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 それから、僕は三日間仕事を休んで。
 暖人はるとが毎日病院まで付き添ってくれて、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

 僕はすっかり元気になって、明日からは仕事に復帰する。
 暖人が作ってくれた肉じゃがと、焼いた秋刀魚サンマと、ほうれん草の胡麻和えと白米を前にして、一緒に「頂きます」をすると暖人がポツリとこぼした。

「──葵晴あおは、明日から仕事だな」

 どこか寂しそうな暖人の声に僕の胸がチクリと痛む。
 もう、覚悟したことだけれど、明日から仕事に復帰しても来栖先輩は僕に話しかけてはくれないだろうし、暖人もいなくなる。

「うん。暖人、ありがとう。いつ引っ越すの?」

「……ああ、一週間後。わりぃな、もうちょっと葵晴の家に置いてくれな」

 僕は黙って、ホクホクと温かい肉じゃがに箸をつけて。
 それをゆっくり咀嚼そしゃくして、あと一週間で暖人はいなくなるんだと、その現実も一緒に飲み込んだ。

「別にいいよ。暖人はソファね」

「わかってるって。もう葵晴に触んねぇから」

 その言葉に、チクリと痛んだ胸がズキリと痛む。
 僕から突き放してるくせに、なんで僕の胸が痛むんだ。

 秋刀魚に醤油をかけようとして手を伸ばすと、同じタイミングで醤油を取ろうとした暖人と手が触れ合う。

「あ、触った」

 暖人が、フッと微笑んだ。
 僕の秋刀魚に醤油をかけてくれる。

「今のは事故。もう触んねぇって」

「絶対?」

 小首をかしげると、暖人が溜め息を吐いた。
 箸を置いて、僕を見つめてくる。なんでかな、僅かに視界が霞んで。

「絶対。俺はもう葵晴を傷つけねぇ」

 それが、僕を傷つけてるんだけどな──。

 なんて、言えるわけもないので、ただ黙って食事を続けた。
 暖人も、そこからはもう何も喋らなかった。こんな風に、暖人と居られる時間も、もう間もなく終わる。

 やっぱり涙がこぼれて泣きながらご飯を食べた。

 暖人と離れるのが悲しいんだと、勘違いさせてしまっているだろうか。僕から突き放しているくせに、悲しいんだと勘違いさせてしまうだろうか。

 でも、暖人は何も言わなかったし、僕と視線を合わせようともしなかった。

 ただ、黙って泣かせてくれた。

 多分きっとこれは、好き、なんだろうな。

 もう言えないけれど。
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