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 翌日──。

 出社するなり、サポートの依頼があって。
 杉嵜すぎざき町三丁目の畑中はたなかさんのお宅のインターネットが繋がらないという電話があったらしく、僕は一応指導係として面倒を見ている暖人はるとを連れて畑中さんのお宅に向かった。

 カーナビをセットして社用車を暖人が運転してくれる。

「なぁ、葵晴あおは

 暖人がハンドルを握って真っ直ぐ前を向いたまま、僕の名前を呼んだ。

「うん?」

 僕は暖人の顔を覗き込む。
 暖人は僕と視線を絡めてくれない。運転中だから当たり前だけれど。それが何だか切なくて。

「俺、今日、仕事の帰りに不動産屋寄るから遅くなるかもしんねぇけど、夕飯遅くなっても大丈夫か?」

「僕も、今日も仕事の帰りに来栖くるす先輩と会うから大丈夫」

「そっか……」と暖人が呟いて、そこからはもうずっと無言だった。
 やがて目的地に到着して僕たちは畑中さんのお宅にお邪魔した。

 二人でパソコンを散々いじっても解決しなくて、途方に暮れたものの、結局ただLANケーブルがルーターから抜けていただけで、僕たちは出張サポート料六千円を頂いて畑中さんの家を後にした。

 また、二人で社用車に乗り込む。
 僕がシートベルトを着けると、いきなり暖人が抱き着いてきた。

「……わりぃ、触っちまった。やっぱ俺、葵晴が好きだ。アイツんとこに行かせたくねぇ。好きで好きで仕方ねぇんだ……。どうすりゃいいんだよ……」

 思わず、涙がこぼれそうになる。

 きっと、今晩会っても来栖先輩は僕を抱きしめてはくれないだろう。抱きつかせてもくれないだろう。僕に、触れてもくれないだろう。

 また、何もわからない来栖先輩に一方的に身体を暴かれて、僕はそれが気持ちいいんだと認めさせられるだけだろう。

 こんなに、温かに抱きしめてくれるのは暖人だけだろう。

 どうして僕を裏切ったんだよ、暖人──。

 暖人さえ裏切らなければ、こんなことにはならなかったのに。
 来栖先輩はずっと優しい先輩で、恋心なんて抱かずに、辛い思いをすることもなくて、暖人だけに愛されて、愛して、幸せでいられたのに。
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