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オルクス公爵領ダンジョン調査
78.元社畜のタオルが一門を救う
しおりを挟むアマーリエさんは、胸の前で両手を組みながら、深々と頭を下げた。
そういえば、ラインハルト殿下にお願いして投げたタオル開発事業があったなあ。詳しいことは知らず、しばらくしてから私は現物だけもらったのだけど。ダンジョン探索に絶対必要だと思って、今回持参しているんだよね。ふわふわで手触り良くてお気に入りなのだ。
どこに案件を投げたのかと思ったら、どうやらシノノメ公爵家経由で分家さんにお願いしたのだそうだ。
とても質の良い織物を作る産地だったのに、どうやら伝統的な織物だけで生存していくには難しく、あれこれ手を尽くしていたものの、没落寸前だったらしい。
シノノメ家は、基本、王家と神殿との橋渡しをし、神祇を司る高貴な家だ。
ただ、公爵位を賜ってはいるものの、最初の聖女が作り上げた家として、神に仕え、清貧を良しとしているせいで、あんまり金銭的な余裕もなく、なかなか分家にまで手を差し伸べられなかったのだとか。マジか……。
そこに水星の如く現れた、王家肝入りのタオル開発事業!
私が渡したサンプルを元に、一門総出で職人技を駆使して、彼らはあっという間にタオルを作り上げてくれたのだ。
吸水・速乾性に優れ、肌触りの良いタオルは、見る見る間に話題になり、王家が気に入り御用達になったことも後押しして、ここ数か月で売れに売れまくった。
借金も返すことができ、職人を始めタオル事業に携わる一連の者たちも安定した仕事を得られ、一気に領地の景気が好転して、嬉しい悲鳴を上げているのだとか。
いわば、私はシノノメ一門の救世主。
いや、待って。よもや、そんなことになっているとは、つゆとも思わなかったんだが……。
私、普通にユエルさん経由でラインハルト殿下と「例のタオルできたよ。これ現物納品ね。『界渡人』ならではのものを授けてくれてありがとう」「やった、こちらこそありがとうございます! 必要な分は購入しますので、今後もどうぞよろしくお願いします!」程度のやり取りしかしていなかったんだけど、裏でそんなドラマが生まれていたとは……。
「そんなわけで、我が家開催の勝ち抜き戦に勝利し、私が参ったのです。カナメ様のお役に立たせてください。皆様、パーティとして苦楽を共にするのです、どうか私のことは、アマーリエやマリーと名前で気軽に。あ、カナメ様は是非マリーとお呼びくださいね」
「あはは……こちらこそよろしくお願いします、マリー。私もカナメでいいですよ」
ちょっと物騒な単語聞こえたんだけど!治癒一家による勝ち抜き戦て何事。
アマーリエさん改めマリ―が胸をえへんと張りつつも、めちゃくちゃキラキラした目で私を見てくる。絶対誤解されている気がするんだが。純粋な眼差しから、視線を逸らしたくなる。そんな崇高な気持ちで、タオルを提供したわけじゃないんだ、ごめん……。
とはいえ、一緒にダンジョン探索してくれる女の子のお友達ができたのは、本当に嬉しいな!
美味しい朝食をいただきつつ、ディランさんからダンジョンにおける注意事項や取り決めなどを説明され、質疑応答を経てブリーフィングはつつがなく終わった。
こういう打ち合わせも、みんな慣れているようだ。私以外、普通に冒険者ランク高いものね。マリーにしたってCはある。
てか、貴族の面々が、何故ナチュラルに冒険者資格を持っているのかというね。
……基本私は戦闘に関してお荷物確定だから、後方支援頑張ります。
一応グランツさんから、だいぶ前にとっかかりだけは話してあった、魔石による攻撃魔法の組み合わせをテストしてきてほしいって言われたんだけど、果たしてできるかなあ。
* * *
客室に戻り、荷造りを終えたら、早速出発。
これからオルクス公爵家の馬車で、ダンジョンまで向かう。領都からダンジョン区域までは、馬車でだいたい2時間ほどかかるらしい。フェーン山脈の山際って言っていたから、そこそこ距離があるんだよね。傍にダンジョン街を作りたいという公爵家の思惑もわかる。
わざわざ馬車による送迎になったのは、駐屯地で馬を管理できないからだ。山の方は、またままだ雪が残っている。
キャビンは4人乗りなので、ディランさんが意気揚々と馭者台に乗った。馭者さんも、まさか隣に坊ちゃまが乗ってくるとは思わなかっただろう。
何でまたそんなにうきうきしているのだか……と訝しんでいたら、ひと気がなくなった頃合いを見計らって、私にエアスケーターを要求してきた。どんだけ気に入ったんですか……。
かなり魔力を喰うのに大丈夫か?とか、そんなにディランさんは魔力量が多いのか?と不思議に思っていたら、案の定マナ・ポーションやら魔石やらをちゃっかり消費していた。ダンジョン潜る前からフルスロットルだな!
とはいえ、浮かれポンチしてるディランさんが先行して、馬車が通り辛そうな雪道や泥道を地魔法で整地してくれたので、スタックせず結果オーライということにしておきましょう。
1人遊び惚けているディランさんを放って、残りの4人で情報交換と交流を兼ねた雑談をしながら、一路ダンジョン区域へ。
シラギさんの苦労話が、申し訳ないけど一番面白かったです。早く婚約者さんと結婚してあげてほしいのだけど、独身主義なディランさんが立ち塞がりすぎる。シラギさんも、主人より先に結婚できないとか、真面目くさってるしなあ。
お喋りしながらだと、2時間はあっという間だった。
ダンジョン区域は、ざっくりとした道は繋がっているものの、大自然の中~って感じ。雪も深い場所だし、すぐすぐ手をかけてはいられないよね。
付近に急ごしらえのプレハブっぽい小屋が、ぽつんとある程度。今は無人だけど、普段はここにオルクス公爵領騎士団の団員が時折交代で泊まり込んで、ダンジョンの魔物の間引きをしているそうな。
冒険者がひっきりなしに訪れるダンジョンならいざ知らず、発見されたてでランクすらも決定していないところでは、こういった間引きを定期的に行わないと、魔素が濃くなりすぎて、地上に影響が出てしまうらしい。
休憩がてらのお昼ご飯は、小屋のキッチンをお借りして調理。さりげなくディランさんが、道中でお肉をゲットしてくれていたのだ。
薄切りのお肉と卵、野菜、ひよこ豆を煮込んだトマトベースのスープに、溶かしチーズを載せたパンとジャーマンポテト、オルクス公爵家のピクルスが本日のランチ。
「とっても美味しいわ、カナメ!」
私の料理は、マリーのお口にも合ったみたいでよかった。
ここで一旦お別れにして引き返す馭者さんと、馬車の護衛の騎士さんにも、お昼を出してあげたよ。往復4時間は、さすがに大変すぎるからね……。帰りに魔獣や野盗がでないとも限らないし、美味しい食事で英気を養ってほしい。
「さて、腹も満たされたことだし、早速ダンジョンに向かおうかねえ。まずは手慣らしと間引きも兼ねて、順に1階から見て回ろう」
こうして、フェーン山脈の麓に、ぱっくりと口を開けているダンジョン入り口に、私たちは足を踏み入れた。
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