エンゼルローズ

RASHE

文字の大きさ
上 下
39 / 56
第四話 アクセルの力

アクセルの力 10

しおりを挟む

『神器霊核』はシェリエールだけでなく彼女達九人姉妹にとって奥の手とも呼べる力だが、その分扱いが難しい能力でもある

別に攻撃する訳ではないものの、『神器霊核』を使って霊気の吸収を試したことがない上

感覚的にも釈然としないものがあり、意図せずに勢い余ってアウリにダメージを与えないかと不安な気持ちが少なからずシェリエールにはあった


「大丈夫かな……こいつについて、しっかりとあつかいかたを練習したほうがよかった」


内なる不安から、つい彼女らしからぬ弱気な言葉が漏れる

そうして呼吸を整えて息を吸うと、一際大きな気合の声と共に黄色い霊気が勢いよくシェリエールから弾け飛ぶ様に室内に風を巻き起こした


それから暫くして、外の景色が赤色に染まり、地表を侵食するように建物の黒い影が所々伸び始めていた頃


「あーーっ!こりゃ全然ダメだー!」


『神器霊核』の扱いを練習し始めてから約一時間経過していたが、全員が成果を掴むことなく、アーシェリは額から汗を流しながら大の字になって仰向けに倒れていた

他の四人も倒れ込んではいないが、椅子に座っていたり、壁にもたれかかったりと体を休めている


「おかしいな…あの時は出来てたはずだが…」


倒れ込んだアーシェリの隣にゼオンが独言ながら腰を落ち着かせて、頬に手を当ててあの時の感覚を思い出そうとする


「なんか特別な条件でもあったんじゃねーのか?」

「うーん…そんなことは無いと思うけどな…」


一方シェリエールとアウリは二人で独自に色々試していたようだが、特に収穫は無かったようで、休憩がてら座り込んでいた

それらの様子をマレーシャと共に遠目で見ていたセレーラルはこれまでの状況観察を振り返る

アウリは終始膨大な霊気を身体中に保ち続けていたが、接触したシェリエールの霊獣が稀に瞬間的に消え去ることがあり、その度にシェリエールは歯噛みしていた

その後に何度かトライしている姿を見るかぎり、スタミナや霊気が保たなかったりして、自分の意思で霊獣を消している訳ではなさそうだった


そしてゼオンはというと、落ち着きを取り戻したアーシェリに対して未だ遠慮している節があり、存分に『神器霊核』を発揮できず、霊気を無駄に消耗しつづけていた

成果が見えない訓練風景を目前に、大して過度な運動はしていないとはいえ、これ以上の体力の消耗は体によろしくないと感じたセレーラルはゼオンに手を振ってサインを送る


「?どうした?」

「ねぇゼオ姉、今度外でのトレーニングにアウリを同伴していったらどうかな?」

「アウリをか?」

「うん、アウリなら霊気の量が多いから、防御力自体は高い方だし、外だったらここよりかは思いっきりできるでしょ」


提案を聞いたゼオンは立ち上がると、離れた位置で座るアウリを見て、考えながら返答に間を開ける


「霊気量が多いなら、ある程度吸収しても大丈夫だし、ゼオ姉は霊気の扱いに長けてるというのもあるからね!」

「おいおい、簡単に言うけど相手の霊気を霊獣の『アクセルライン』を使って吸収しながら操作するのは結構キツいんだぞ」


ホワイトボードの前を横切りながらゼオンの言い分を聞いていたセレーラルは足を止めて、ゼオンを直視しながら止まっていた

まるで自分の耳を疑うかのような微妙なしかめっ面をしながら


「ゼオ姉、今何て?」

「結構キツいって話か?」

「うん、その前から含めて」

「だから、霊獣から伸ばした『アクセルライン』を相手に繋げて霊気を吸収したら、その間は霊獣の形を保つのはキツいってことだ」


その話を聞いてセレーラルが腕を組んで「成る程」とぼやく中、床の上で胡座をかいていたアーシェリがやれやれといった手つきで右手を使って頬杖をつきながらゼオンに反応を返す


「その話、初耳なんだけど…」

「悪い悪い、オレも今さっき思い出したんだ」


霊獣からアクセルラインを展開して相手に繋げるという下りは初耳で、いち早く理解を示していたセレーラル以外はあっけらかんとした表情だ

当時は無我夢中であったが故に中々思い出せずにいたが『神器霊核』を発動していく中、あれこれ手探りで試していった間に感覚を思い出したのであろう

基本的には霊核と霊獣をアクセルラインで繋いでいるが、そのアクセルラインを伸ばすほど、霊獣のコントロールは難しくなっていく

ゼオンの言葉では、そのうえ更に波長の違う霊気を霊獣が持つ『アクセルライン』で相手と自身の霊気と同調させるさせるのは至難の技のようだ

シェリエールもラインを伸ばして霊獣をアウリに当てがって霊気を吸収したが、そのコントロールが上手くできずに『神器霊核』が消失していた

真偽のほどはわからないが、ゼオンの『神器霊核』はアクセルラインで繋ぐことなく霊獣が霊核を内蔵しているlevel3の域に到達していたからこそ、霊気の吸収に成功したのかもしれない
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

満天の星空に願いを。

黒蝶
ライト文芸
色々な都合で昼間高校ではなく、別の形で高校卒業を目指していく人たちがいる。 たとえば... とある事情で学校を辞めた弥生。 幼い頃から病弱で進学を諦めていた葉月。 これは、そんな2人を主にした通信制高校に通学する人々の日常の物語。 ※物語に対する誹謗中傷はやめてください。 ※前日譚・本篇を更新しつつ、最後の方にちょこっと設定資料を作っておこうと思います。 ※作者の体験も入れつつ書いていこうと思います。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

幕張地下街の縫子少女 ~白いチューリップと画面越しの世界~

海獺屋ぼの
ライト文芸
 千葉県千葉市美浜区のとある地下街にある「コスチュームショップUG」でアルバイトする鹿島香澄には自身のファッションブランドを持つという夢があった。そして彼女はその夢を叶えるために日々努力していた。  そんなある日。香澄が通う花見川服飾専修学園(通称花見川高校)でいじめ問題が持ち上がった。そして香澄は図らずもそのいじめの真相に迫ることとなったーー。  前作「日給二万円の週末魔法少女」に登場した鹿島香澄を主役に服飾専門高校内のいじめ問題を描いた青春小説。

処理中です...