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 髪の毛を、柔らかに撫でられている感覚がして。
 朧気に瞼を開けると暖人はるとがベッドの傍の丸椅子に座って僕の髪の毛を指でもてあそぶように優しくいていた。

「目ぇ覚めた? お疲れ、葵晴あおは。点滴、もうちょっとで終わるぞ」

 頭の上にある暖人の腕をじっと見つめた。

「……暖人。ずっと居てくれたの?」

「俺のせいなんだから当たり前だろ。なぁ、葵晴──」

 頭の上にあった手が僕の頬に滑り落ちて来て、暖人が何か確かめるように頬を撫でるので「うん?」と顔を窺う。

「葵晴が寝てる間にさ、葵晴にとって良い知らせが二つ出来た」

 僕にとって良い知らせ?
 一体、何のことだろうと目をしばたたかせて暖人を見つめる。

「良い知らせ?」

 暖人がにっこり口角を吊り上げて笑ってみせた。
 僕の髪をクシャクシャッと掻き回して、他愛もないことみたいにいつもと変わらない平坦な口調でポロリとこぼした。

「俺、今日付けで会社クビんなった」

 その言葉に思考が追い付かなくて呆然と暖人を見つめてしまう。

 は? どういうこと?
 何で暖人が会社をクビになるの?

「な、んで……? 暖人、何かしたの……?」

「朝さ、会社に戻ったら来栖くるすがヘラヘラしながら『椎名しいなは?』とか言ってきやがったからさ、ぶん殴ってやったんだ。社長の前で。葵晴の名前は出さなかったけど、二度と近寄んなって言っといたから。だから、もうアイツに痛めつけられんのはやめろ。新参者の俺なんかより、ずっと信頼されてるアイツをぶん殴って、日割り賃料もらってそっこークビ。スカッとしたわ」

 視界がじわじわと霞み出す。

「もう一個の、良い知らせって……?」

 暖人が、そっと目を細めて、どこか寂寥せきりょうを込めて僕を見つめた。
 今度は何を言い出すんだろうと、僅かに肩が震えた。

「俺、新しい部屋決まった。もう、葵晴の傍にいて、葵晴のトラウマ掘り起こさせんの、やめっから。本当に、たくさん傷つけて悪かったな」

 待って、待って、待ってよ。

 それって、僕は本当に独りぼっちじゃん──。
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