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第二章

第76話 推測

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 町には二日ほど滞在させてもらい、再びザラン山を目指す。
 あと数日の道のりだが、この先は町が無く、村がいくつかある程度だそうだ。
 立ち寄った町の権力者は不安そうみたいだが、こればかりは覚悟を決めて対応してもらうしかない。

「フレッサー大将軍ねえ……」
「どうしましたか?」

 俺が荷台を引きながら呟くとコクピットにいるアウラ様に聞こえたらしく尋ねてきた。タブレットに移動してシャルと二人の前に姿を現す。

「いや、そいつがもし国の思惑と違うことをしているなら危険だなと思ってな」
「どういうこと?」
「『猊下に言われて現地人の男を虐殺して女子供だけ攫え』って命令があったらしいよな?」
「うん」
「それがグライアードの意思じゃなくて『フレッサーの独断』だったらどうする」
「そういうことですか」

 アウラ様は理解してポンと手を打って答えた。シャルも分かったようでそれについて言及してくる。

「なるほど、自分の欲のために行動を起こしている可能性があるってことね」
「そうだ。グライアードはグライアードで国王が必要だろ? で、エトワール王国を襲ったのであれば口を奪うつもりだったのは明白だ。ならこっちにも管理をする王が必要だろ?」

 国土を広げるため、ということであればグライアードの王が務めればいい。だけど現地人を虐殺する理由が分からなかったんだよな。
 しかも男だけ。

「そうね……あたしならひとまず国を掌握するところまでやって、後はそのままでもいいと思うわ」
「そうなんだ。国を維持するなら労働力などは必要だし、わざわざ男を殺す必要がない。……ジョンビエル達のことを知っているようにむしろ混乱を生む」
「……」

 二人が黙り込んで俺の推察を聞いていた。そのまま続きを口にする俺。

「俺が向こうの世界で戦っていた『メビウス』という奴等のことは話したな? フレッサーという男はあれと同じことをしようとしているんじゃないかと思っている」
「えっと、地球という星を奪おうとしたって連中だっけ?」
「そうだ。あいつらは地球人を抹殺して自分たちの住む星に変えようとしていた。フレッサーはエトワール王国を同じにしようとしているんじゃないかと思っている」
「でも、それなら女性と子供を残す理由は?」

 そこでシャルがメインである話を持ち込んで来た。それにも俺の考えがあるのでシャルに返事をする。

「……いずれ他国を攻める時に自国の人間だけにしたいと考えている可能性があるんだ。子供は洗脳して兵士に。女性はグライアードの男の子供を産ませるために残している、とかな」
「な……!?」

 そう口にした瞬間アウラ様が口に手を当てて青い顔をする。シャルは無言だが難しい顔をしていた。
 国の人間を増やすには女性が必要だ。しかし種は必要ないので男は殺す。その内、血は薄くなっていきグライアードの国民のみになるって感じであることを告げる。

<気の長い話ですがマスターの言うことは89%の確率で的中すると進言します>
「子を作らせるためだけの誘拐……それに他国への侵略……そこまでするでしょうか?」
「すでに結果は出ている。後はそれがグライアードの方針なのか――」
「フレッサーの方針なのかが不明ってわけね」
「そういうことだ。もしフレッサーの独断ならヘッジやビッダーみたいな不信感をもった奴をこっちに引き込むこともできるかもな」

 希望的観測ではあるがせめてグライアードがおかしいと思ってくれる人間が多いなら戦いを拒否してくれる可能性もある。
 
「ならお母様が危ないのでは……!?」
「お父様が生きていればそれはないと思うけど……それにそういう状況になったらお母様は死ぬ方を選ぶわよ」
「なんというかシャルのお母さんって感じだな……」
「どういうことよ!? あ、逃げた!」

 その気の強さだとは言わないでおこう。俺はタブレットから姿を消して逃げた。するとサクヤが言う。

<しかし王都を奪還するにしても戦力が足りません。戦える人間を味方につけていかないと現存する騎士だけでは一気に攻められた際に押しつぶされるでしょう>
「リクがいるじゃない」
<マスター一人ではまかないきれない部分もありますから。まずは敵勢力がどの程度いるのかを落ち着いたら調べたいところです>
「そうですね。拠点づくりは失敗できません。慎重に行きましょう」

 アウラ様が力強くそう口にしていた。

「魔物が出たぞ! 騎士達は囲んで倒せ!」
「ハッ!」

 下では魔物が出現しガエイン爺さんが張り切って騎士達と倒しにかかっていた。
 まだ山には遠い。
 町の人も今は元気だが、旅が長くなると精神をやられる。町で食料などは分けてもらったがこの先は村しかないらしいし少し心配だな。


◆ ◇ ◆

「……どうだったラーク?」

 少し前に居た町でフリンク盗賊団の三人が服を着替えて外に席があるタイプのレストランに居た。
 どこかへ行っていた優男ラークが着席、ベリエの質問に答える。

「あのジプシーのような一団はどうも王族のようでしたね。なんでもエトワール王国の王都をグライアードに奪われたとか」
「グ、グライアードが侵攻してきたってことかい? だからあいつらアタシたちのことを……」
「ま、まずいんじゃないですかいお頭? エトワール王国で仕事はできな……痛い!?」
「お頭って言うんじゃないよ! で?」

 ビルゴを引っぱたきながら続きを促すと、ラークは小さく頷いて続きを話し始める。

「あの巨人は元々グライアードのものらしいですよ。奪ったみたいですが、詳細は不明……今はグライアードに潰された町の人間を連れて王女様がどこかへ向かっている、と」
「ふうん。王族の進行だったのかい。それに難民か」
「ええ」
「困っている人から盗むのは駄目じゃないですかね?」

 ビルゴがそう言うとベリエは少し考えた後、ニヤリと笑う。

「……なにも金を稼ぐなら盗みをするだけじゃないよ。情報を売るってこともできるさね?」
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