狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
上 下
339 / 405

338.庭園で

しおりを挟む




「――こっちだ」

 ジンキョウに導かれ、食堂へ向かう道を逸れ、壁のない外に面した渡り廊下に出た。

「生徒会専用の個室があるから、そっちだ。生徒会のほかにも、申請があったグループには昼食用の専用スペースが貸し出されるんだ」

 ああ、なるほど。
 貴族の子ばかりだから、個々で政治的な派閥の集会や、情報交換を行っているのだろう。専用の個室があるというのは嬉しい、というよりは上位貴族には必須なのかもしれない。

 特に、ジンキョウなどの皇族辺りは、念のために距離を置くという意味もあると思う。
 あまりに生徒たちと近いと毒殺だなんだと、政治的問題も簡単に起こってしまう。距離を取ることがお互いのためになることもあるだろう。

 ……あれ?

 でも、ジンキョウは普通に食堂で食べている姿を見たことあるな。
 何杯もおかわりしていてすごく目立っていた。大食い友達もいるようで、競い合うように一緒に麺を食っていた。

 …………

 まあ、ジンキョウが特殊なんだろう。皇族らしからぬという意味で。

 食堂への道を逸れて特殊教室が並ぶ方面へと進むと、擦れ違う生徒が極端に減った。……よかった。殴ってくれと寄ってくる生徒はさすがにいなくなった。

「――ジン」

 ひと気のない場所を行く途中、年上の女生徒が渡り廊下の外から声を掛けてきた。

「おう、メラン。武客を連れてきたぞ」

「ええ――生徒会副会長メラン・バオです。自己紹介は後程改めてしますので」

 副会長メランは私を見て一礼すると、こう続けた。

「今日は天気もいいし風も穏やかだから、こっちで昼食にすることになったの。庭園の方に用意してあるから」

「庭園か。そっちは久しぶりだな」

「ジンが来ないだけで生徒会ではちょくちょく使ってるけどね。会長が武客様に、鳳凰学舎の庭園の蓮を見てほしいんだって」

 蓮か。
 湖面に浮かぶ皿のような葉が特徴的な、仄かな桃色の花、でいいのかな。私は草花に興味がないので、それくらいしかわからんが。

「今、昇る季節だったか?」

「毎年それ言うわね」

「花は興味ねえからな。食えねえし」

「食べちゃダメってのも何度も言っている気がするけど。……ちょっと早いわね。あれは寒くなる直前だから」

 だから咲いてるだけ、と。
 私にはよくわからないやり取りをつつ、今度はメランの案内で庭に出た。




 校舎などの建物から大きく外れ、よく手入れがされた庭園に入る。

 色とりどりの草花が楽しませてくれるその先に、大きなテーブルに着く六名の生徒がいた。

「――ようこそ、武客ニア・リストン殿。急に呼び立てて申し訳ない」

 今朝、カイマとのケンカを止めに入った時に軽く紹介された生徒会長ランジュウが、椅子を立ってそう述べる。

 と、それに合わせて座っていた五人も立ち上がる。

「お招きいただきありがとうございます」

 私も無難に一礼する。

 そんな挨拶もそこそこに、副会長メランとゲストである私たちもテーブルに着いた。

「ウーハイトンのコース料理を用意してあるんだが、それで構わないか? もちろん好きなものを別途注文してくれてもいいが」

「お気遣いありがとうございます。せっかくなのでコース料理をお願いします」

 ランジュウが手を上げて合図をすると、学校で雇っている使用人が料理を運んでくる。

 植え込みや草木、木々のせいでここからじゃ見えないが、近くに料理をする場所があるようだ。
 まあ、人がいる気配は感知していたが。そうか、給仕だったか。

「改めて名乗ろう。私は鳳凰学舎高等部二年、ランジュウ・カザナだ。こちらが副会長のメランで――」

 と、そんな自己紹介から始まった昼食の席は、終始和やかに進行した。

 ――まあはっきり言うと、腫れ物には触れないどころか気づきもしないとばかりに、当たり障りのない会話しかしなかった、という感じである。

 武闘家ならストレートに来い、とも思うが、初対面ゆえの遠回しなやり方は貴族らしくもある。
 少なくとも、上品なコース料理なのにおかわりしまくったジンキョウよりは、よっぽど皇族らしいと思った。




