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第四話 アクセルの力
アクセルの力 10
しおりを挟む『神器霊核』はシェリエールだけでなく彼女達九人姉妹にとって奥の手とも呼べる力だが、その分扱いが難しい能力でもある
別に攻撃する訳ではないものの、『神器霊核』を使って霊気の吸収を試したことがない上
感覚的にも釈然としないものがあり、意図せずに勢い余ってアウリにダメージを与えないかと不安な気持ちが少なからずシェリエールにはあった
「大丈夫かな……こいつについて、しっかりとあつかいかたを練習したほうがよかった」
内なる不安から、つい彼女らしからぬ弱気な言葉が漏れる
そうして呼吸を整えて息を吸うと、一際大きな気合の声と共に黄色い霊気が勢いよくシェリエールから弾け飛ぶ様に室内に風を巻き起こした
それから暫くして、外の景色が赤色に染まり、地表を侵食するように建物の黒い影が所々伸び始めていた頃
「あーーっ!こりゃ全然ダメだー!」
『神器霊核』の扱いを練習し始めてから約一時間経過していたが、全員が成果を掴むことなく、アーシェリは額から汗を流しながら大の字になって仰向けに倒れていた
他の四人も倒れ込んではいないが、椅子に座っていたり、壁にもたれかかったりと体を休めている
「おかしいな…あの時は出来てたはずだが…」
倒れ込んだアーシェリの隣にゼオンが独言ながら腰を落ち着かせて、頬に手を当ててあの時の感覚を思い出そうとする
「なんか特別な条件でもあったんじゃねーのか?」
「うーん…そんなことは無いと思うけどな…」
一方シェリエールとアウリは二人で独自に色々試していたようだが、特に収穫は無かったようで、休憩がてら座り込んでいた
それらの様子をマレーシャと共に遠目で見ていたセレーラルはこれまでの状況観察を振り返る
アウリは終始膨大な霊気を身体中に保ち続けていたが、接触したシェリエールの霊獣が稀に瞬間的に消え去ることがあり、その度にシェリエールは歯噛みしていた
その後に何度かトライしている姿を見るかぎり、スタミナや霊気が保たなかったりして、自分の意思で霊獣を消している訳ではなさそうだった
そしてゼオンはというと、落ち着きを取り戻したアーシェリに対して未だ遠慮している節があり、存分に『神器霊核』を発揮できず、霊気を無駄に消耗しつづけていた
成果が見えない訓練風景を目前に、大して過度な運動はしていないとはいえ、これ以上の体力の消耗は体によろしくないと感じたセレーラルはゼオンに手を振ってサインを送る
「?どうした?」
「ねぇゼオ姉、今度外でのトレーニングにアウリを同伴していったらどうかな?」
「アウリをか?」
「うん、アウリなら霊気の量が多いから、防御力自体は高い方だし、外だったらここよりかは思いっきりできるでしょ」
提案を聞いたゼオンは立ち上がると、離れた位置で座るアウリを見て、考えながら返答に間を開ける
「霊気量が多いなら、ある程度吸収しても大丈夫だし、ゼオ姉は霊気の扱いに長けてるというのもあるからね!」
「おいおい、簡単に言うけど相手の霊気を霊獣の『アクセルライン』を使って吸収しながら操作するのは結構キツいんだぞ」
ホワイトボードの前を横切りながらゼオンの言い分を聞いていたセレーラルは足を止めて、ゼオンを直視しながら止まっていた
まるで自分の耳を疑うかのような微妙なしかめっ面をしながら
「ゼオ姉、今何て?」
「結構キツいって話か?」
「うん、その前から含めて」
「だから、霊獣から伸ばした『アクセルライン』を相手に繋げて霊気を吸収したら、その間は霊獣の形を保つのはキツいってことだ」
その話を聞いてセレーラルが腕を組んで「成る程」とぼやく中、床の上で胡座をかいていたアーシェリがやれやれといった手つきで右手を使って頬杖をつきながらゼオンに反応を返す
「その話、初耳なんだけど…」
「悪い悪い、オレも今さっき思い出したんだ」
霊獣からアクセルラインを展開して相手に繋げるという下りは初耳で、いち早く理解を示していたセレーラル以外はあっけらかんとした表情だ
当時は無我夢中であったが故に中々思い出せずにいたが『神器霊核』を発動していく中、あれこれ手探りで試していった間に感覚を思い出したのであろう
基本的には霊核と霊獣をアクセルラインで繋いでいるが、そのアクセルラインを伸ばすほど、霊獣のコントロールは難しくなっていく
ゼオンの言葉では、そのうえ更に波長の違う霊気を霊獣が持つ『アクセルライン』で相手と自身の霊気と同調させるさせるのは至難の技のようだ
シェリエールもラインを伸ばして霊獣をアウリに当てがって霊気を吸収したが、そのコントロールが上手くできずに『神器霊核』が消失していた
真偽のほどはわからないが、ゼオンの『神器霊核』はアクセルラインで繋ぐことなく霊獣が霊核を内蔵しているlevel3の域に到達していたからこそ、霊気の吸収に成功したのかもしれない
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