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「全部、俺の勝手なことはわかってる。でも葵晴あおはがもうアイツに傷つけられるとこ想像したくもねぇし、俺が葵晴の傍にいることで葵晴が傷つくのも見たくねぇんだ。葵晴はすげぇイイ奴だから、きっと、アイツでも俺でもねぇ、葵晴だけを幸せにしてくれる奴が現れっから。だから、早くアイツのことも俺のことも忘れて、幸せになれ。葵晴の孤独、埋めてくれる奴がきっといる。だから、自棄やけになんな。そんな奴と出会えるまで、しっかり生きてけ? な?」

 瞳から、ポロリと大粒の涙がこぼれた。
 本当に、全部全部、暖人はるとの勝手じゃんか。

 また、僕を見てくれる人が現れる保証なんてどこにある?
 僕が独りぼっちにならない保証なんてどこにある?

 それなのに、しっかり生きていけだなんて、僕は何を支えにすればいいの?

「暖人は……本当に、僕の全部奪ってく……」

「ああ、全部奪っちまった。だからせめて、俺は葵晴に新しいチャンス降ってくる環境を与えたかった。さっき、先生と話した。三日くらい傷口の処置に通院が必要らしいから、全部俺が付き添う。それが終わったら、すぐよくなるみてぇだから。そうしたら、俺は引っ越すから。今度こそもう葵晴の前から消えるから。本当に悪かった」

 暖人の手をぎゅっと握った。
 その手を握り返してくれて「本当に悪かったな、葵晴」とポツリと呟いた。

 静かに涙を流し続ける僕を暖人が抱きしめてくれて、その背に腕を回そうと思ったけれど、でも──。

「葵晴、点滴終わった」と、暖人がそっと腕を離した。
 ナースコールを鳴らすと、すぐに看護師がやってきて、僕は点滴を外されて暖人と一緒にロビーまで歩いた。

「暖人……あのさ……」

 スマートフォンでタクシーを呼ぼうとしていた暖人が振り返った。

「ん?」

 どうしよう……。

 暖人に、傍に居て欲しい──。

 でも、そんなことは僕に都合のいい話で、暖人が傍にいてくれたって僕はまた暖人の裏切りに怯えるだけだろう。一度、壊れてしまったものは元には戻らないんだ。

「ううん、なんでもない」

 僕はやっぱり一人で生きていくしかないんだ。
 そう、覚悟しなくちゃいけない。

 もう、来栖くるす先輩はいないし、暖人もいなくなっちゃうんだから。
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