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自由の国『リーデンベルグ』

15 謁見じゃなくお茶会だった

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 謁見の間は、煌びやかな内装の広間だった。
 城に到着したときの服装とは変わり、俺もクリスも正装だ。リアさんが髪を綺麗に整えてくれた。

「ほわ」

 マシロが目を輝かせる。クリスに抱かれたまま。
 俺は少し唖然とした。






 謁見の間に通されたんだから、謁見のはずだった。
 それにしては、なんでマシロと一緒にって話になるのか理解できなかった。女王陛下との謁見には、俺とクリスだけで行く予定だったから。
 でも、マシロも一緒にと言われ、付き添い乳母役リアさんも同行することになった。本来部屋の外で待機する護衛に関しても、護衛にザイルさんと近衛騎士副団長さんも同行することに。…護衛に関してはオットーさんは自主的に辞退して部屋の外で待機した。何かを察していたんだとしたらさすがとしか言いようがない。
 そんな『?』しか浮かばない状況で案内された謁見の間。
 そこが謁見の間であることは確かなんだろうけれど想定外な光景が広がっていて、声がでない。

 並んでいたのは貴族の人じゃなくて、白いクロスがかけられたテーブル。
 夜会ほどではなくとも正装した貴族の人たちは思い思いのところに立っていて、にこやかに俺たちを迎え入れた。
 テーブルの上にはつまめる小さな菓子が数種。テーブルとテーブルの間には十分な広さがあって、移動するのに苦はない。
 ……俺、知ってる。この感じ。椅子はないし室内だけど、これは、『お茶会』だ。
 どういうこと。
 女王陛下への謁見だと思っていたのに、なぜにお茶会会場。しかも立食。

「あむ、いい?」
「だめ」
「うむぅ」

 ……通常運転のマシロにちょっとほっとする。

「女王陛下、ならびに王配殿下のご入場です」

 なんて案内がして、全員がその場で礼の姿勢をとった。俺たちも例外ない。…テーブルがあるから絵面がちょっとシュールだね…。マシロはクリスの腕の中から降ろされて、俺たちの足元に座った。

「よい。皆、楽にせよ」

 柔らかくも上に立つ人の声音だった。
 姿勢を戻して真正面から女王陛下を見ると、視線が合い微笑まれた。
 俺の貧相なイメージの中の『女王陛下』は絵で見たことがあるかもしれない某国の女王様だったけど、現れた女王陛下はシュっとした出で立ちでキリリっとした表情の『女傑』って言葉がぴったり似合いそうな人だった。

「久しいな、クリストフ殿下」
「女王陛下もご健勝そうでなによりです」

 なるほど?友好国だし王族同士だし、面識があってもおかしくないのか。
 挨拶を交わすクリスはよどみない。
 マシロはそんなクリスを見上げながら、俺の足にしがみついていた。不安そうではないけれど、ただじっとしてる。

「陛下、紹介いたします。私の唯一の伴侶であるアキラです」
「アキラ・エルスターです。女王陛下」
「ああ。テレーゼ・イリアだ。これから長い付き合いになるだろう。両国のため――――いや、全ての魔法師のために精進してほしい」
「はい。私の力の及ぶ限り頑張ります」

 軽く、右手を胸にあててそう答えた。正しい返答かどうかはわからないけれど、女王陛下は満足そうに笑ってくれたし、クリスも笑んで頷いてくれた。
 それから、王配殿下、王太子殿下夫妻も紹介された。出迎えに来てくれたグレゴリオ殿下とハインリヒ殿下も改めて。

「お前がクリストフ殿下の養女か」
「う」
「ふふ。小さい姫だな」

 と笑いながら、女王陛下はマシロを軽々抱き上げる。
 マシロはきょとんとしながらも暴れたりはしない。

「軽いな」

 笑むその顔は、『母親』のように優しい。
 威厳たっぷりの女王陛下だけど、三人の息子の母でもあるんだよな。

「名は?」
「ましろ」
「マシロか。よく似合う名だな」
「あね、あきぱぱが、ましろ、て」
「そうか。アキラ殿につけてもらった名か。大事にしないとな?」
「う!」
「可愛い姫だ」

 …女王陛下に抱っこされるとかちょっと恐れ多い気がしたし、マシロの態度や言葉が失礼にあたらないかそっちにもドキドキしたけど、あまり気にされていないようで安心した。
 というか、グレゴリオ殿下に『心待ちにしてる』と言われたこと、社交辞令でもなかったぽい。

「小さな姫がいると聞いたからな。このような形にしてみたんだが。アキラ殿、マシロを少し借りるぞ?」
「え」
「かり?」
「ああ。私と菓子を食べよう。甘い飲み物もある」
「おかし!」

 さっきから食べたがっていたから、マシロは大喜びだ。
 今さっき会ったばかりの女王陛下に抱っこされながら、マシロは特に警戒していないし、クリスも止めることをしない。苦笑してるだけ。…それならいいのかな…?

「セシリア」
「はい」

 クリスはそれでもリアさんを近くに呼んで、マシロの傍(ってことは女王陛下の傍)に配置する。

「わずかな時間であるが、皆、楽しんでくれ」

 女王陛下のその言葉を合図に、立食式お茶会が動き始めた。
 貴族の人たちはあらかじめ取り決めでもしていたのか、女王陛下への挨拶をする様子はない。
 リアさんはあちらの侍女に混ざりながら、マシロを抱っこしながら菓子をつまむ女王陛下にも特に臆することなく接している。さすがすぎます。

「母上がすまない。…どうしても娘がほしかったらしいんだが、私たちは三人とも男でね」

 と、苦笑交じりに教えてくれたのは第一王子――――ステファン王太子殿下だ。
 ステファン殿下は去年のお兄さんの結婚式にも出席したらしい。俺、全く記憶にないけど、あのときの祝福は素晴らしかったと言われてちょっと照れた。

「あのときから素晴らしい魔法師だということは実際にその魔法を見て知っていたから、こういう形で我が国に招くことができてよかったと思っているんだ。ああ、招くというのは少し違うけれど、招きたいと思っていたのは事実だからね。グレゴリオも君にはとても興味を持っていたんだ」
からの紹介もありましたからね」

 あの人。
 ん。
 ギルマスのことかな。







*****
「あね、あきぱぱのね、おはなね、すき」
「アキラ殿は花が好きなのか?」
「う、すき!あんまいの。あね、おかしにして、おいちの」
「…花を菓子にするのかい?」
「う!そね、あんまくて、おいちくて、ましろ、だいしゅき!」
「そうか。…じゃあこの菓子はどうだ?木の実は硬いか?」
「あむ……、ん、う、おいち!」
「少し硬いようだな。…じゃあ、これはどうだ」
「…はぅっ、しゅわ、しゅわ!」
「そうだろう。さあ、飲み物も飲んだ方がいい。果汁を絞ったものだ」
「……ひああ、しゅぱ…っ」
「ああ、すまない。すっぱかったか。……ん、ほら、これなら甘い」
「あんまい!」
「そうか」
「おいちいね」
「そうだな」

「……(マシロちゃんの可愛さ天井知らず…)」



リアさん、マシロを見守りつつ、女王様の手元に完璧な給仕をするの図…。




備考
ステファン王太子 26歳 ←ギルと同い年、一児の父
テレーゼ陛下 40代後半
王配殿下 50代前半

らぶらぶ夫婦です。余談です。

5年後……、間もなく退位でしょうか。王太子30代……。
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