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第三章
第91話 対決
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「メインはワシでいい。二人はこやつの行動範囲を制限してくれ」
「オッケー!」
「わ、わかりました……!」
師匠の言葉にあたしはすぐグラップルフォックスの背後に回り込み挟む形に。イラスも剣を抜いてヤツの左側面へと移動する。
こいつは動きが素早いため攻撃を仕掛けた後、すぐに離脱する戦法をとってくる。
だけど囲んでいれば次に移動する場所をある程度制限できるため、取り囲むのが一番いいのだ。
【グルゥゥウ……】
「悪いが毛皮になってもらうぞ」
【……!】
師匠が言葉を発しながら一足で魔物へと差し迫る。こうなれば右に逃げるしかない。あたしがピクリと足を動かそうとしたところでグラップルフォックスが驚くべき行動に出た。
【キューン!!】
「む……! 突撃してくるか!」
身を低くして師匠の方へ突っ込んで行ったのだ。危険察知能力が高い個体ほど自分が有利な状況で戦うため行動するためこれは驚いたわね。
しかし意表を突かれたものの、ウチ師匠がその程度のイレギュラーに対応できないわけがない。
「フッ! ハァッ!」
【ギシャァァ……!!】
師匠の剣を爪で弾き、そのまま喉へ噛みつこうと体を伸ばしていた。だけど弾かれた剣をすぐに魔物の胴体を薙ぎ払うように振るう師匠。
【……!】
「ほう!」
するとその瞬間、グラップルフォックスはその場に伏せてそれをやり過ごした。触れた背中の毛がふわりと舞い散っているのが見えた。なるほど、伊達に数年逃げおおせたわけじゃないか。
「まさか立ち向かうとはね、イラス、行くわよ! ”疾風”」
「は、はいぃ!」
あたしは右へ移動しようとした足を前に出して真っすぐグラップルフォックスへと向かう。この間にも爪と牙を使った攻撃が師匠を狙っているので隙ありと見た。
師匠は大剣という小回りが利かない武器でよく捌いているわねえ。
【キュルルル……!】
「チッ、避けるのう」
「まあ、このくらいならやるでしょうね。こいつ賢いし!」
「わ、わたしも行きますよ……!」
疾風を横に飛んで回避され、師匠もその動きについていく。毛は刈り取っているけど、身体が柔らかく致命傷にできる一撃はしっかり避けている。
そこでイラスが体ごと突き刺しにかかった。
【……!】
「やっ!」
いつものオドオドした感じとは裏腹に鋭い突き。努力をしたというのは間違いないと思わせる。
「……!? かわされた!」
それを間一髪避けたグラップルフォックス。だがこちらは二人残っている。
「こっちにもいるわよ?」
「もらったぞ!」
【……!?】
あたしの攻撃が尻尾にヒットし、師匠の攻撃は右肩に食い込んだ。尻尾はともかく、肩からは鮮血が飛び散った。
【きゅぉぉぉん!!】
「効いてます! と、とどめ……!」
「これで終わりよ!」
師匠の剣が抜けず、その場に縫い付けられるような状態になったグラップルフォックスに最後の慈悲を与えるためにイラスと左右から仕掛ける。
身体を動かせないので長い尻尾を振り回して牽制してきた。もちろんそれに当たってあげるつもりはない。ステップで回避し首を狙う。
もらった! そう確信したところで――
【きゅぅぅぅん……!】
「え!? なに!?」
「シャル!」
――草むらからあたしに向かってなにかが飛び出してきた! もしかして仲間!? まったく気配を感じなかったことに驚く。
そしてあたしのブーツにしがみつく何かに視線を移す。
【きゅ……きゅ……】
「ええ?」
そこには目の前で血を噴出しているグラップルフォックスの小さいやつが必死に噛みついていた。
もちろん力も無いし、痛くも無いのでひょいっと摘まみ上げる。
【きゅおおおおおおお!?】
「あ、もしかしてあんたの子だったりするの?」
【きゅーんっきゅーん】
「噛みつかないの」
【きゅ】
【きゅううううう!?】
子フォックスが腕に噛みつこうとするので口を閉じさせて置いた。危害を加えられると思ったのか激しく動いて血が飛び散った。
「むう、これはちと困ったのう」
「うーん、わかるかしら? ほら、大丈夫だからこの子には何もしないって」
【くぅ~ん】
「あ、いいなあ」
顎を撫でてやるとごろごろと嬉しそうな声をあげる。手足が真っ黒で靴下みたいに見える。
「師匠、剣を抜いてあげて」
「……ふう、わかったわい」
【グルゥ……】
血を流しすぎたのかその場で倒れるグラップルフォックス。あたしを睨みつけてくるけど動かないのは子供が手の内にあるからかしらね?
