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「ただいま……」
玄関を開けて、リビングの扉をくぐる。
掛け時計を見ると既に二十三時を過ぎていて、ダイニングテーブルの上に暖人がうつ伏せて眠っていた。
僕は、何でかな……。
放置しておけばいいのに、寝室から掛け布団を持ってきて暖人の肩にそっと被せた。
来栖先輩に吐き出された熱のせいでお腹が痛くなってきて、トイレに籠る。
すぐにシャワーを浴びて再びリビングに戻ると暖人が起きていた。
「おかえり、葵晴」
「うん……ただいま」
暖人は、何も言葉をかけてこなかった。
来栖先輩と何をしてきたかも訊かず、バスタオルで頭をゴシゴシ拭く僕をじっと見つめてきた。
暖人の連絡を無視したことで、暖人が怒っていて、何かしてくるかと思ったけれど、何もしてはこなかった。
ただ、ポツリとこぼした。
「葵晴、楽しかったか?」
じわじわっと涙が滲んで。
頬に、一滴の粒が伝って、慌ててそれを手の甲で拭う。
「うん。僕、来栖先輩と幸せになれた。暖人から救ってくれるって」
暖人が、何かを諦観したように瞼を伏せた。
それから、まるで自分に言い聞かせるように、そっと言葉を紡いだ。
「俺さ、考えたんだ。葵晴が来栖先輩と一緒にいるところ、邪魔しようとして電話かけた時、自分のしたこと棚に上げて何してんだろうなって。葵晴が、俺のスマホに届いたあの女からのメッセージ見た時、葵晴もこんな風に苦しんだんだなって思ったら、俺はせめてもの罪滅ぼしに葵晴を幸せにしてやんなきゃいけねぇんだよな。悪かった、葵晴……傷つけるようなことばっかしちまって。でも、俺が来栖先輩に葵晴の気持ち伝えてやったお陰で幸せになれたんだろ?」
暖人が、離れていこうとしている──。
僕は、憧れていた来栖先輩に抱いてもらえて幸せになれたはずだ。
暖人は、僕を裏切ったんだから、今更ヨリを戻すつもりなんて毛頭ない。
でも、暖人は僕と『ジジイになっても一緒にいる』と言ってくれた。
来栖先輩が僕を見つめる気持ちは、暖人への敵対心と僕への興味本位だけ。
裏切られた愛にも戻れなくて、敵対心な気持ちも辛くて。
僕がワガママなのかな?
大好きだった来栖先輩と、関係を持てることになって、裏切られた暖人も離れていこうとしていて。
全て僕の思惑通りに事が進んでいるはずなのに。
どうして、こんなに胸が苦しいんだろう。
僕の想いはどこに行けばいいんだろう。
玄関を開けて、リビングの扉をくぐる。
掛け時計を見ると既に二十三時を過ぎていて、ダイニングテーブルの上に暖人がうつ伏せて眠っていた。
僕は、何でかな……。
放置しておけばいいのに、寝室から掛け布団を持ってきて暖人の肩にそっと被せた。
来栖先輩に吐き出された熱のせいでお腹が痛くなってきて、トイレに籠る。
すぐにシャワーを浴びて再びリビングに戻ると暖人が起きていた。
「おかえり、葵晴」
「うん……ただいま」
暖人は、何も言葉をかけてこなかった。
来栖先輩と何をしてきたかも訊かず、バスタオルで頭をゴシゴシ拭く僕をじっと見つめてきた。
暖人の連絡を無視したことで、暖人が怒っていて、何かしてくるかと思ったけれど、何もしてはこなかった。
ただ、ポツリとこぼした。
「葵晴、楽しかったか?」
じわじわっと涙が滲んで。
頬に、一滴の粒が伝って、慌ててそれを手の甲で拭う。
「うん。僕、来栖先輩と幸せになれた。暖人から救ってくれるって」
暖人が、何かを諦観したように瞼を伏せた。
それから、まるで自分に言い聞かせるように、そっと言葉を紡いだ。
「俺さ、考えたんだ。葵晴が来栖先輩と一緒にいるところ、邪魔しようとして電話かけた時、自分のしたこと棚に上げて何してんだろうなって。葵晴が、俺のスマホに届いたあの女からのメッセージ見た時、葵晴もこんな風に苦しんだんだなって思ったら、俺はせめてもの罪滅ぼしに葵晴を幸せにしてやんなきゃいけねぇんだよな。悪かった、葵晴……傷つけるようなことばっかしちまって。でも、俺が来栖先輩に葵晴の気持ち伝えてやったお陰で幸せになれたんだろ?」
暖人が、離れていこうとしている──。
僕は、憧れていた来栖先輩に抱いてもらえて幸せになれたはずだ。
暖人は、僕を裏切ったんだから、今更ヨリを戻すつもりなんて毛頭ない。
でも、暖人は僕と『ジジイになっても一緒にいる』と言ってくれた。
来栖先輩が僕を見つめる気持ちは、暖人への敵対心と僕への興味本位だけ。
裏切られた愛にも戻れなくて、敵対心な気持ちも辛くて。
僕がワガママなのかな?
大好きだった来栖先輩と、関係を持てることになって、裏切られた暖人も離れていこうとしていて。
全て僕の思惑通りに事が進んでいるはずなのに。
どうして、こんなに胸が苦しいんだろう。
僕の想いはどこに行けばいいんだろう。
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