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「うん。暖人はると来栖くるす先輩に想いを言ってくれたお陰で、僕は来栖先輩と幸せになれた。そこだけは、感謝してる」

 暖人が、ダイニングチェアから立ち上がって、僕の目の前まで来た。

「なぁ、葵晴あおは。抱きしめてもいいか?」

 そんなの、許可なんて取らなかったくせに。
 来栖先輩と幸せになれたって言ったから、今更、律儀に許可を取るんだ。

「やだ」

 だって、今、抱きしめられたら泣くから。
 暖人とも、やり直せないし、来栖先輩は、僕を見てくれないし。

 独りぼっちの僕は、今、優しくされたら泣くから。

「そっか……悪い。葵晴を傷つけて本当に悪かった。早く、部屋探して出てくから」

「うん。早く出てって、またあの女とよろしくやれば?」

 それだけ言って暖人の脇を擦り抜けて自室に入った。
 途端、堰を切ったように涙がこぼれてくる。

 誰か、誰か僕の傍にいてよ。
 ずっと僕の傍にいて、ずっと僕だけを見て、ずっと僕だけを大切にして、ずっと僕を独りにしないでよ。

 こんなマイノリティな僕はやっぱり一人で生きていくしかないの?
 この孤独を埋めようとするのが間違ってるの?

 スウェットのポケットに突っ込んでいたスマートフォンがブブッと振動して、メッセージアプリの着信を告げた。

 そっとディスプレイを覗いてみると来栖先輩からだった。

日高ひだかくんに何もされてないよね? 日高くんに気持ちフラついてないよね? ちゃんと俺だけを見ててね? 椎名しいなは俺が守るから。明日も抱いてあげるね?』

 そのメッセージに少しだけゾッとする。
 まだヒリヒリと痛んでいる窄まりに、明日もまた挿入されたら壊れてしまうのではないか、そう思った。

 でも──。

 僕は来栖先輩が好きなんだ。
 たとえ、暖人への敵対心からの気持ちでも、僕を見ていてくれなくても、それでも傍にさえ居てくれるなら。

『何もされてません。来栖先輩が一緒にいてくれたお陰です。僕は幸せです。明日も、僕を守ってください』

 それだけ送って、瞳から伝った涙がディスプレイに落ちた。
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