 麺料理の多い食事が終わり、花を模した菓子で黒茶色のお茶を飲んでいると――ようやく本題らしき話を振られた。

「ニア殿。ちょっといいか?」

 名を呼ばれ、最近噂になっている機馬キバの話から移行しウィングロードの話をしていた生徒会庶務のオレスから、会長ランジュウに視線を向ける。

「今回呼んだのは、我々生徒会との面通しという理由があったのだが……もう一つ、早急に意思を確認したいことがあったのだ」

 やはり呼び出した本題があったか。このタイミングで切り出すのが正解だったかどうかはわからないが。
 オレスはすごく話の続きを聞きたそうにそわそわしているが――まあ、本題を邪魔はできないようでそわそわしながら口を噤んだ。

「君はすでに初等部六年生の学級長になっている。だから交流会をどうするか聞いておきたいのだ」

「交流会?」

「聞いていないか?」

 頷くと、ランジュウが手短に説明した。

「ここ上台に鳳凰学舎があるように、下台にも月光寮という学校があるのだ。……あとはわかるだろう?」

 代表。
 交流。
 なるほど。

 これほどまでに武に満ちている国で、同年代の代表を集めての交流会と言えば、答えは一つだ。
 もはややり合わない理由がないだろう。

 ただ、そうなると、だ。

「私は遠慮した方がいいでしょう」

 子供の交流会に大人が出るようなものだ。顰蹙以外の何物でもないじゃないか。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。

星ふくろう
ファンタジー
 紅の美しい髪とエメラルドの瞳を持つ、太陽神アギトの聖女シェイラ。  彼女は、太陽神を信仰するクルード王国の王太子殿下と結婚式を迎えて幸せの絶頂だった。  新婚旅行に出る前夜に初夜を迎えるのが王国のしきたり。  大勢の前で、新婦は処女であることを証明しなければならない。  まあ、そんな恥ずかしいことも愛する夫の為なら我慢できた。  しかし!!!!  その最愛の男性、リクト王太子殿下はかつてからの二股相手、アルム公爵令嬢エリカと‥‥‥  あろうことか、新婚初夜の数時間前に夫婦の寝室で、ことに及んでいた。  それを親戚の叔父でもある、大司教猊下から聞かされたシェイラは嫉妬の炎を燃やすが、静かに決意する。  この王国を貰おう。  これはそんな波乱を描いた、たくましい聖女様のお話。  小説家になろうでも掲載しております。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。

拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。

王太子妃なのに冤罪で流刑にされました 〜わたくしは流刑地で幸せを掴みますが、あなた方のことは許しません〜

超高校級の小説家
恋愛
公爵令嬢のベアトリスは16歳でトルマリン王国の王太子と政略結婚して王太子妃となった。しかし、婚礼の儀と披露式典を終えて間もなく、王城に滞在する大聖女に怪我をさせたと言いがかりをつけられる。 全く身に覚えが無いのに目撃証言が複数あり、これまでも大聖女に対して嫌がらせをしていたという嫌疑をかけられ、怒った王太子によって王太子妃の位を剥奪され流刑に処されてしまう。 流された先は魔族という悪しき者達が住む魔界に通じる扉があると言われる魔の島と恐れられる場所だった。 ※7話まで胸糞悪いです。そこからはお気楽展開で書いてますのでお付き合いください ※最終話59話で完結 途中で飽きた方もエピローグに当たる最後の3話だけでも読んで、ベアトリスの復讐の顛末を見ていただけると嬉しいです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...