そんなことを考えながらカバンからポーションを取り出して傷口に流し込んでやった。
【きゅぅうぅ……】
「はい、痛いわね。はあ、あんたを狩らないといけないのに、これじゃできないじゃない」
【きゅん?】
「ああ、可愛い……」
頬ずりをしてくる子フォックスにメロメロなイラス。あたしは片膝をついて親フォックスへ話しかけた。
「このまま返してもいいんだけど、他の冒険者達に狩られちゃうのよあんた」
【……】
「この子も一緒に」
【グルゥゥ……!】
お、首を搔っ切る仕草をすると威嚇してきたわね。ちょっとは理解できているのか。
「だから……あんた、あたし達と一緒に来ない?」
「え!?」
「まあ、それがいいかもしれんのう」
「ガエイン様まで!? 魔物ですよ魔物!」
イラスが目を見開いて驚くけど、あたしは珍しくないと口にする。
「さっきも言ったけどテイマーとして連れて行くなら大丈夫なの。この森より拠点に連れて行ったほうがいいんじゃないかなって。ウチのペットとして置いとけば魔物避けにもなりそうだし。ねー?」
【きゅーん♪】
「ペット……」
親フォックスに視線を合わせて冷や汗をかくイラス。まあ、少しでも伝わればいいけど、どうかしらねえ?
すると親フォックスはよろよろと立ち上がり、あたしの正面に立った。
「……」
【……】
そして――
「あ」
――親フォックスはあたしに鼻先を擦りつけてきた。
これは服従の証で負けを認めた時にやる仕草だ。これでこの親フォックスよりあたしの方が上という形になる。
「よし決まり! それじゃ町へ帰るわよ!」
「ええー……だ、大丈夫なんですか?」
「まあ、人に危害を加える存在が居なくなればいいのじゃから構わんだろう」
師匠がそう言って笑いながらイラスに話していた。
子供が居れば気が立つのはわかるけど、なんとなく腑に落ちないわね?
あたしの中に言い知れぬもやもやが胸中にあった。
「オッケー!」
「わ、わかりました……!」
師匠の言葉にあたしはすぐグラップルフォックスの背後に回り込み挟む形に。イラスも剣を抜いてヤツの左側面へと移動する。
こいつは動きが素早いため攻撃を仕掛けた後、すぐに離脱する戦法をとってくる。
だけど囲んでいれば次に移動する場所をある程度制限できるため、取り囲むのが一番いいのだ。
【グルゥゥウ……】
「悪いが毛皮になってもらうぞ」
【……!】
師匠が言葉を発しながら一足で魔物へと差し迫る。こうなれば右に逃げるしかない。あたしがピクリと足を動かそうとしたところでグラップルフォックスが驚くべき行動に出た。
【キューン!!】
「む……! 突撃してくるか!」
身を低くして師匠の方へ突っ込んで行ったのだ。危険察知能力が高い個体ほど自分が有利な状況で戦うため行動するためこれは驚いたわね。
しかし意表を突かれたものの、ウチ師匠がその程度のイレギュラーに対応できないわけがない。
「フッ! ハァッ!」
【ギシャァァ……!!】
師匠の剣を爪で弾き、そのまま喉へ噛みつこうと体を伸ばしていた。だけど弾かれた剣をすぐに魔物の胴体を薙ぎ払うように振るう師匠。
【……!】
「ほう!」
するとその瞬間、グラップルフォックスはその場に伏せてそれをやり過ごした。触れた背中の毛がふわりと舞い散っているのが見えた。なるほど、伊達に数年逃げおおせたわけじゃないか。
「まさか立ち向かうとはね、イラス、行くわよ! ”疾風”」
「は、はいぃ!」
あたしは右へ移動しようとした足を前に出して真っすぐグラップルフォックスへと向かう。この間にも爪と牙を使った攻撃が師匠を狙っているので隙ありと見た。
師匠は大剣という小回りが利かない武器でよく捌いているわねえ。
【キュルルル……!】
「チッ、避けるのう」
「まあ、このくらいならやるでしょうね。こいつ賢いし!」
「わ、わたしも行きますよ……!」
疾風を横に飛んで回避され、師匠もその動きについていく。毛は刈り取っているけど、身体が柔らかく致命傷にできる一撃はしっかり避けている。
そこでイラスが体ごと突き刺しにかかった。
【……!】
「やっ!」
いつものオドオドした感じとは裏腹に鋭い突き。努力をしたというのは間違いないと思わせる。
