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自由の国『リーデンベルグ』

16 早速ですが本来の目的の方をこなします

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 お城に到着してすぐに、歓迎の茶会が開かれた。
 そこでは貴族さんたちの挨拶は重役についている人たちのみで終わってちょっとほっとしたのだけど、本格的なものはその夜に行われた。
 夜は大人の時間。当然、茶会には入れたマシロだけど、夜会には参加できないし、させない。俺たちの支度の後、リアさんにお任せした。
 夜会は夜会で大変だった。
 最初に紹介と挨拶を済ませると、ダンスを披露することになり、うひーうひーと内心情けなく叫びながらもなんとか乗り越えた。
 けど、終わったら終わったで、今度はほかの貴族さんからダンスを申し込まれるという俺にとっては初の体験をした。男性からも、女性からも。当然、クリスにもそのお誘いはかかったのだけど、俺が断るよりも早く、クリスが完璧なお断りをしてくれたから、その後はダンスのお誘いがなくなってほっとした。

「私たちは互いが唯一なので、他の方とのダンスはいたしません。ご理解いただけますね」

 ……って、俺の腰をぴったり体につくように抱いたクリスが、周囲に視線を巡らせながらそう発言したから。
 まあ、ダンスの誘いはなくなったけど、仲睦まじいとか、溺愛されてるとか、お熱いとか、とかとか、そりゃもういろいろその手のことを笑顔と共に言われて、それはそれでいたたまれなくなった。…恥ずかしすぎてね。

 そんな夜会をなんとか乗り越えて、迎えた翌日。
 俺たちは第二王子グレゴリオ殿下に招かれる形でサロンを訪れた。
 今回の訪問はただの国交じゃないから、俺たちへの対応はほぼグレゴリオ殿下が担うらしい。魔法関連だから、魔法師であるグレゴリオ殿下が適任、ってことだ。

「アキラ殿はどのような魔法を使うのか、聞いても?」

 どんな。
 思わずクリスを見てしまった。
 俺の魔法。そりゃ色々使えるけど。

「アキが使うのは主に水属性のものですね。そこから派生して氷属性も使えるので、魔物討伐の際には私たちより重要な役割を果たしていますよ」
「なるほど」

 俺が答えるよりスムーズにクリスが答えてくれた。
 水と氷か。覚えておこう。ほかの使ったら目をつけられそうだ。
 でも、嘘じゃない。クリスは『主に』って言ったし。水と氷は、多分俺が一番よく使う属性で、恐らくだけど俺が使う魔法の中で一番威力がでる。

「――――今、見せてもらっても?」
「今……」

 水か氷を今、ここで?サロンで?
 できないことはないけど。

「万が一水浸しにした場合は許してください」
「大丈夫」

 ……ん。
 完璧な王子サマスマイルだ。
 クリスも特に何も言わず頷いてくれたので、部屋に影響がないものを出すことにした。
 手のひらを上にむけて、その上に水の球体を出現させる。丸く、丸く。マシロと何度も練習した水魔法。

「こんな感じです…?」

 そんなに魔力も使わない。これを飛ばすとか形を変えるとか大きくするならまた別の話だけど、水球の大きさは俺のこぶし大だから、魔力の減りなんて本当にごくごく微小。

「……すごい」

 でも殿下に関心された。多分本心。

「それを氷に変換させることは?」
「できますね」

 その方が部屋への影響がないからいいと思う。
 少しだけ魔力を流せば、あっという間にこぶし大の氷塊ができあがる。

「つめたっ」

 うっかりそれを手に落としてしまったから、冷たくてテーブルの上に転がしてしまった。
 苦笑したクリスが俺の手を温めてくれて、その間に殿下はテーブルに転がした氷塊を手に持っていた。

「……溶けない」
「いや、溶けますよ?」
「溶けにくくはありますね。アキの純粋な魔力でできているものですから」
「……もしかして、三月春の一の月に起きたエルスター王都魔物侵攻のときにも、アキラ殿が前線にでていたんでしょうか」
「ええ。それが何か?」

 正直、俺は内心動揺しっぱなしだった。他国の魔物侵攻のことをどうしてこの王子サマが知ってるんだろうかとか、だとしたら、俺の魔法をどこまで知られているんだろうか、とか。
 でもクリスは平然としている。そのいつもと変わりない態度が俺を落ち着かせてくれる。

「特に何ということはありませんが、考えられないほど迅速に片付いたようなので、優秀な魔法師がその場にいたんじゃないかと考えていただけです。優秀な魔法師は一人だけでも十分な戦力となりえますから」
「ええ。それには同意できますね。アキは私の伴侶であると同時に、私直属の兵団の団員でもありますからね。――――それに、王都冒険者の統括も手練れですし、彼が育てた冒険者たちも非常に強いですから」
「統括……。……彼には国に戻ってもらいたいと何度か持ち掛けているのですが、ずっと断られてますね」
「……統括と言っても元冒険者です。我が国が彼を引き留めているとはお考えにならないでいただきたいですね」
「ええ。もちろん」

 ……こんなところでギルマス争奪戦勃発……。

 そっかぁ。
 ギルマス、まだまだこっちで必要とされてるのか。
 でも俺も必要としてるから、しばらくは戻ってほしくないなぁ。西町にいてほしいなぁ。
 笑顔で交し合う二人を眺めながら、紅茶のカップに口をつけたとき、部屋にノックの音が響いた。

「どうぞ」

 殿下が声をかけると、サロンに控えていた侍女さんが、さっと扉を開ける。

「遅くなりました。グレゴリオ殿下」

 そこにいたのはダンディな紳士。
 ……ん、なんか見たことがある、誰かに似てる……って思ったら。

「ベルエルテ伯爵、忙しいところ呼びつけて悪かったね。改めて紹介しますね。彼はルドリヒ・ベルエルテです。の弟で現ベルエルテ伯爵当主であり、魔法研究所の所長でもあります」
「お会いできて光栄です」

 優雅に一礼。
 なるほど。
 誰かに似てるとか俺、鈍い。
 粗野さを加えてニカっと笑ったら、ギルマスまんまな弟さんだった。うん、よく似てる。



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