エンゼルローズ

RASHE

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第四話 アクセルの力

アクセルの力 11

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そのことを踏まえて、セレーラルはわざとらしく、一つ咳き込むと正面に見据えるマレーシャに目の焦点を合わせる


「よし、マレーシャ!今度は私たちがやってみるよー」


マレーシャは、何も言わずに頷いたあと、席を立ってセレーラルと模擬戦を行う感覚で距離を取るために歩き始める


「おっと、離れなくていいよ、ここに立っててくれ」


と、セレーラルはすぐ目の前の床を指差してマレーシャに合図を送る

その指図の意図が分からずにマレーシャは一瞬だけ怪訝な顔を覗かせたが、直ぐに表情を消してセレーラルの元まで歩いていく

そうして指が差された所に立つと首を傾げながら彼女の反応を待つ

すると、セレーラルが急に『神器霊核』:『戦車砲』を発動させて目の前のマレーシャを見据える

あまりの突然な展開にマレーシャは虚をつかれて凍りついたように驚きの表情を表していた


「え…?」


自分はどうしたらいいのか分からず、流石のマレーシャもあっけらかんとした声を漏らしながら無表情を保てず、ついに言葉をつまらせてしまった


「あの…セレーラルお姉さん…?」

「ホラ、ただ立っていないで霊気を出してよ~!」


陽気な口調でお願いするセレーラルに対して心中警戒しながら、マレーシャは言われるままに澄んだ緑色の霊気を身体へと静かに纏う


「おいおい、そんな至近距離で発動させてどうするつもりなんだ?」

「ラルのことだから、多分何か分かったんだろ」


ゼオンとアーシェリは成り行きを見届けてようと、目の前で構える二人から少し距離を開けて見守りながらそれぞれ椅子に座る

それこそ、一切見逃しが無いように肩に力を入れるくらい集中力を高めながら

同様に離れた位置にいるアウリとシェリエールもセレーラルとマレーシャの様子を遠くから観察していた

全員の視線が自分たちに集中していることを確認したセレーラルは、二十以上の砲門を持つ霊獣・戦車砲がゆっくりと動き始める

やがてセレーラルの霊核と戦車砲の間に伸びる『アクセルライン』がマレーシャの体に触れると、徐々にではあるが、確かにマレーシャの霊気を吸収しているように見えた


「お、おい…」


反応の声を一番に示したのはゼオンだったが、自分より理解力が早く状況を理解していたセレーラルに対して、悔しい気持ちが引っ張り言葉の続きを吃らせていた


「成る程ねぇ…」


対照的に理解と納得を得たセレーラルは頭の中の雲が晴れてクリアになっていく感覚に爽快感を感じていた

その様子を近くで眺めていたゼオンは長女として妹に先を越された思い、劣等感を感じていたのかムキになって頬を膨らませる

そしてゼオンは、『神器霊核』の多様で体力を落とした状態で無理やり発動させようとすると、セレーラルに肩を叩かれて、首を左右にふっていた


「ゼオ姉、今日はおしまいにしよう
これ以上やったらキル姉に注意されるよ」

「…それもそうか」


本意ではないものの、セレーラルの言うことも最もの為、纏い始めた霊気を四散させて構えを解く

ゼオンを見て後に続くように離れた位置にいたアウリとシェリエールも歩いて、ゼオンの元へ集まっていく

アーシェリは席を立つと、皆んなの前でセレーラルに先程のやりとりのことを確認をすべく、話しかける


「見てた感じなんとなく分かったんだが、よーするに霊獣に繋がっている『アクセルライン』を相手に触れさせるってことでいーのか?」

「まあね、詳しくはもっとやってみなきゃわかんないけど、多分そういうことなんだと思うよ」

「そーか」


もし、本当にそんな相手の霊気を取り込めるのであれば、神器霊核での戦術が幅広くなるのは間違いない

取り込んだ相手の霊気をそのまま攻撃力の上乗せに転用が可能となる

二人の話を聞いたゼオンは今日の戦いを想起して拳に力を込める

今度こそ勝つーーーと

一際強く己に念じたあと、座席用に広げられていた折り畳み式パイプ椅子を片付け始める


「ん、もうおひらきか?」

「もうご飯の時間なの?」


ゼオンは歩み寄ってシェリエールとアウリの背中に腕を回して顔を近づけて言い聞かせるように話した


「それもあるし、オレたちはケガ人だからあんまり無理はできないんだ
また明日な」

「そっか!じゃあ仕方ないね!あうりんは早速ご飯の準備をしてくるよ!」


そう言ってアウリは夕飯が待ちきれなくなったのか、一目散に部屋を後にして階段を駆け上がっていった


「アウリは元気が有り余っているなぁ…」

「ばかは元気だけが取り柄だからな」


離れていく無邪気に走る後ろ姿を見送って、ゼオンは手招きでみんなを集めると椅子やホワイトボードの片付けを再開するのだった
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