土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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リーシャ、絵も描くってよ。

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「ところでねルーシー」

「はいリーシャ様」

「どうしたことかしら。私貴女のお陰でカイルにいじめっ子認定を受けているようなのだけれど」


 ソファーに座る私の前には、相変わらず見事なまでに美しい土下座をしたルーシーと、私とルーシーを交互に見て、私をペチペチと叩きながら「ママ、めっ」と怒っているカイル。

 カオスである。

「わたくしリーシャ様に謝らないといけない事がございます」

「これ以上カイルに冤罪の濡れ衣を着せられるのは嫌だから、まずは土下座をやめて座ってくれるかしら」

「はい申し訳ございません」

 ようやく顔を上げたルーシーは、おそるおそる私の向かいのソファーに腰を下ろした。

 丁度窓拭きを終えて顔を出したサリーにカイルをお願いする。

「しゃりー!」

 たたたっ、と走って抱きついてきたカイルを笑顔で抱き上げながら、

「サリーですよカイル坊っちゃま。今日はサリーが絵本を読みましょうか?」

「あい!」

 一礼して出ていくサリー達を見送ると、私はルーシーに確認した。

「謝るのは公式な方?非公式な方の私?」

「非公式な方でございます」

「じゃ図書室へ行くわ。紅茶入れて来てくれる?」

「かしこまりました」

 私は図書室へ先に向かいながら、はて何だろうかと考えていた。




「いつも思うけど、ルーシーの入れてくれる紅茶が一番美味しいわね」

 猫舌の私に合わせた少し温めのダージリンを飲みながら、私はルーシーを眺めた。

「それで?また新しい仕事でも引き受けてきたのかしら?今は『ヨーデル』の連載とたまの書き下ろし読み切りで手一杯よ」

「いえ、小説の方はそのペースで宜しいのですが………」

「はっきり言ってくれないかしら?
 昔からルーシーの土下座は結構心臓に悪いんだけど」

「実は、編集との打合せで先日カフェに入ったのですが………」



 いつものイザベラ=ハンコックのファンである三つ編みの小柄な編集者の女性と話をしていた際、飲み物がバッグにこぼれて慌てて拭いたのだとのこと。

「うん………?それがどうしたの?」

「その際に、片付けねばと分類していてひとまず仕事用のバッグに入れておいたリーシャ様のイラストが、彼女に見られまして」

「ひいいぃっ」

「『これは、これはどなたの作品ですかっ!』と恐ろしいまでの食いつきでございましたので、友人が私の小説を読んで描いてくれたと申しましたところ、『是非とも!是非ともイザベラ様の新作の挿絵をっっ!』と言う話になりまして」

「………なりまして?」

「次の新作は業界騒然のフルカラー挿絵を企画で通すからと言われ、わたくしの個人的なファン魂が燃え盛り、つい受けてしまいました」

「何を燃え盛らしてるのよルーシー!
 ていうかわざとでしょ?わざと見せたわねあの三つ編みさんにぃぃっ」

 私は羞恥で仮眠用のベッドにダイブした。


 そう、先日のカミングアウトで私は確かに大分気が楽になり、図書室ではこそこそ隠れることなく絵を描き散らしていたのは確かである。

 但し、あからさまな濡れ場は最初に一度描いたきりで、せいぜいがキスシーンやら抱き合うシーン程度のライトなモノである。

 ダークは読まなくていいと言ってるのに私の本が出ると必ず買ってくる。そして読んだ感想までくれるのだ。


 夫公認だから良いと思うだろうが、逆である。無茶がしにくいのだ。

 少々どエロい内容でも文言に気をつけるようになって、「イザベラの薄い本が洗練されたエロになった」「より高みに向かっている」と読者からの手紙が山のように届いた。
 洗練されたエロってなんだ。
 エロの高みってなんだ。

 まあそこはいいとして、絵となるとやはりピンポイントで濡れ場を求められる。
 いや、描けるよ、描けるけども、ダークに見られるのは恥ずかしいでしょうよ。

「ルーシー、ダークに濡れ場の絵はちょっと見せたくないと言うか………別のBL作家さんとかの作品になら何とか………」

 仕事で絵を描けるのは嬉しいが、旦那が読むのが確定してる本に何をやらそうとしてるのだ、私のメイド兼影武者兼ブレーン兼マネージャー兼護衛兼愛読者兼子守りは。

「何を仰るのですか。余所の作家の作品にリーシャ様の美しい絵を載せるなど有り得ません。先々断れずにやることがあったとしても、先ずはリーシャ様の作品でデビュー戦を飾らねば!」