「……!? かわされた!」
それを間一髪避けたグラップルフォックス。だがこちらは二人残っている。
「こっちにもいるわよ?」
「もらったぞ!」
【……!?】
あたしの攻撃が尻尾にヒットし、師匠の攻撃は右肩に食い込んだ。尻尾はともかく、肩からは鮮血が飛び散った。
【きゅぉぉぉん!!】
「効いてます! と、とどめ……!」
「これで終わりよ!」
師匠の剣が抜けず、その場に縫い付けられるような状態になったグラップルフォックスに最後の慈悲を与えるためにイラスと左右から仕掛ける。
身体を動かせないので長い尻尾を振り回して牽制してきた。もちろんそれに当たってあげるつもりはない。ステップで回避し首を狙う。
もらった! そう確信したところで――
【きゅぅぅぅん……!】
「え!? なに!?」
「シャル!」
――草むらからあたしに向かってなにかが飛び出してきた! もしかして仲間!? まったく気配を感じなかったことに驚く。
そしてあたしのブーツにしがみつく何かに視線を移す。
【きゅ……きゅ……】
「ええ?」
そこには目の前で血を噴出しているグラップルフォックスの小さいやつが必死に噛みついていた。
もちろん力も無いし、痛くも無いのでひょいっと摘まみ上げる。
【きゅおおおおおおお!?】
「あ、もしかしてあんたの子だったりするの?」
【きゅーんっきゅーん】
「噛みつかないの」
【きゅ】
【きゅううううう!?】
子フォックスが腕に噛みつこうとするので口を閉じさせて置いた。危害を加えられると思ったのか激しく動いて血が飛び散った。
「むう、これはちと困ったのう」
「うーん、わかるかしら? ほら、大丈夫だからこの子には何もしないって」
【くぅ~ん】
「あ、いいなあ」
顎を撫でてやるとごろごろと嬉しそうな声をあげる。手足が真っ黒で靴下みたいに見える。
「師匠、剣を抜いてあげて」
「……ふう、わかったわい」
【グルゥ……】
血を流しすぎたのかその場で倒れるグラップルフォックス。あたしを睨みつけてくるけど動かないのは子供が手の内にあるからかしらね?
そんなことを考えながらカバンからポーションを取り出して傷口に流し込んでやった。
【きゅぅうぅ……】
「はい、痛いわね。はあ、あんたを狩らないといけないのに、これじゃできないじゃない」
【きゅん?】
「ああ、可愛い……」
頬ずりをしてくる子フォックスにメロメロなイラス。あたしは片膝をついて親フォックスへ話しかけた。
「このまま返してもいいんだけど、他の冒険者達に狩られちゃうのよあんた」
【……】
「この子も一緒に」
【グルゥゥ……!】
お、首を搔っ切る仕草をすると威嚇してきたわね。ちょっとは理解できているのか。
「だから……あんた、あたし達と一緒に来ない?」
「え!?」
「まあ、それがいいかもしれんのう」
「ガエイン様まで!? 魔物ですよ魔物!」
イラスが目を見開いて驚くけど、あたしは珍しくないと口にする。
「さっきも言ったけどテイマーとして連れて行くなら大丈夫なの。この森より拠点に連れて行ったほうがいいんじゃないかなって。ウチのペットとして置いとけば魔物避けにもなりそうだし。ねー?」
【きゅーん♪】
「ペット……」
親フォックスに視線を合わせて冷や汗をかくイラス。まあ、少しでも伝わればいいけど、どうかしらねえ?
すると親フォックスはよろよろと立ち上がり、あたしの正面に立った。
「……」
【……】
そして――
「あ」
――親フォックスはあたしに鼻先を擦りつけてきた。
これは服従の証で負けを認めた時にやる仕草だ。これでこの親フォックスよりあたしの方が上という形になる。
「よし決まり! それじゃ町へ帰るわよ!」
「ええー……だ、大丈夫なんですか?」
「まあ、人に危害を加える存在が居なくなればいいのじゃから構わんだろう」
師匠がそう言って笑いながらイラスに話していた。
子供が居れば気が立つのはわかるけど、なんとなく腑に落ちないわね?
あたしの中に言い知れぬもやもやが胸中にあった。
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