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337.昼食のお誘い
しおりを挟む朝から校門付近で一悶着あったものの、それでも特に何事もなかったように鳳凰学舎の一日が始まる。
「武客……」
「ほんとに武客……」
来た当初からいろんな熱い視線を向けられていたが、今朝のカイマの件で向けられる視線の質と熱気が変わった気がする。
「…………」
まあ……私としては、マーベリアに続いてクラスメイトに距離を取られてしまったことが悲しいが。
「――あの! ぜひ! 一発お願いします!」
パァン!
「――ありがとうございます!」
昨日までは皆それなりに親切にしてくれたのに、今朝の一件から遠巻きにされている。
不透明だった時はまだよかったが、実際強いことを目の当りにしたら、気安く接する気持ちがなくなってしまったようだ。
武の信奉者が多いだけに、強者に対する憧憬や気持ちが強いのだ。
仕方ないと受け入れるべきかな。
「――お願いしてもいいですか!? できれば二発連続で!」
パンスパーン!
「――いってぇっ……あざす!!」
私だって憧れの武闘家には、気高くあってほしい――たとえ実際はそうじゃないとしても。外面だけでもいつもかっこよくいてほしい。
憧れとはそういうものだ。
……少々悲しいが。これも強すぎるがゆえの弊害である。
昼休みとなり、いつもは誘ってくれるクラスメイトからのお誘いもなく。
ではこちらから誘って……と思って見てみれば、気まずそうなその顔は誘ってほしくなさそうだ。
仕方ないから一人で食事に行こうかと思い、
「――た、頼んだら一発ヤッてくれるって聞いて……お願いします!」
パァン!
「――はぁうっ……! あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」
所望された生徒に一発見舞って立ち上がろうとしたその時、
「おい師匠」
教室の出入り口から、ジンキョウが呼びかけてきた。
「朝の続きだ。生徒会長が呼んでるから来てくれよ。俺も行くから一緒に飯食おうぜ」
おお、そうか。
いつも一人ならともかく、いきなり一人になってしまったので寂しく過ごすしかないと思っていたが。実にいいタイミングだ。
渡りに船とばかりにジンキョウと行くことにした。
貴族学校のようなものなので、ここの食堂は豪華である。
もちろん武に狂っている生徒が多いので、昼食メニューはある程度コースになって分かれている。
筋肉を付ける食事。
体重を増やす食事。
体重を絞る食事。
他にも外傷や病の治癒に効果がある薬膳や、運動の前に食べる消化の良いメニューなど、身体を作るためのバックアップも充実している。
「――お、お願いします武客様! この子たちと俺にお願いします!」
「「――お願いします!!」」
ぺちっぺちっぺちっぺちっバシーン!
「さすがに子供には手加減するのな」
「あたりまえでしょ」
あまりにも奇特な生徒が多いせいで、もう何も言わないことにしているが。顔を出されれば何も言わずに殴るようにしているが。
でも、さすがに十歳にも満たない子を強めに殴る気はない。というか連れてくるなよ。
「で……話を戻すぞ。簡単に説明しとく」
流れ作業的に何人も殴りながら食堂へ向かう最中、ジンキョウが簡単に生徒会のことを話してくれた。
「生徒会はこの鳳凰学舎で一番強いグループで、生徒のまとめ役だ。そして生徒会長は、学校で一番強い者がなるんだ」
へえ。
パァン!
「生徒会長はカイマより強いの?」
あいつは未熟で雑で不出来ながらも「氣」を使っていた。
もしそのカイマより強いというなら、その生徒会長も「氣」を修めているはずだ。
「紙一重って感じだが、生徒会長の方が強いみたいだ。でも俺から見れば、どっちが勝ってもおかしくない感じだな」
ふむ。
「もう率直に聞くけど、生徒会長も『氣』を?」
パァン!
「習ってる。というかあいつも皇族だから。俺の従兄になる」
ああそうか。
「確か『帝王の拳』って言うのよね?」
パァン!
ウーハイトンには「氣」の境地に辿り着いている者、習得方法を知る者はかなり少ないそうだ。
九門館の代表などは習得しているらしいが、それでも確証はないのだとか。
そして唯一確定しているのが、代々皇族に伝わる「帝王の拳」だ。これは流派ではなく「氣」のことであるそうだ。
――まあ、カイマと同じくらい強い程度なら、然して気にする必要もないか。
それより気になるのが、
「九門館の門下生なんだっけ?」
パァン! パァン! パァン!
「そうだ。生徒会長ランジュウはウェイバァ老師の弟子で、虎伏裏脚流の門下生だ。十代なのに師範代免許を持っているくらい強いんだぜ」
そうそう、裏脚流だったな。蹴り技が得意なんだよな。
「今更言う必要もないと思うが、あんまり肩入れだけはしないでくれよな。九門館の門下生は学校中にいるし、表向きはぶつからないけど内心で敵対している連中も多いんだ。火種さえあればすぐに燃えてぶつかり出すぞ」
うーん。
九門館という九つの派閥があると考えればいいかな。
「――え? 蹴りがいい? ……軽めならいいけど」
ドパァァン!
ちなみにジンキョウは特定の師がおらず、いろんなところに出稽古したりしていたそうだ。
ちゃんとした唯一の師は、私だけということになる。
「ところで師匠」
「何?」
「さっきから、その……なんて言っていいのかちょっとわかんねえんだけど」
「でしょうね。やってる私も意外とよくわかってないし」
なんでこんな……いや、まあ、してほしいっていうならそれくらいはしてもいいけどさ。
…………
「あなたも殴ってあげようか?」
「後で頼む」
おまえもか。
ほんと武闘家って好きだよね。こういうの。
まあ、憧れの武人になら殴られたいって気持ちは、わからなくもないけど。
これも武客の努めというものなのだろう。
たぶん。きっと。
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