本当はあなたを愛してました

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第三部

リナを探して②

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部屋から出てきたデボラにお礼を言う

普段あまり表情が読めないのに、疲労の色が濃い

何か言いたそうだったが今は気持ちに余裕がない

この中にリナがいる

深く深呼吸をしてノックをする


「久しぶりね、リナ。元気だった?」

久しぶりに見たリナは可愛い女の子を連れていた

その子供を見て歳月の経過を痛感する

もしかしてこの女の子は━━

「とりあえずまずは紅茶を淹れましょう。


室内に用意されたティーセットへと手を伸ばし、緊張した気持ちを落ち着かせるためにゆったりと紅茶を淹れる。

やっぱり警戒しているわね

「どうぞ。心配しなくても毒なんて入ってないわ。ふふふ」

私にとってはタイムリーなブラックジョークなのだけど、あなたは知るよしもないわよね


リナは頑に紅茶には手をつけなかった。

こうして一緒に向き合うと、あなたが商会を辞めた時のことを思い出すわね。


ティーカップをゆったりとテーブルに戻すと、リナへと視線を向ける。

「━━急に呼び出して驚いたでしょう?
ごめんなさいね。リナにちょっとお願いがあって。
 提案というべきかしら。
ちょっと、私の話しをきいてくれるかしら?少し長くなるけれど。

リナあれから私たちがどうなったのか気になっているでしょう?

私達というよりも、ルーカスのことが。


実はね、私達、籍を入れていないの。」


「えっ」

リナは驚いていた


「ふふふ。驚くわよね。あんなに大々的に婚約披露したのに。


まぁ、ずっと婚約状態とでも言うべきかしら。


ルーカスのお父様が引退した後ね、ルーカスではなく私が後を引き継いだの。


元々ゴーデル商会は父のものだし。
まぁ、表向きは私達は夫婦と思われているし。


とにかく働けて、政略結婚から逃れられるならこのままの状態でも不便はないから。」

(ごめんなさいリナ

本当はルーカスと向き合うことができなくて……

やっと気づいたの
こういう関係は間違っていると

あなたから奪ってしまった場所を
明け渡したいの)

「ただね、ちょっと困ったことがあって。


商会を辞めようと思ってるの」


「そんなっ!閉鎖するのですか」

ルーカスは?商会で働いている方はどうなるの!

「ふふ。リナ、そんなに興奮しないで。何も商会を手放すつもりはないわよ。ちょっと他に━━
今はこれ以上はやめておくわ。


とにかくね、ルーカスに任せるだけでもいいのだけれど、ルーカスは結婚しそうにないし。ここまで大きくした商会だから誰にでも任せていいものではないでしょ。」

どのようにしてリナを誘導しようかと考えを巡らせる
 
そこでふと眠っている女の子をチラリと見た
リナの面影を宿した小さな女の子

(リナが無理ならば、そっくりなリナの娘だけでも連れて行けばルーカスは喜ぶのではないかしら

きっとそうだわ

それに子供を引き取りたいと言ったら、リナも一緒に来てくれるかもしれない)

「ルーカスの手腕は申し分ないのだけれど、跡継ぎがいないじゃない?


そんな時、思い出したの。

ほら、私、リナの子供を後継ぎにしたらいいと考えていたじゃない?

リナの消息を調べたら、女の子がいると分かって安心したわ。女の子でも私みたいに仕事に興味を示すかもしれないし、婿をとってもいいしね。

ちょうど5歳と聞いて、もしかしてルーカスの娘じゃないかと思って」

「いい加減なことを勝手にいうのはやめてください!カオリは、あの娘はルーカスの娘ではありません!」


リナは拳を握りしめていた

(怒るということはルーカスの子供ではないのだろうか
年齢的にもそうかもしれないと思ったけれど

あのリナが商会を辞めてすぐに他の誰かと━━?そんなことは考えられない)


「そう、カオリちゃんというの。ふふ。
別に本当にルーカスの娘だと思っている訳ではないわ。そうであったら都合がいいなと思ったの。

意味分かるかしら?

ちょっとした疑惑は確信へ。そして嘘が真実になることもあるの。


正確な妊娠期間を調べる人なんていないわ。カオリちゃんはあなたに似ているようだし」

黙り込んだリナを見て、もうひと押しで説得できそうな手応えを感じた
体がふるふると震えているようだけど

(子供に関することが鍵なのね
やはりここは学費の援助かしら)

「ふふ、そろそろ学園へ通わせる年頃じゃない? 
高等教育を受けるにはそれなりのお金も必要よ。

どう? 

全て不自由なく暮らせるように最善を尽くすから、商会の後継ぎとして、引き取らせてくれないかしら?

今のあなた達には想像も出来ないほどの贅沢な暮らしを約束するわ。ねぇ、素敵でしょ?」



「お断りします!」

リナは乱暴に立ち上がると、カオリちゃんの元へと駆け寄る。カオリちゃんを抱き抱えると急いで部屋から抜け出した。

(だめよ、行かないでリナ!
違うの!ルーカスの元に戻ってきてほしいの!
言葉を間違えたのかしら
いえ、怒らせたのなら
大丈夫よね)



「リナ、あなたはきっと私に泣きついてくるわ。いつでも歓迎するわ。

そろそろ邸の主が帰る頃なの。馬車を用意するからデボラに送らせるわね」

リナは走り去っていった 


「どうして思うようにいかないのかしら

まぁ、最初の目的通り強烈な印象は残せたわ
きっとルーカスのことが気になるはず」

「サラお嬢様、旦那様がお帰りになったようです。

お嬢様…
あの女の子は本当にルーカス様のお子さんなのですか?」

「分からないわ」

デボラは言葉に詰まっていた

「やはり旦那様に相談するべきだったのでは……
 本当にこれがお嬢様のやりたかったことなのですか?」

デボラの問いに答えることなく外へと向かう

(これでよかったのよ)



玄関を出るとフェリクスとナタリーちゃんが馬車から降りてくるところだった

「サラお姉さま!」

「おかえり、ナタリーちゃん、フェリクス」

「サラ、来てたんだね、何かあった?」

「えぇ、つい今ね、リナに会ったの」


「━━少しは後悔の気持ちが軽くなった?」

「正直には話せなくて…でも、これでよかったのだと思う」


「とりあえず中へ入ろう」

一人で突き進まずに相談するように言ってくれたフェリクスに結局相談せずに実行してしまった

リナとやっと会えたのに、ずっしりと気が重いのはなぜだろう

また自分は何か間違えたのだろうか

黙り込むサラに、
フェリクスはそれ以上何も聞くことなく
寄り添うように一緒に歩き出す

ナタリーちゃんを間に挟み手をつなぎながら

✳︎✳︎✳︎

そして、ルーカスが商会を出ていったきり戻らない日が続いた

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