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「前さ、小鳥遊たかなしが俺に好きだって言ってくれた時、ちと事情があるって言ったよな?」

 小鳥遊がコクリと頷くので、この際だからもう女に相談なんて情けないけれど喋ってしまおうと思って。

「実はさ……俺、二年前から付き合ってる奴がいる。いるんだが――俺が何か怒らせたのかわかんねぇんだが、堂々と浮気しまくるようになった。でも俺はずっと好きでさ……。もう破綻しているような関係なんだけど手放せなくてさ。で、最近ついに向こうから別れるか?って持ち掛けられて悩んでるとこなんだ」

 俺に恋人がいると聞いた途端、小鳥遊が悲しそうに瞼を伏せて「そう、だったんですね……」と俯いた。

「なぁ、小鳥遊はさ、俺と付き合えねぇってなったら主任のところへ行くか?」

 行かないで欲しい……そう願っても無駄だろう。

 あんな美貌の持ち主に気があるなんてそそのかされたら、女ならまず間違いなくいずれ堕ちるに決まっている。

「私は……主任は素敵な人だとは思いますけど……風早かざはや先輩のことが好きだから……。風早先輩が、もしそんな不毛な恋と決別して私を見てくれる可能性があるんだったら、風早先輩を待ちたいです」

 小鳥遊に悪気がないのはわかっているけれど〝不毛な恋〟だなんて言われてしまったのは、表情にこそ出さなかった自分を褒めてやりたいけれど、ダメージがデカかった。

(本当、不毛な恋――だよな……)

「俺はどうすりゃいいかな……。わかんねぇんだ、自分でも。相手には、俺が何もしないのが駄目だって言われた。でも俺が何をすべきなのかわかんねぇんだ。もしかしたら、近いうちに終わる関係かもしれねぇ。でも――そういう訳だから……今は結論を出せない。まぁ、……俺には小鳥遊が主任のところへ行くのを阻む権利もねぇから……そこはお前が決めてくれ」

「わ、私は待ってます! 待ってちゃ駄目……ですか?」

 果たして由貴ゆきと俺は破綻するだろうか。
 小鳥遊を待たせたとしても、由貴を失ったらまた気持ちの籠らない適当な恋愛しかできないんじゃないだろうか……アイツだから俺はこんなに執着しているんだから。

「小鳥遊に任せる」

 そんな風に逃げる俺は男として最低だろう。

(どう動く? 由貴。俺はお前じゃなきゃ駄目なんだよって言葉に出せないのは何でだよ。由貴こそ俺の気持ちを察してくれよ……)
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