魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪

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第四章

第130話 偵察

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「偵察ですか?」
「ああ。拠点は今後このまま運営していく。けど反抗作戦のために下地は必要だ。そしてそれは早いほどいい」
「……確かに。捕獲したグライアードの人間は人質にならん以上、戦力を整える必要がある。そして地形の把握も然り」
<今までみたいに町に来た者を叩くというわけにはいきませんからね>

 ――とある日に主要人物を集めての会議を開いてもらった。現状、物資と人材については問題がないらしい。
 町二つを抑えているので当面は心配が無さそうだ。肉はその辺に魔物がいるのでそれを狩っていたりする。
 野菜なんかは少し時が経てば拠点でも採れるだろうとのこと。

 というわけで当面の問題はやはり戦闘と戦術面になる。そこで俺の考えていた偵察のプランを伝えた。とはいえ、殆どはサクヤが計算して思案したものなので俺が偉そうに言えるものではないんだけど。

「……なるほど、各町から数キロの範囲をローテーションで」
<ええ。相手の部隊もあちこちに散っているようです。イラスさんの話だと南側に進軍している者もいるみたいですし、周辺にグライアード軍が確認できなければ王都へ向かうのも手かと>
「いいんじゃない? どうせフレッサー将軍ってのを倒さないと解放できないし、サッと確認してパッと倒しちゃうのも。師匠とあたしが居れば兵士はなんとかなると思うし」

 シャルも賛成だと口にする。
 まあ、正直なところこの山はエトワール王国の王都とグライアードへ行くための国境の間にある山なので、挟み撃ちを食らう可能性を考えると王都は取り戻しておきたい。

「わかりました。偵察隊のメンバーはどうしますか?」
「冒険者を使う予定ね。わたしもクレールでこっそりついて行くわ」
「ダメです! もう、ちょっと甘やかすとすぐこれなんですから……」
「ええー」
「今回はアウラ様の言う通りじゃな。偵察は騎士や冒険者達に任せておけ。上の者というのは待つのも仕事じゃからな」

 アウラ様の視線から顔を逸らしつつ冷や汗をかくガエイン爺さん。グラップルフォックスの時に色々怒られたようで、シャルはなるべく戦闘に出さない方向になった。
 もし出る時は俺のコクピットに乗る必要があるのだ。

「まったく……困った妹ですね。ねえ、レサル」
「きゅーん!」
【きゅおん】

 アウラ様は口を尖らせながらテーブルに乗せた子フォックスの頭を撫でる。
 あれからしばらく放置されていたがアウラ様が「レサル祈る」という名前をつけてあげたのだ。
 親フォックスもアウラ様の傍でお座りをして子供の様子を伺っていた。

「仕方ないわね。なら、みんなに任せたわ! 情報、待っているからね」
「「「ハッ!」」」

 それからオンディーヌ伯爵へ拠点が決まったことを教えるため伝令を出すことを決定し、その場は解散となった。
 完全不利の状況からようやく7:3くらいまで持って来れた気がするな。

「……一気に攻めるべきかしらね」
「そうだな……いや、出来れば王都の状況を知りたいよな」
<マスター、シャル様にそういうことを言うのは止めてください>
「なんでよ!?」

 あー、確かに単独で行ってしまうだろうなとタブレット端末の俺は頭を掻く。
 シャルは気軽に話せる相手ではあるが第二王女なので、迂闊に口にしない方がいいだろうと、脳内にサクヤに窘められた。

「……よし、とりあえずシャルはアウラ様とどんと構えて待っていてくれ」
「あれ!? リクが手のひらを返した!?」
「まあ、危険なことはしない方がアウラ様に怒られなくていいだろ。お前が強いのはわかるけど、なにが起こるか分からないのが戦争だ。お前は王族で死ぬわけにはいかない」
「むう、お姉さまが居ればいいと思うんだけど……」

 シャルが本気でそう言うが、俺はそれに対して続ける。

「逆だ。、次にみんなを先導するのはお前になる」
「……! それは――」
<いえ、シャル様、それはあり得る話です。あなたは強い。だからこそアウラ様の護衛としても妹としても、王女としてもここに残るべきなのです>
「う……」
<今までは遭遇戦ばかりでしたのでシャル様も参加していましたが、拠点が出来たので後は騎士やわたし達に任せていただきたいですね>

 サクヤが珍しく饒舌に語り、シャルへ理由を告げた。タブレット端末を覗き込みながら、シャルは泣きそうな顔をして表情を歪めていた。
 できるけどやるなと言われればこうなるだろう。俺だってヴァイスという特機を手に入れたが、突然の奇襲でやられてこの世界に来た。
 
 ――絶対はない。

 拠点を手に入れた今、アウラ様とシャルは特に安全に立ち回るべきなのだ。立場を考えて動かなければならない。

「わかった……」
「俺の身体が治れば潜入捜査くらいはできるんだがな」
<残念ながらまだ……>
「そうか」

 今さら生命活動が止まったと言われてもがっかりはしないだろうな。ヴァイスに馴染みつつあるし、意識があるなら悪くない。
 
「ちょっとお姉さまのところへ行ってくるわね」
「ああ」
<また>

 シャルが降りていき、俺はタブレット端末からヴァイスに意識を移す。
 そこでサクヤが語り掛けてきた。

<王都への突撃、どう思います?>
「……俺は悪くないと思っているけどな。ただ、アウラ様とシャルの両親が人質になっているかどうか、それと同じくらい国民は大事だろう」
<だから行かない、と?>
「そうだ。だけど……ひとつ、最悪の手段がある」

 俺はサクヤの問いに一つ真面目な声で言う。

「……ヴァイスがアウラ様とシャルの知り合いということが分からない内に王都に単騎突撃して陥落させるとかな」
<それは……悪いですね>
「だろ? まあ最悪それくらいはできるぞってことだ。……犠牲を考えなければいくらでも考えようはある」

 俺がヴァッフェリーゼのパイロットに選ばれたのは操縦技術以外では「こういうところ」を認められたからだ。
 
「さて、偵察か。誰かにタブレット端末を持ってもらうかなあ」
<光学迷彩が使えれば楽なんですが、G装備にしかありませんからねえ>
「なんか装備が欲しいよな……」

 今はこちらを舐めてもらっているから勝てているが……俺はそんなことを思いつつ偵察について考えるのだった。
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