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明日は、暖人が引っ越しの日。
僕たちは、夕飯を食べ終えて、各々お風呂に入って、僕はダイニングチェアに、暖人はソファに座っていた。
「葵晴、ちょっと来て」
暖人が手をヒラヒラ振ってソファに呼ぶので何だろう?と思いながら近寄ってみたら、スマートフォンを手にしていて。
「何?」
ディスプレイを掲げられて覗いてみると、メッセージアプリの僕の連絡先が表示されていた。
それを、暖人が僕の目の前でブロックしてみせた。
次いで、僕の電話番号を表示させて、それも消去した。
呆然と暖人を見つめてしまう。
「もう、連絡先残しておいたら、俺、また葵晴に連絡したくなっちまいそうだから。葵晴のスマホも貸せよ? ああ……見せたくねぇか。俺の連絡先消していいからな。明日で、もう二度と会わねぇんだから」
「う、ん……わかった……」
僕は、暖人の連絡先を消せるだろうか?
暖人はもう完全に僕から離れようとしているのに、僕は、僕はまだ──。
「でも、着信拒否はしねぇから。もし、なんか困ったことがあったらいつでも連絡してこい。まぁ、葵晴が着拒したいなら、それはそれで構わねぇから」
暖人、本当に僕から離れていくの?
そこまで、僕から離れていくの?
「あの女は着拒してるの?」
「当たりめぇだろ。別れた瞬間から消去したっつーの」
じゃあ、もう暖人のスマートフォンに『愛してる』なんて連絡が届くことはないんだ。それだったら、僕はこのまま暖人と離れてしまってもいいの?
本当に、後悔しないかな──。
でも、また新しい女からメッセージが届くかもしれない。
あの死にたくなるような、どうしようもない感情をもう一度、味わうなんて耐えられない。
僕はもしかしたら、恋人を、好きな人を信用できないんじゃなくて、もう“人”を信用出来なくなっているのかもしれない。
誰かに裏切られるのが怖いんだ。
裏切られるかもしれないのが怖いんだ。
心配事の九割は起こらないなんてよく言うけれど、僕はもうその一割が怖いんだ。
一度、亀裂が入ってしまった心は、もうくっつかないんだ。
それが、どんなに好きな暖人でも。
こんなに好きな暖人だったから、もう怖いんだ。
明日、暖人と別れれば、その杞憂はなくなる。
僕は楽になれるはずだ──。
僕たちは、夕飯を食べ終えて、各々お風呂に入って、僕はダイニングチェアに、暖人はソファに座っていた。
「葵晴、ちょっと来て」
暖人が手をヒラヒラ振ってソファに呼ぶので何だろう?と思いながら近寄ってみたら、スマートフォンを手にしていて。
「何?」
ディスプレイを掲げられて覗いてみると、メッセージアプリの僕の連絡先が表示されていた。
それを、暖人が僕の目の前でブロックしてみせた。
次いで、僕の電話番号を表示させて、それも消去した。
呆然と暖人を見つめてしまう。
「もう、連絡先残しておいたら、俺、また葵晴に連絡したくなっちまいそうだから。葵晴のスマホも貸せよ? ああ……見せたくねぇか。俺の連絡先消していいからな。明日で、もう二度と会わねぇんだから」
「う、ん……わかった……」
僕は、暖人の連絡先を消せるだろうか?
暖人はもう完全に僕から離れようとしているのに、僕は、僕はまだ──。
「でも、着信拒否はしねぇから。もし、なんか困ったことがあったらいつでも連絡してこい。まぁ、葵晴が着拒したいなら、それはそれで構わねぇから」
暖人、本当に僕から離れていくの?
そこまで、僕から離れていくの?
「あの女は着拒してるの?」
「当たりめぇだろ。別れた瞬間から消去したっつーの」
じゃあ、もう暖人のスマートフォンに『愛してる』なんて連絡が届くことはないんだ。それだったら、僕はこのまま暖人と離れてしまってもいいの?
本当に、後悔しないかな──。
でも、また新しい女からメッセージが届くかもしれない。
あの死にたくなるような、どうしようもない感情をもう一度、味わうなんて耐えられない。
僕はもしかしたら、恋人を、好きな人を信用できないんじゃなくて、もう“人”を信用出来なくなっているのかもしれない。
誰かに裏切られるのが怖いんだ。
裏切られるかもしれないのが怖いんだ。
心配事の九割は起こらないなんてよく言うけれど、僕はもうその一割が怖いんだ。
一度、亀裂が入ってしまった心は、もうくっつかないんだ。
それが、どんなに好きな暖人でも。
こんなに好きな暖人だったから、もう怖いんだ。
明日、暖人と別れれば、その杞憂はなくなる。
僕は楽になれるはずだ──。
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