【完結】元社畜の付与調律師はヌクモリが欲しい

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オルクス公爵領ダンジョン調査

77.元社畜とダンジョン探索パーティ

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イカれたメンバーを紹介するぜ!的なお話

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「うう……」

 私はしょぼしょぼした目をこする。カーテンの隙間から差し込んでくる朝の光が眩しい。
 ちょっとだけ寝不足なのは、昨日のヒースさんのあれこれを考えてしまって、寝つきが悪くなってしまったからだ。
 いや、自意識過剰だってわかっているんですけどね!?免疫ないのでね!?
 寝て起きたら、気持ちは結構落ち着いていた。これも≪精神耐性メンタルガード≫スキルのおかげかなあ。
 ふわ、と漏れたあくびをかみ殺して、私はもそもそと朝の支度にとりかかった。

 昨日とは打って変わって、再び冒険者向けスタイルだ。防御系の魔石がはまったアクセサリーも忘れず着用。
 そして、髪の毛をポニーテールに結わえる。こうやって改めてまとめてみると、随分髪の毛も伸びたなあ。
 ヒースさんが購入してくれたもののうち、今日はベルベット地めいた深緑のシックなシュシュにした。シンプルだけど使い勝手が良いし可愛くて、気分が上向きになる。
 私は部屋に設置されている姿見で、何度も自分の髪型を確認して、えへへと笑ってしまった。



* * *



「おはよう、カナメ。よく眠れた?」
「おはようございます、ヒースさん。まあ、ぼちぼち……」
「さしものカナメも緊張してるのかな? 眠いようなら、馬車で肩を貸すよ」
「あはは。ありがとうございます」

 ちょうどお隣の部屋から出てきたヒースさんが、私の髪型を見て上機嫌に笑うのが、少しだけ恥ずかしい。
 担当してくれる侍女さんに連れられ、私とヒースさんは雑談しながら、一緒に食堂までの道のりをしずしず歩く。食堂は何度か使わせてもらっているから場所はわかっているのだけど、やはり公爵家、あれこれ手厚い。
 身支度や風呂の手伝いは、さすがに遠慮させていただいているけどね。庶民なので、恐れ多さが勝る。

 と思ったら、いつもと違う道を通って、案内された食堂は第2。こちらはお客様用らしい。昨日までは、ご家族の皆さんとの食卓に、混じらせてもらっていたものね。てか、食堂が複数あるのが、そもそもびっくりだよ。

 食堂に足を踏み入れると、見知らぬ女性が1人座っていた。一体誰だろう?
 彼女は私たちを視界に入れると、ふわりと黒みがかった青い瞳を細めた。くすんだ金髪のふわっとした猫っ毛を三つ編みに結わえ、シンプルだけど質の良さげな冒険者服をまとっている。
 が、すっと背筋を伸ばした立ち居振る舞いと、感じる魔力が、ただびとじゃないと教えてくれる。

「ああ、おはよう。みんな揃っているね。勤勉だねえ~」

 すぐ後ろから、シラギさんを引き連れたディランさんののん気な声が聞こえる。あ、私たちが入り口塞いじゃっていたみたいだ。

「はいはい、みんな座った座った。軽くブリーフィングしたくて、こっちにきてもらったんだ。朝食を食べながらでもいいかな。僕、お腹ぺっこぺこでさ」

 そう言うディランさんに背中を押されて促され、私たちは各自席に着いた。
 対面にはディランさん、女性、シラギさん、私の隣にはヒースさんが座っている。
 私とヒースさん、位置が逆じゃない?と思わなくもなかったが、「野郎の顔を見ながらご飯食べたくなーい」とディランさんが我儘を言ったため、こういう席順になった。

 ディランさんの合図で、朝食がテーブルに並べられていく。パン、卵料理、肉料理、スープ、フルーツなどなど、たくさんの料理が所狭しと用意された。朝からかなりがっつりなメニューだ。戦闘に従事する方が多いと、やっぱりそれなりに量がないと駄目なんだろうねえ。
 女性だけ盛りが少なめだったのは、ちゃんと配慮されているからだろう。うん、男性陣と同じだけ食べ切るのは無理だったから、ありがたい。

「では、改めて、この5人が今回のダンジョン調査のメンバーだよ。命を預けることになるパーティーだ。互いを知ることは大事だからね。まずは僕から自己紹介。ディランダル・オルクス。22歳! 冒険者ランクはA。クラスは密偵エージェント。属性は『一属性エンジ』の地。一応パーティのリーダーを務めさせてもらうつもりだよ。よろしくね~。じゃあ次はアマーリエ嬢ね!」

 えええええ、そこまで情報開示しちゃっていいんだ!?特にクラス持ちとか、それ自体が重大な情報なのに。てか、ディランさんのクラス、暗殺者アサシンじゃなかったんだね……。

 私の心配をよそに、ディランさんは隣に座っていた女性に笑顔を向けると、颯爽とパンを手にした。本当にお腹が空いていたんだね……。

「私はアマーリエ・シノノメと申します。シノノメ公爵家3女で、19歳です。クラスは治癒師ヒーラー。普段は神殿に従事しておりますが、今回ディランダル様にお願いして、同行させていただくことになりました。冒険者ランクはCです。属性は『二属性アーク』の光と水。よろしくお願いします」

 よろしくの部分は、私とヒースさんに丁寧に頭を下げてくれた。笑顔が可憐な、感じの良い女の子で、私もにこっと顔をほころばせた。
 それにしても、シノノメ公爵家って、聖女の家系って言われているところじゃなかったっけ?
 何でまたそこのお嬢さんが、ダンジョン探索に加わったんだろう。治癒師がいるってだけで、かなり安心できるけど。

