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 家に帰ると今日も暖人はるとが待っていてくれた。
 キッチンに立って鍋の中のカレーを温め直してくれている匂いがする。

「おかえり、葵晴あおは。大丈夫か? 飯食おう?」

 でも、僕は何故だかさっきタクシーで帰っている途中から頭がふわふわしていて、身体が怠くて、それから窄まりが酷く痛んで、フラフラしながらリビングの扉を開けたところで。

「暖人……なんか、具合悪い……」

 暖人がコンロのガスを止めて近付いてきた。
 僕の額に手を当てる。その動作に、自分で支えられていた重心が支えられなくなって、暖人の胸に身を預ける。

「葵晴、すげぇ熱あんぞ? 風邪か? 大丈夫か?」
 
 言いながら、僕を横抱きにして寝室の扉をくぐりベッドに降ろしてくれた。
 ネクタイを引き抜かれて、シャツを脱がされ、スラックスのベルトに手がかかる。

 朦朧とする頭の中で、また傷ついたそこを見られたくないという意識が働いて手首を掴んでみたけれど、暖人がそれを制して下着ごと引き下げた。

 拳を握りしめているのがわかった。
 暖人のスウェットの胸に力なく、指を震わせながらしがみつく。

「暖人、来栖くるす先輩はね……僕が暖人の傍にいるのが気に食わないから、僕を捕まえてるんだって。暖人が僕の家を出て行ったら、来栖先輩の勝ちで、そしたら僕とはもう寝なくて済むんだって……。セフレ以下の関係だったよ……僕たち……。暖人……痛いよ、全部全部痛いよ……」

 堪えきれなくなった涙がはらはらとこめかみを伝う。
 暖人が無言で救急箱から軟膏を取り出して、僕の窄まりに優しく塗り込んで、黙ってスウェットに着替えさせられた。

「葵晴、もう喋んな。明日、一緒に病院へ行くぞ。今日はもう、なんも考えずに寝ろ」

 リビングへ戻っていった暖人が、額に貼る冷感シートを持ってきてくれて、僕の額に貼って、その上から掠めるように口付けた。

 一緒に、ベッドの中に入ってきてくれる。

 僕を包み込むように抱きしめて、「死にてぇのは俺の方だよ、葵晴。俺は、最低だ。アイツよりも、最低だ」それだけ呟いて、静かに肩を震わせた。

 暖人の言うとおりだよ──。

 言うとおりなのに、僕は何故だか縋るように、熱で上気している腕を暖人の背に回してしまって。

「死ぬなんて言わないで……暖人」

 暖人の瞳から流れる涙を指で拭ってあげたら、 指先から伝染したように僕の瞳からも涙がこぼれた。

「だから、もう喋んなって。早く寝ろ」

 そう紡がれた暖人の声は、どこまでも震えていた。
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