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その78 スティーブという男

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 「今、なにか聞こえませんでしたか?」
 「ええ『みゃー』と猫の声が聞こえたような……」
 
 くそ、この距離でも聞こえているか……!
 とりあえずごついおっさんが『みゃー』とかいうな、魔法使いっぽい女性に言わせろよそこは!
 
 「みゅ……!」
 「みゃー」
 「わ!? 珍しく暴れているわ、どうしちゃったのかしら?」
 
 俺やネーラの手から抜け出そうと必死にもがく子猫達を抑えながら俺達は後退をを開始し、シュネに声をかける。

 「逃げるぞシュネ!」
 <……待って、あの人間達が持っている箱、あれが気になるわ。子供たちを頼むわね!>
 「おい!?」

 木の上で目を細めていたシュネが飛び降りて、俺達のところへ来ようとしていた人間達の前に立ちふさがった。コテツ達といい、一体どうしたんだ!?

 「こいつは……!?」
 「お、おお……でかい……」
 「……あなたは文献で見たことがある『精霊』……お猫様というやつですか?」
 
 体のでかい剣士が一瞬怯み、タキシードを着た銀髪の男がシュネと正面に立って尋ねると、シュネはゆっくりと頷いてから口を開く。

 <そうよ。あなた達人間に追われたエルフの守護精霊、それが私。こんな果ての島までなにをしに来たのかしら? その箱の中身も知りたいわね>
 
 シュネの言葉に銀髪男の後ろに待機している人間達がどよめく。中には『本当にまだ生きていたのか』などと困惑している者もいた。
 すると銀髪の男は目を見開き口を半月状に歪めて笑いながらシュネに向かって駆け出す。

 <……!>
 
 みたところ武器は無い。が、他に攻撃手段がある可能性も考えられると俺が息を飲んでいると、男は両手を広げて、迷いなくシュネに突撃してきた。

 「くっ……!」
 「スミタカ!?」

 俺は限界だと感じ、危険を知らしめるため大型の打ち上げ花火を発射した。流石にエルフやドワーフの集落には歩いて三日かかるような距離なので心もとないが、近くにノームの集落があるので、蝸牛精霊の‟スネイル”が気づいてくれるはず。
 
 「な、なんだ!?」
 「なにかが空で爆発したぞ!」
 「ど、どうする……!?」

 直後、場が騒然となるが銀髪男の足は止まらないのを見て俺は驚愕する。あいつ、怯みもしないのか!?
 
 「ああ、お猫様!?」
 
 ネーラが叫んだ瞬間――

 <ふん!>
 「へぶ!?」
 「「ああ、スティーブの旦那ぁ!?」」
 
 「みゅー♪」
 「みゃー♪」
 「おお……」

 シュネの鋭い尻尾の一撃が銀髪男、スティーブとやらを地面に叩きつけ、地面に伏していた。しかし、スティーブはすぐに顔を上げて倒れた状態からシュネの懐へ飛び込んでいく。

 <この男……!?>
 「フッ」
 
 不敵な笑みを浮かべたスティーブは尻尾と前足を搔い潜り、まんまとシュネの懐へ入り込んだ彼は再び両手を上げて――

 「おお……フカフカ……」
 <え?>
 「スティーブさん、フカフカですか!?」
 「ええ、見た目通り……これはいいですね……」
 <なんなの……?>

 体をシュネに寄せてモフモフを味わうスティーブ。そこへ、魔法使いの女性が近づいてきて恐る恐るシュネに声をかけた。

 「あの……私もモフモフしていいですか……?」
 <……いいわよ>
 「やった! お猫様大好き! ふわああ……」
 「な、なんなんだ一体……?」
 「みゅー」
 「あ、コテツ!?」

 まったく訳が分からない光景に俺が呆然としていると、コテツが俺の手から逃れて木箱へとダッシュしたので慌てて追いかける。

 「スミタカ!?」
 「おお!? 草むらから亜人……じゃない、人間が出てきた!?」
 「向こうにエルフが居るぞ!?」
 「やっぱり絶滅していなかったんだ!!」

 俺が姿を現すとネーラも立ち上がって姿を見られたので場は騒然となり、向こう側の人間は全員固まった。
 コテツが木箱に爪を立てていたので回収し、上から覗き込むとそこにはなんと大量の猫が入っていた!

 「にゃーにゃー♪」
 「みゃーん!」
 「にー!」
 「うわ、凄い数の猫!? こっちは犬……うさぎもいるのか!?」

 向こうの大陸は絶滅したんじゃなかったのか? 俺が立ち尽くしていると、しこたまモフっていたスティーブが俺に話しかけてきた。

 「あなたは人間のようですが……あちらはエルフですね? 一体どういうことなのでしょうか……?」
 「そりゃ俺のセリフだ! お前達一体なにをしにこの島に来たんだ?」
 「ふむ、あのエルフと良好な関係のようですね? 申し遅れました、私はステ――」

 <おおおお! 人間がいっぱいいるよ! スミタカ、今助けるからね!>
 「ふぅぅぁぁぁ!?」
 「あ!?」

 自己紹介をしようとした瞬間、猛スピードで突っ込んできたスネイルに突撃され、彼は宙を舞った――

 ◆ ◇ ◆

 <ごめん、僕の早とちりだったよ>
 「いえいえ、構いませんよ。ノームともこうして会えることになったわけですし」
 「カタツムリって足速いんだな……」
 「いや、精霊だから特別なんでしょ?」
 <スミタカの作ってくれた大根の葉っぱを食べたら元気になったんだよ! こんくりーとっていう石も食べて殻も硬くなったしね>
 「それで、敵意は無いみたいだけどマジでなにしにきたんだ?」
 「そうですね、そこからお話すべきでしょう。ああ、エルフのお嬢さんは離れていていいですよ、過去の人間はまさしく外道でしたからねえ」

 という感じで人間達と会話をしていた。念のためネーラはシュネの背に乗ってもらい、いつでも駆け出せる状態を維持。女魔法使いがずっとモフっているが、まあそれはいいだろう。

 「では改めて自己紹介を。私の名はスティーブ。キンクネリ王国が領のひとつであるブラウロフ侯爵にエルフを捕えてくるよう依頼された者」
 「……お前!」

 俺は怒声を発するが、スティーブは待てというように手のひらを俺に向けた後、ポケットから鎖のついたメダルのようなものを取り出してから続ける。

 「……というのは別の顔で、私の本来の任務はキンクネリ王国の陛下に仕える人間です、はい」
 「国王の遣いだと……?」
 「ええ、私に指示された命令はひとつ。亜人種たちとの和解です」
 「なんだって!?」
 <人間が和解だって?>

 俺とスネイルが驚く中、スティーブは微笑みを浮かべ、そして話を続ける――
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