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第二章

第75話 敵

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 ――結局、あのなんとか盗賊団はその後、俺達の前に現れることは無かった。
 夜に眠る必要がない俺とサクヤでレーダーを常に注視していたが、いつの間にか範囲外へ消えていた。

「行きずりの犯行、ということでしょうか」
「まあ、なにも盗られていないから未遂なんだけどね」

 あの場にアウラ様は居なかったので説明をすると首を傾げてそんなことを言っていた。さらに彼女は続ける。

「食べるのに困っているのでしょうか……私達にも余裕はありませんし、次来たらどうしましょう」
「追い返すだけよ。頼んでくれば考えたかもしれないけど、盗もうとしたのが許せないのよね」
<そうですね。自分たちで『盗賊団』と名乗っていましたし、次の町で情報収集をするのもいいかもしれません>

 コクピット内はそんな話が飛び交い、実際に遭遇した時に考えることに決めた。
 そろそろ町に到着するのでそこで情報を集めておこういうことになった。

<見えてきましたね>

 そうこうしている内に町が見えてきた。
 予定通り一旦ここで休息を取ることにするため、ガエイン爺さんと騎士が先行して事情を説明しに行った。

「ここもいつか……」
「ま、知っているのと知らないのでは話が変わるからどうにかして欲しいものだが」

 町の人間は驚いていたけど事情を理解し迎え入れてくれた。とはいえ人数が多いので交代で町の中で休むことになったけどな。
 アウラ様とシャルは町の権力者を集めての説明をするため町へ。

 ちなみにヴァイスと魔兵機《ゾルダート》は外で留守番だ。ギャレットさんとバスレーナもメンテナンスのためここに残っている。

「急に追ってが来なくなるとそれはそれで警戒しちまうな」
「どうしたヘッジ?」
「いや、もっと部隊を展開していると思ったんだ。ジョンビエルとディッター以外に出くわさないのはラッキーと言うべきだろうけどよ」
「俺達はジョンビエルのせいで先行して出撃したからな。ディッターもあいつに呼び出されただけで本来はもっと東の方に居たはずだ」
「へえ」

 確かに隊長クラスが二人いることは珍しいと思った。そういえばと俺はビッダーに確認を取る。ちなみに隊長クラスのことを「コマンダー」というそうだ。

「ということは連絡手段があるってことだよな?」
「ええ。魔力通信具《マナリンク》という装置があります。ですが、高価なものなので部隊に一つしかないのですよ」
「そっか」

 惜しいな。
 もしそいつがあれば町にひとつ置いておき、なにかあった時に救援に向かえるようにできるんだが。

「なんとかして一個欲しいな。解析さえできれば後はギャレットさんとサクヤで作れるだろうし」
「確かになあ。ジョンビエル機の中にあったかもしれねえ……失敗したぜ」

 あいつの機体はクレイブの町に残骸として置いてあったが、恐らく回収されてるだろうな。

<とりあえず私がやるのは通信機の制作でしょうか>
「そんなことが?」

 自機のチェックをしていたイラスが首を傾げて言う。それに対してサクヤが返事をした。

<一度観測できれば可能と考えます。ただ、私は作業ができませんしマスターも今は無理です>
「あー、だからあたい達に作って欲しいってところですかね」
<その通りです>
「あれがあると確かに便利だからな。空気中の魔素に左右されるけど」

 マナ、空気中の魔素という魔力のことらしい。聞いた感じ周波数みたいな感じで、各通信に設定されている番号に合わせると通信できるとか。
 魔素が薄いと通信しにくい不便な点はあるが、使えれば伝令がいらないので戦いでも有利だ。

「そういえば気になっていたんだが、グライアードってそんなに技術力が高い国なのか?」
「いえ、そういうわけでもないのですが……ここ、五年ほどで一気に上がった感じです」
「最近、なのか?」
「はい。この魔兵機《ゾルダート》は本当に最近なのです。それまで世界にこのようなものは存在していませんでしたね」

 イラスもビッダーに同調して頷いていた。五年でここまでのものができるだろうか? 
 いや、確かにメビウスに襲われた時にヴァッフェリーゼを完成までこぎつけた事実があるのでそれは難しくないか。
 となるとエルフォルクさんレベルの技術者が居るってことになるな……

「リクー! 話が終わったわよ」
「お、シャルか。お疲れさん。お前も町で休んでればいいのに」
「コクピットで寝るのも慣れたしいいのよ。……それに女狐いるしね?」
「ギクリ」
「?」

 シャルがイラスへ不敵な笑みを見せると、ビクッと身体をこわばらせていた。
 よく分からないけど、まだイラスが信用できかねるということかね。

「アウラ様とガエイン爺さんは?」
「もちろん丁重にもてなされているわ! ここも思ったよりすんなり受け入れてくれて良かったって感じね」
「そりゃなによりだ」
「不安ではあるでしょうが、いきなり襲撃されるよりは身構えられますからね」
「ええ」

 ビッダーに頷くシャル。
 だけど続けてこんなことを言いだした。

「まあ、相手によっては降伏するべきだってことは言っておいたけどね。ジョンビエルとディッターみたいな連中だと難しいけど。あ、ねえ、グライアードの部隊って町の人、男は殺して子供と女の人は攫うってのはデフォなの?」

 移動移動であまり色々と考える余裕がなかった……考えないようにしていたことを話せるようになってきた気がする。その一つを尋ねていた。

「それは……難しいところですね」
「どうしてイラス?」
「我々エトワール王国侵攻部隊は陛下から勅命を受けているフレッサー・コールネンという男なのですけど、もしかすると彼の独断の可能性が……」
「……ま、ありえそうだな」

 大将軍フレッサーという名で通っているようだ。
 三人の話だと顕示欲が強く、粗暴。さらに色欲も強いらしい。
 しかし、

「あの男は強い。一対一の戦闘で勝てる奴をグライアードの中では知らないぜオレは」
「ガエイン殿ならあるいは、ということでしょう。専用の魔兵機《ゾルダート》を持っていますが、その強さは健在です。今、王都で指揮をしているのはフレッサーです」
「そんな奴が王都を……」

 ヘッジも珍しく真面目な顔で煙草をふかし、ビッダーも便乗していた。そこで怨念の目でイラスが口を開く。

「あの男、嫌い……私のお尻を触ったし……」
「それは……許せないわね。王都奪還の際は徹底的にやらないと」

 そこに何故かシャルが同意していた。
 イラスは乗っていないとホント、気がそれほど強くないんだな。
 
 そういやメビウスにはそういう『強者』の姿は無かったなと思い出す。向こうはどうなっているのやら……ガルシア隊長とかがなんとかしていると思うけど――
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