こんな僕の想いの行き場は~裏切られた愛と敵対心の狭間~

ちろる

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「元カノ、何て言ってきたの?」

 お昼、和食店『とと屋』で僕と来栖くるす先輩は同じヒレカツ定食を突いていた。

 僕は箸を動かす手を止めて、今も尚、家に居るであろう暖人はるとのことを思って瞳が滲みそうになる。

「あんなクソ男よりも僕を愛してる。やり直そうって……。しかも今、無職らしくて部屋に置いてくれって、居座ってるんです……。でも、僕もう今更やり直そうとか言われても好きな人がいるし……」

 そこで来栖先輩が目をしばたたかせた。
 しまった……と思った時には、時すでに遅し。来栖先輩が身を乗り出すように僕にテーブル越しに詰め寄ってきた。

椎名しいな、いつの間に好きな人なんて出来たの? 初耳だよ? 誰? 小春こはるちゃん?」

 小春ちゃんは、僕と同い年で事務と電話応対を担当している会社の女の子だ。もちろん、ゲイである僕が女の子を好きになるわけがない。

 来栖先輩なんです──。

 なんて、言えたらどんなに楽だろう。
 でも、来栖先輩には僕がゲイだなんて絶対に悟られちゃいけないし、嫌われたくない。

「えっと……ちょっと、昔からの友達です……」

「じゃあ、さっさと元カノ追い出して、その友達にアピールしていけばいいんじゃないの?」

 こんなにアピールしてるんだけどな。
 そんな言葉は、このヒレカツと一緒に飲み込むしかないのはわかっているけれど。

 僕だって、さっさと暖人を追い出したい。
 苦しんで、苦しんで、やっと忘れかけていた暖人と、またあの頃のように一つ屋根の下で暮らすなんて辛すぎる。

 だけど──。

 奴は今は無職だけれど、これから僕たちの会社に入社してくるまで家に置いているだなんて言えるわけもない。

 というか、奴に来栖先輩への気持ちを悟られたらどうなるか……。

 そう考えたら、僕の想いは暖人にも、来栖先輩にも、どこにも行き場がなくなってしまって、またあの空虚な日々が帰ってくるんじゃないか……そう思うと怖くて仕方がなかった。

「はい……ちゃんとアピールしてみます……」

 僕の気持ちはどこへ行けばいいんだろう。
 こんなマイノリティな僕の気持ちは。
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