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その77 予想を越えた事態
しおりを挟む――というわけで、こちら側の人間を追い払うために俺達は一致団結して島の改造を開始。昼夜の交代をローテーションを組んで作業にあたる。
主に道路の整備と、各村に設置するバリケードに見物やぐらと、一旦やめておこうと思っていた水路などの作業を進めていく。
『水さえあれば海に通じることも可能……そうすれば私の力は無限大……!!』
というディーネの声を受けて着手していたりする。
精霊の力が五人分になったので結界の強化を図れるが、あえて数人を招き入れて警告しようということに決定した。
三日ほど経った今、たまに肉を差し入れたりしながら作業を続けているが、そろそろ偵察もすべきかと俺はシュネに近づいていく。ちなみに真弓は仕事でここに居ないのでチャンスだ。
「シュネ、北の岬まで連れて行ってくれないか?」
<……偵察?>
「だな。お前とヤマトが見たという人間が今どうしているかを知りたい」
<分かったわ>
「よし、それじゃ子猫をフローレに――」
と、移動しようとしたところで子猫たちが爪を立てて俺の腕にしがみ付いて抗議の声を上げてくる。
「みゅー!」
「みゃー!」
「痛っ!? 危ないから留守番しててくれよ、フローレなら慣れてるだろ?」
「みゃっ」
キサラギは短く鳴いてそっぽを向き、コテツは俺の胸元に顔を摺り寄せて離れようとしないので、どうするかため息を吐く。
<まあ偵察だけだし、いいんじゃない?>
「そうか……? それじゃ、行くか」
「そうね」
「うわああ!?」
「どうしたのスミタカ?」
「みゅー♪」
シュネの背中にまたがると、すぐ後ろでネーラが返事をして俺はびっくりして転げ落ち、不思議な顔で見下ろす彼女に声を荒げる。
「どっから出てきたんだよ!? 急に話しかけられたらびっくりするだろうが」
「ちょうど呼びに行こうと思ってた声をかけようと思ったら『偵察に行く』って聞こえたんだもん」
「いや、危ないし子猫を預かってくれよ」
「スミタカは武器もないし、そっちの方が危ないわよ。大丈夫、お猫様が一緒なら」
<ひとりくらい居てもいいと思うわ。話したいこともありそうだし、ね?>
「う……」
「ん……?」
シュネに言われて顔を赤くするネーラを訝しむが、行く気は変わらないようなのでミネッタさんに挨拶をして村を出ることにした。
「ミネッタさん! ちょっと上陸した人間の様子を見てくるよ」
「いいのか? ネーラ、スミタカに危険が無いよう守るのじゃぞ」
「はい!」
「見つかったらすぐ逃げるんじゃぞ!」
「ああ! 状況を見たらすぐ戻るよ、真弓が来たらそう伝えておいてくれ。シュネ、頼む」
<しゅっぱーつ♪>
「みゅーん♪」
「みゃーん♪」
シュネがのんきな声を上げ、子猫たちも合わせて合唱するのが微笑ましいなと思いながら、俺達は北の岬を目指す。後ろではネーラが抱き着いてきており、大きな胸の感触が伝わってきてちょっと照れくさい。
「……くっつきすぎじゃないか?」
「話があるのよ……その、この前オーガ村のこと覚えてる?」
「あ、ああ……」
抱いて欲しいようなことを言っていたあの時のことだろう、照れくさそうにネーラが続ける。
「もし……もしも、人間に負けちゃった場合、多分捕まるわよね? そうなったら襲われるわ、だからその前に……して欲しいの……」
「……」
いつもさっぱりした感じの性格なネーラがもじもじしながら言うのエロい。
真弓やフローレと違い、出るとこが出すぎているから破壊力がやばい……しかし、万が一は確かにある、か……。
「……考えとく」
「……! うん!」
恥ずかしいので後ろは振り向かずに一考すると伝えると、嬉しそうな声が。あんまり俺に言い寄ってこなかったのはもしかして真弓に気を遣っていたのだろうか……? だから二人きりの時だけ言ってくるとかか?
それは本人にしか分からないが、約束してしまった以上なんとかしないといけないかもしれないな……
「ちなみにフローレもよ?」
「……」
一夫一妻の世界に生まれたはずなのにどうしてハーレムみたいになっているのか分からないがフローレは希望通りにしてやろうと思う。ドMだし。
そんな会話をしているとあっさり北の岬付近へ到着すると腰をかがめ、茂みに隠れて移動する。
(……五十メートルほど先に居るわ)
透けることができるらしいシュネが木の上から脳内に直接語りかけてきて驚いたが、子猫が鳴かないよう抱っこし顔半分だけだして様子を伺うと――
「……そろそろ食料を持ってきて欲しいっすね」
「もう来ると思うんだが、まあ気長に待とうや。頼まれたのは拠点づくりだけだし」
「これも失われた魔法なんですってね。……エルフに会うのが待ち遠しいわ」
「だな、ドワーフにノーム、ホビットはまだ生きているといいが――」
「でなきゃ骨折り損ってやつっすよ。わざわざこんな辺境の島に来たってのに報酬の三分の一しかもらえないとかないっす」
「でも結界があるから居るんじゃない? この結界中和装置が役に立ったし」
「ああ、スティーブの旦那が来るのが待ち遠しいな」
――コテージのような建物がいくつか立ち並び、その中央で鎧をまとった男や、魔法使い風の女にいかつい戦士と小柄な男が焚火を囲んで談笑していた。キャンプ道具みたいな立派なものだ。
コテージもそうだが、装備や服を見る限り、見た目より文化レベルは高いらしいと、俺は冷や汗をかく。日本の明治くらいはあるかもしれない。
「もう拠点ができているのか……シュネの話だと、つい先日上陸してきたばかりじゃなかったか?」
<(そうね……あんな家は一つも無かったし、更地でもなかったもの)>
「本格的に侵攻するため待っているのか? ……到着する前にこいつらだけでも捕えておくべき――」
「待ってスミタカ、あれを」
「……な!?」
ネーラが慌てて俺の肩を叩きながら指差した先を見て俺は驚愕する。なぜならいつのまに着いたのか、遠くに巨大な船があり、そこから人間がどんどん降りてきたからだ。
「これは……まずいぞ……、あんなにでかい船だとは思わなかった」
「スミタカ……」
ネーラが心配そうな声を出した瞬間、子猫たちが尻尾をぴんと立てて俺の懐から顔を出すと――
「みゅー!!」
「みゃーん!!」
「あ、馬鹿!?」
二匹がけたたましく鳴き始めた!
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