「でもー、濡れ場はちょっとー………」

「あ、ちなみに原稿料は一枚辺りここまで出すそうです」

「………あら、小説書いてるよりも良いじゃない。むしろイラストだけ描いてく方が楽じゃないかしら私」

「わたくしを殺す気でございますか。小説も書いてイラストも描いてこそ、ダブルの収入ではございませんか」

「でも、イラストは時間かかるのよ」

「それなら三ヶ月に一度刊行していた新作の薄い本を半年に一回にしましょう。
 ヨーデルは、ネタに困ったらヒースクリフ誘拐させるか、川に落として現代に帰しときましょう。
 というかいっそのことイザベラ=ハンコック祭アゲインと銘打って、今までの作品全てに挿絵を付けて再販しましょう」

「………単にルーシーが欲しいだけなんじゃないかしらね」

「何を言うかと思えば。
 リーシャ様、カイル坊っちゃまもこれから生まれてくるお子様も、更にはまたその先のお子様も、子供というのは可愛いですが、お金はかかります。
 そして、稼ぐチャンスはモノにしないと、お子様に不自由な思いをさせてしまうかも知れません。
 有事の際に頼りになるものはお金です。お金が全てとは言いませんが、9割方の問題はお金で片付きます。旦那様が負傷して仕事が暫く出来ない、そんな時にも妻のヘソクリは大事ではございませんか」

「………確かにそうね」

「大丈夫です、基本的に旦那様はリーシャ様の全てがお好きですから、濡れ場イラストの一つや二つで愛情が揺らぐとも思えませんし、ぶっちゃけお喜びになるのではないかと」

「………そうかしら?ダークに破廉恥な女だと思われたら困るのよ」

「読者がいかに知人と会わず、店員とも目を合わさないまま会計まで済ませられるかを競うような小説を書いておられるのに今更感がございますが、それについて一つ耳寄りな旦那様情報が」

「な、何かしら」

「旦那様は、リーシャ様の新作が出る日はとてもソワソワしております。そして、屋敷に戻るまでも待てず昼休みには本屋まで出向き、執務室で仕事の合間に読み終えておられます」

「ルーシー貴女まさかダークのストーカー?」

「わたくしそんな時間の無駄遣いはしてる余裕がございません。御本人から直接伺いました」

「私の知らないダーク情報を知られてると悔しいのは何故かしら」

「全てリーシャ様に流れてますが、おイヤでしたら旦那様情報の収集は」

「続けてちょうだい」

「かしこまりました。それで話が逸れましたが、その後戻られて、かなり時間をかけてお風呂に入っておられますが、理由はご存知で?」

「………さあ?」

「いつ押し倒されてもいいように準備万端になさっておられるのです」

 飲みかけてた紅茶が噎せて気管支に入る。

「ぐぇほっ、ごほっ………何で押し倒すの私がっ」

「『いつも俺が、あー強引に誘っているようなものだから、本の感想を沢山言えばリーシャがいやらしい気分になって押し倒してくれるんじゃないかとだな』(発言ママ)だそうです。
 以前そう言う事があったとかで、ご記憶ありますでしょうか?」

「………………えーと、そんな事もあったかしら、ね」

 ルーシーになんてこと言ってるんだかあの人は。

 頬が熱くなる。

「まあ女性の気持ちに疎いのを自覚しておられるので、打ち明け話をするのがわたくし位なのでございますよ。
 ですが、『昨日もダメだった………俺にはやはり魅力が足りないのか………』などと仰る旦那様が不憫で………。
 そんな訳で、むしろ少し位破廉恥な方が旦那様も喜ばれるかと思いますわ」

「そうだったのね………ダークが喜ぶなら描くわ!」

「おゼゼも旦那様のハートも鷲掴みと言うことで、是非ともフルカラー8ページ、来月の10日までにお願い致します」 

「分かったわ。ダーク情報ありがとうルーシー!」

「わたくしもリーシャ様を思う余りに先走った行動をしてしまい申し訳ございませんでした」

「気にしないでちょうだい。シーンの下書きをするから暫くカイルがぐずったらお願いしていいかしら」

「かしこまりました」



 頭を下げて廊下に出たルーシーが、メモ帳を取り出し、

「旦那様に、次の新作は心して待つよう伝言。
 リーシャ様にはなし崩しでイザベラ=ハンコック祭アゲインの了承を得ること。」

 とカリカリとペンを走らせていたことなど知るよしもなかった。






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