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翌朝──。
暖人と出勤して各々の席に着くと、また頭に手の平が乗って。
「おはよう、椎名」
昨日あんな風に来栖先輩を置き去りにしてしまったのに、またいつもと変わらない温かさで挨拶をしてくれる優しさに瞳に涙が滲みそうになる。
「来栖先輩……昨日はすみませんでした」
「気にしてないよ。でも、俺、椎名にちゃんと話が聞きたい。昨日、日高くんが言ったことは本当なの?」
暖人が言ったこと──。
それは勿論、来栖先輩への気持ちなんだろうけど。
来栖先輩はどう受け止めたんだろう。こんな風に変わらず接してくれてるってことは嫌な気分にはさせてない?
ひょっとしたら来栖先輩が僕を見てくれるかも……なんて、あり得もしないことを考えてしまう。
「本当です……。気持ち悪いですよね。すみません」
「別に気持ち悪くなんかないよ? 椎名は可愛い後輩だよ? それに、そんなこと言われたんじゃあ、ますます椎名の口からちゃんと聞きたい。今日は家に寄らないで、仕事が終わったら、そのまま飲みにでも行かない?」
ドキリと胸が高鳴る。
あんな告白をしてしまった後で、僕は来栖先輩に何を話したらいいんだろう。
そうこうしていると、傍に暖人がやってきて。
「昨日はどうも、来栖先輩? 俺の葵晴とコソコソ話っすか?」
「日高くん。昨日も言ったけど、椎名をこれ以上傷つけるな。もう椎名は日高くんの椎名じゃないだろう?」
暖人が、焚きつけるような視線を来栖先輩に向けた。
僕は二人のやりとりにハラハラしてしまう。
暖人が、昨日言ってくれた言葉が嬉しいような自分もいて、でも、来栖先輩が好きな気持ちも確かにあって、僕はどちらの側についたらいいのだろうと行き場のない思考を彷徨わせる。
「確かに俺は葵晴を傷つけました。でも、それはこれから挽回したいと思ってます。だから言いましたよね? こいつ、来栖先輩のことが好きなんすよ。ちょっかいかけないでもらえません? 俺が取り戻す予定なんで」
「暖人っ!」
僕がたしなめても暖人は飄々とした様子で。
来栖先輩が何も言わずにその場を去って、僕はその背中を切ない気持ちで見つめてしまう。来栖先輩に、もうこれ以上嫌われたくない。
「葵晴、来栖先輩と何を話した?」
「暖人には関係ない。僕を束縛するのはやめて」
暖人が、真剣な瞳を僕と絡めた。
僕の手を握りそうに腕を向けてきて、でも、ここが会社だと気づいたのだろう、その手を引っこめた。
「昨日、葵晴に言った言葉、俺は本気だから。忘れんな」
それだけ言って、デスクに戻って行った。
そこで、スーツの内ポケットに入れていたスマートフォンがブブッと振動してメッセージが届いた。差出人を見ると来栖先輩だった。
『今日、仕事が終わったらキュリオスに行こう?』
『キュリオス』は、僕と来栖先輩の行きつけのバーだ。
僕が暖人と別れた日から、度々相談に乗ってもらっていた場所だ。
『わかりました。ありがとうございます』と返信して来栖先輩を遠目に見遣ると視線が絡まって、にっこり笑ってくれて。僕はその笑顔に少しだけズキリと胸が痛んだ。
暖人の言葉が、嬉しい自分がいることに──。
暖人と出勤して各々の席に着くと、また頭に手の平が乗って。
「おはよう、椎名」
昨日あんな風に来栖先輩を置き去りにしてしまったのに、またいつもと変わらない温かさで挨拶をしてくれる優しさに瞳に涙が滲みそうになる。
「来栖先輩……昨日はすみませんでした」
「気にしてないよ。でも、俺、椎名にちゃんと話が聞きたい。昨日、日高くんが言ったことは本当なの?」
暖人が言ったこと──。
それは勿論、来栖先輩への気持ちなんだろうけど。
来栖先輩はどう受け止めたんだろう。こんな風に変わらず接してくれてるってことは嫌な気分にはさせてない?
ひょっとしたら来栖先輩が僕を見てくれるかも……なんて、あり得もしないことを考えてしまう。
「本当です……。気持ち悪いですよね。すみません」
「別に気持ち悪くなんかないよ? 椎名は可愛い後輩だよ? それに、そんなこと言われたんじゃあ、ますます椎名の口からちゃんと聞きたい。今日は家に寄らないで、仕事が終わったら、そのまま飲みにでも行かない?」
ドキリと胸が高鳴る。
あんな告白をしてしまった後で、僕は来栖先輩に何を話したらいいんだろう。
そうこうしていると、傍に暖人がやってきて。
「昨日はどうも、来栖先輩? 俺の葵晴とコソコソ話っすか?」
「日高くん。昨日も言ったけど、椎名をこれ以上傷つけるな。もう椎名は日高くんの椎名じゃないだろう?」
暖人が、焚きつけるような視線を来栖先輩に向けた。
僕は二人のやりとりにハラハラしてしまう。
暖人が、昨日言ってくれた言葉が嬉しいような自分もいて、でも、来栖先輩が好きな気持ちも確かにあって、僕はどちらの側についたらいいのだろうと行き場のない思考を彷徨わせる。
「確かに俺は葵晴を傷つけました。でも、それはこれから挽回したいと思ってます。だから言いましたよね? こいつ、来栖先輩のことが好きなんすよ。ちょっかいかけないでもらえません? 俺が取り戻す予定なんで」
「暖人っ!」
僕がたしなめても暖人は飄々とした様子で。
来栖先輩が何も言わずにその場を去って、僕はその背中を切ない気持ちで見つめてしまう。来栖先輩に、もうこれ以上嫌われたくない。
「葵晴、来栖先輩と何を話した?」
「暖人には関係ない。僕を束縛するのはやめて」
暖人が、真剣な瞳を僕と絡めた。
僕の手を握りそうに腕を向けてきて、でも、ここが会社だと気づいたのだろう、その手を引っこめた。
「昨日、葵晴に言った言葉、俺は本気だから。忘れんな」
それだけ言って、デスクに戻って行った。
そこで、スーツの内ポケットに入れていたスマートフォンがブブッと振動してメッセージが届いた。差出人を見ると来栖先輩だった。
『今日、仕事が終わったらキュリオスに行こう?』
『キュリオス』は、僕と来栖先輩の行きつけのバーだ。
僕が暖人と別れた日から、度々相談に乗ってもらっていた場所だ。
『わかりました。ありがとうございます』と返信して来栖先輩を遠目に見遣ると視線が絡まって、にっこり笑ってくれて。僕はその笑顔に少しだけズキリと胸が痛んだ。
暖人の言葉が、嬉しい自分がいることに──。
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