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第四章

第131話 接敵

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「では行ってくる」
「無理しなくていいから、普通の冒険者として振舞って欲しい」
「わかりました。シャルル様によろしく伝えて置いてください」

 ――偵察について詰めたところ、騎士と冒険者混合パーティで行うこととした。
 
 信用できそうな人間と騎士で各地を回ってもらう形だ。密告者が居てもおかしくないため、騎士以外を使うのはリスクが高いが、防衛にも手を回さないといけない。
 拠点の位置は教えていないため万が一密告があったとしても山に行きつくまでにどこかで止めることができるはずだ。

 ひとまず南を調査するかとフグラの町から数人が旅立つことに。
 シャルとひと悶着あったらしいグレンという男のパーティが買って出てくれたのだ。

「グレンだっけ? シャルには伝えておくよ。ともあれ無事で戻って来てくれ」
「リクさんか。なに、冒険者は荒事に慣れているから旅の一つと思えば問題ない。こっちを頼みますよ」
「任せとけ」

 握手ができないのが勿体ないなと思いつつ、騎士と一緒に旅立ったグレン達を見送る。ヴァイスでここまで来ているが、シャルは拠点にて待機だ。

「我々の隙が大きい間になんとかするのだな」
「なんだよ、お前はどっちの味方なんだ」

 そこで同じく拘束されたまま連れて来られていたグライアードのトルコーイがそんなことを呟く。隙がある間に叩けばいい、まるで敵のようなことを。

「もちろんグライアードだ。しかし内部事情はあるからねえ。人物によっては倒されたほうがいい人間だっているだろう? ジョンビエルなんかはよくやってくれたと思うよ」
「変な奴だな」
「お前さんに言われたくはないねえ。ま、ゼルシオの無事が確認できる間は適当に過ごすさ」
「……フレッサー将軍ってのはどういうやつなんだ?」

 くっくと笑うトルコーイに王都を占拠している首魁の名前を出してみる。そこでタブレットを持っている騎士と、トルコーイの顔色が変わったのを見逃さない。

「結構やばい奴なのか?」
「……まあ、この状況を見れば概ねってところだねえ。男は皆殺しで女子供は労働力。しかも自分の手は汚さない」
「なるほど」

 狡猾だなと俺は舌打ちをする。なにかあった時に『部下が勝手にやった』とでも言いたいのかもしれない。

「ただ僕達も負けるつもりはなかったし、虐殺をする気も無かった。将軍がなにを考えているかわからないが、この広いエトワール王国を隅々まで見ることは不可能。ジョンビエルやディッター、カンあたりは忠実に命令を聞こうとしていたが、隊長クラスでも疑問を抱えている者は多い」
「だからビッダー達はこっちについたのか。イラスも困惑していて本来の実力は出し切れていなさそうだった」

 俺がそういうと神妙な顔で小さく頷く。そこでエトワールの騎士が口を開く。

「敵の隊長がいるところでこんな話をするのもどうかとは思うのですが……噂だとフレッサーという男は切れ者であり強者です。ただ、傲慢なところがあって嫌いな人間は多い、と」
「はは、隣国にも知れ渡っているのか! ま、彼ならそう言われても仕方がない」

 どうやら噂に違わぬ人物で合っているらしい。もう少し思慮に欠けているとかなら付け入るスキはありそうだが……

「ま、今はいいか。またなんか聞きたいことがあれば来るぜ」
「はいそうですかと言うと思っているのかい君は」
「それもそうか。そんじゃ行こうぜ」
「ハッ」
「ああ、そうだ」
「ん?」

 俺は監視役の騎士にトルコーイを引き渡してヴァイスへと戻ることにした。すると歩き出そうとしたトルコーイが思い出したかのように口を開く。

「リント・アクア、という隊長と出くわしたら仲間は下げてお前一人で戦うといい」
「? どうしてだ?」
「武人肌の女で腕が立つ。やむを得ないとなれば容赦なく操縦席を狙ってくるような人間だ」
「……いいのかそんな情報を口にして」
「どちらにせよ今のままではあの白い魔兵器《ゾルダート》には勝てない。泥沼になってお互いの部下を殺すより、倒して捕虜にしてもらった方がこちらは助かるのだ」

 鼻を鳴らして俺を一瞥すると騎士と共にどこかへ歩いて行った。まあ規格外だし、仲間が殺されるのは御免ってところか。トルコーイは悪い奴じゃないなと感じる。

<マスターはこれからどうしますか?>
「相手の動きが見えない以上、拠点かな。ああ、そういやオンディーヌ伯爵が物資を送ったとか北のリリアのギルドに連絡があったらしい」
<迎えにいきますか?>
「ヴァイスだと目立つし……とりあえず意見を聞いてみるか」

 今さらだとも思うが、これでもレーダーを使い、森の中に隠れたりして移動しているんだよな。
 この有利をもってなるべく撃滅していきたいところだ。

◆ ◇ ◆

『――ディッター殿、この方角でいいのか?』
「ああ、地図は手に入れている。私が撤退をすることになった町の方へ行くにはこのまま進めばいい」
『了解だ』

 リントとディッターはすでに機能していない国境を越えると、西へ進路を取った。
 目的は落石で道を塞がれた先である。
 逃げ出したエトワールの人間達はどこかに潜伏、もしくはあの近くの町に居るはずだと。
 移動スピード自体は馬車などのおかげで上がってはいないが地図があるおかげで迷わず向かうことができていた。

「さて、現地人でも見つかるといいのだがな」
『地図があるなら町へ行った方がいいのではないか?』
「いや、向かう先にある町はこちらを知っている可能性がある。罠を仕掛けられていてもおかしくはないだろう」
『なるほど、一理あるな』

 人質にでもすれば話は早いかとディッターが頭で考えていたころ、部下の魔兵器《ゾルダート》から連絡が入る。

『ディッター様、丘の下にキャラバンらしき一団が』
「ほう、これは」

 ディッター達が見つけた一団……それはオンディーヌ伯爵が送った輸送隊だった――
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