こんな僕の想いの行き場は～裏切られた愛と敵対心の狭間～

２９

「なぁ、葵晴あおは！　んだよこれ！」

　暖人はるとが僕の肩をゆさゆさと揺すった。
　そっと、覗き込んだ暖人の瞳も潤んでいて、僕の瞳から止めどなく涙がこぼれる。

「僕の……孤独が埋まらないよ……暖人。どうして……どうして僕を裏切ったの？　僕の幸せを壊したの？　ねぇ、暖人……」

　暖人の潤んだ瞳から一滴の粒がこぼれた。
　僕をきつくきつく抱きしめて、でも、何も言わなかった。

　謝罪も弁解も何もしなかった。
　ただただ、抱きしめる腕に力を込められて、その温かな胸に柔やわに縋りつく。

「葵晴……愛してる」

　それだけ呟いて、僕の頭を思い切り胸に押し込んだ。
　抱きしめられる、その腕に身を任せて。もう、全ての思考を飛ばして、暖人にぎゅっとぎゅっと抱き着く。

　暖人の腕が震えていた。
　泣いているんだろうことがわかった。

「僕も……愛してたのに……。僕は……ずっとずっと愛してたのに……。ずっとずっと暖人と居たかったのに……。もう、怖いんだ。僕は裏切られるのが怖いんだ。だったら、どんなに辛いことをされても、来栖くるす先輩が傍にいてくれるなら……それで、孤独が埋まったらって思った。でも、埋まらないんだ。助けてよ、暖人。僕は、一人で生きていかなきゃいけないのに、独りが怖いんだ……」

　僕は、どこへ行ったらいいの？

　暖人が、そっと僕の身体を離した。
　手の平で、拭われても拭われてもこぼれだす涙をずっと拭い続けてくれる。

「明日、来栖と話をさせろ。たとえ、葵晴がもう俺と戻れねぇんだとしても、葵晴にこんなことしたアイツを許せねぇ」

　暖人の手をぎゅっと握る。
　それから、焦りを隠せないままに首を横に振った。何度も何度も横に振った。

「ダメだよ、暖人。僕は、来栖先輩の傍に居るって決めたから。辛いことをされても傍に居てもらえるなら……それで気休めになるのなら……僕は来栖先輩を失うのが怖い」

　暖人が、僕に険しい表情を向けた。
　なんだよ。暖人に、僕を責められる権利なんて何一つないのに、なんだよ。

「これが気休めか？　こんなことされんのが気休めか？　なぁ？　葵晴。お前だって本当はそう思ってねぇだろ？　そう思い込みてぇだけだろ？　なんでこんなことされて平気でアイツと居れんだよ」

　ボロッと、また大粒の涙が頬を伝った。