけの兄弟でも、兄弟仲は良いという。
なんだか複雑で異様な気がするが、それがこの世界では、今現在は普通の家族だ。


「ユージーンは、コナーと同じくらい心臓に毛が生えてる方ですが、コナーほど損得勘定では動けない人ですね。
口は悪いですが、友人思いの良い人ですよ。
学生時代、私とアレックスは貴族間のやり取りでよくみられる言質の取り合いに慣れていなくて、彼は毎回フォローしてくれていましたね。
本気で怒らせるととても怖いのですが、私とアレックスは彼によく怒られていました」
「そりゃ、すげー苦労してそうだ」

領主となったアレックス様は、流石に慣れただろう。
だが、オリバーは相変わらずだ。
まあ、俺がそばにいる限り言質を取ることはあっても、取られるようなことはさせないけど。
オリバーの周りには良い友人がいるようだ。

「忙しい方ですから中々会えませんが、毎年年明け頃に遊びに来ていますから紹介しますね」
「ああ」

「さて、私たちはそろそろ一度お暇しましょうか。
まだしばらくはかかりそうですから、ネストレさんの様子を見に一週間後あたりもう一度お邪魔しましょう。
先生、今度はワグナー家から馬車をお出ししますから、またこちらへ診察をお願いします」
「勿論ですとも」

「アレックスに今日のことを話して、庭を運んでもらえるか確認しなければなりませんね」
「だな……あ」
「どうしました?」

さっきからなんかひっかかると思ってたが、ネストレって薬師の名前、キャンベル商会の見学で、ポーション納品の時にやたら品質が良かった薬師だ。
あの一件だけで、俺がなんでそこまで覚えてたかって言うと、元の世界でよく飲んでいたコーヒーと同じ名前だったからだ。

ってことは、もしかするとへんないちゃもんつけて連れ戻される可能性もなきにしもあらず、だ。
念には念を、だな。

「オリバー、ネストレさんをお前の助手でも何でもいいから、今日付けで契約することって可能か?」
「それは本人の許可を得れば可能ですが…どうしてです?」
「ネストレさんって、キャンベル商会の見学でポーション納品の時にやたら品質が良かった薬師だ。
納品の品質が前回と違って悪いもんがあるって受付でちょっと揉めててさ、俺が納品分のポーション鑑定したんだ。
結果は、薬師の腕の良し悪しだけだった。
他の薬師のは7割で買われたから、首を切られたっつってたけど連れ戻しにかかるかも」

「ならば、一筆書いておきましょうか。幸い今日は印章もありますし、簡略的であっても正式な書類として残しておけます。万が一のことがあれば使ってもらいましょう。
使わなければ使わないでエリソン侯爵領に戻ったときに無効とすればいいだけですから、期日はエリソン侯爵領に戻るまでとしましょうか」
「頼む」

元々キャンベル商会で契約するために二人して出かけたんだ。
時間があれば、その後デートするという予定で。
だから、各種書類を俺が持ち歩いていたし、オリバーはオリバーで、薬師としての契約時に使う印章も今日は持っていた。

オリバーは、上質な紙に、サラサラと雇用契約を記入し、サインを入れて印章を押した。
走り書きはクソみたいな文字でも、正式な文章だと品のある綺麗な文字で書けるのな。
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