 アマーリエさんは、視線を流してシラギさんを指名する。どうやら反時計回りになりそうだ。

「シラギ・アーベラインです。ディランダル様の副官を仰せつかっております。冒険者ランクはB。ええと、年齢は23歳です。オルクス公爵領騎士団にて副団長を拝命しております。属性は『一属性』の風です。よろしくお願いします」

 シラギさんは、相向かいに座っているヒースさんに向けて頷いた。

「ヒースです。冒険者として、今回ディランダル君に依頼を受けました。28歳。冒険者ランクは特級。属性は『一属性』の風。カナメの保護者でもあります。よろしくお願いします」

 特級!? さらりと語られた事実に、私は思わず目を剥いた。ってか、アマーリエさんも、口元に手を当てている。他の2人は驚く風もなかったので、あらかじめ知っていたっぽい。
 てか、ヒースさんってば、いつの間に昇格試験を受けていたんだろう。聞いてないよ。

 特級って、世界に数人しかいない、一人で災害級の魔物も倒せるってレベル、最高峰じゃないですか。位置的には、ユエルさんとか、かつてのグランツさんと同じってことだよ。すごいよ。

「ええと、カナメ・イチノミヤです。『界渡人わたりびと』でクラスは付与調律師ヴォイサー。25歳になりました。冒険者ランクはEです。今回は、荷物持ちポーターと料理人としての参加です。属性は『一属性』の闇ですが、ええと……『全属性セラフ付与エンチャント持ちです。足手まといにならないよう頑張りますので、よろしくお願いします」

 ヒースさんから、いいのか?という無言の視線が寄せられたけれども、構わないと思う程度には、ディランさんのことを信頼している。今まで私という存在に関しては、バレバレだったとはいえ、肯定も否定もしてこなかったしね。
 アマーリエさんは、そんなディランさんが連れてきた人なのだから、問題ないはず。多分。3大公爵家の人だし、ある程度私の情報も共有されているのではなかろうか。
 そんなわけで、私からの明確な情報開示は、信頼の証のつもりだったんだけど。

「待って、カナメ25なの!? 25!? 嘘でしょ!? 僕より歳下だとばっかり!!」

 ディランさんは、バターナイフを片手に愕然としていた。
 最初に突っ込むところそこか!てか、『界渡人』だの、付与調律師だのの情報は入手できていたくせに、どうして年齢で驚くんだ。いくら日本人が若く見られる傾向だとしても、そこまで若作りしてないと思うのだけど。
 ある程度年月の数え方は地球とズレがあるものの、こちらにきてちょうど1年が経ったから、1つ歳を重ねたというわけだ。私、冬生まれなので。いやあ、感慨深いねえ。

「ちなみに、いくつくらいだと思っていたんです?」
「アマーリエ嬢くらいか、下手したらそれ以下……」
「さすがにそこまで子供じゃないです、失礼な!」

 ぷんと私は頬を膨らませる。
 いや、アマーリエさん、ふわっとしたお嬢さんなイメージだけど、19歳には見えないくらい凄く大人びているけれどもね!?
 くっ、散々ちびっこちびっこお嬢ちゃんって言われたクラリッサの街を思い出す。当初、侮られて大変だったんですよ、可愛がってもくれたんだけど。「おい、ちびっこ」「ちびっこくないです、普通です!」は、しばらく私の定番ネタになっていたくらいだよ。身長が……身長が欲しい……。

 私とディランさんの低レベルなやり取りに、こらえきれない感じでふふっとアマーリエさんが吹き出した。

「笑ってしまってすみません。お2人とも、仲がよろしいのですね」
「すっごい仲良しだよ!」
「別によくないです」
「あっ、カナメひっど!!」
「ぶふっ……!」

 我々の追撃に、アマーリエさんは肩を震わせている。笑い上戸かな。
 貴族のお嬢さんだと、あんまり感情を露わにするのはよくないと言われているけれども、大丈夫なんだろうか。私としては、こうして素直に笑ってくれるほうが、個人的には好きだなあ。ユエルさんといい、あんまり貴族らしい貴族に当たっていないのは、幸いかもしれない。

「騒がしくてすみません」
「いえいえ、皆様方と仲良く楽しくやっていけそうだなと」

 アマーリエさんは、心底楽しげに、微笑んでくれた。
 そう言って、肩の力を抜いてもらえるのなら何よりだよ。まだまだ初対面だし、堅苦しいのは嫌だしね。

 話の流れがいい感じになったところで、そういえば、とヒースさんが小首を傾げた。

「シノノメ公爵令嬢は、何故今回同行を?」
「はい。ディランダル様が、ダンジョン調査のために治癒師を探している、という話が家に回ってきたのが発端なのですけれども、何よりそこにカナメ様が参加されるとのことで、シノノメ家一同恩義に報いるために、是が非でもと立候補させていただいた次第です。治癒は、我が家の十八番おはこですし」
「私、ですか?」

 恩義、とな。
 えっ、言葉が重くない!?そこまで言われるほどのこと、何かやったっけ?心辺りがさっぱりない。
 誰か≪調律ヴォイシング≫の患者さんでもいたのだろうか。

「ええ。カナメ様、我が一門にタオルをご提供くださり、本当にありがとうございました!」
「……ああ!」







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要「ヒースさん、いつの間に特級に……教えてくれたらお祝いしたのに、水臭いです」

ヒース「や、黙っていたわけじゃないんだが、冬にカナメがしばらく保存食作りに励んでいたとき、緊急依頼で出た討伐の依頼があっただろう? 雪雷獅子っていう厄介なのでね。それをたまたま倒した功績だよ」

ディラン(たまたまで倒せる魔物のレベルじゃねぇ……)

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