154 / 216
俺が魔法師である意味
52 制服ができました
しおりを挟む現在、エルスター王国には、クリス隊の他に、四つの騎士団がある。
クリス隊は見慣れた濃紺の制服で、厳密に言うと騎士団ではなくてクリスの私兵ってくくり。第一騎士団団長の声もあったそうだけど、本人曰く『丁重に』断ったらしい。
近衛騎士団団長は女性騎士。会ったことないと思うんだけど、俺が知らないだけであちこちで会ってるかもしれない。王族警護が主な仕事だし。制服は白。
第一騎士団は精鋭の集まりで、制服は赤。第二騎士団は濃い目の緑。第三騎士団は青。
一般兵士の人たちは基本が灰色。駐屯兵士団所属の人は茶色だったかな。
それで、新しい魔法師団の制服だけど、クリスの意見が全面に出て、黒に決まった。もともと何色だったっけ。なんか、光沢のあるローブみたいなの着てたような記憶があるけどはっきり覚えてない。
「……俺、真っ黒……」
「綺麗だから問題ない」
「綺麗って言われても……」
出来上がった魔法師団の制服は、軍服とあまり変わらない。
イメージの中で魔法使いの正装といえば丈の長いローブって感じだけど、それじゃ動きにくいから動きやすさを重視したズボンスタイルになった。
上着の左胸に魔法師団の新しい印――――白猫と杖の刺繍がある。
それから、正装用にも使えるように、ついでに魔法師であることがすぐわかるように、制服の上から羽織る膝丈のローブも用意した。こっちも黒。ただ、ローブには大きく印が刺繍されている。
ローブを止めるのは属性の色をつけたボタン。トビア君なら火属性がメインだから赤。エアハルトさんなら茶かな。
靴の指定はないけど、ブーツも配給のものを用意した。この先、平民の人たちが増えたとき、あまり自己負担が増えないように。貴族の人は知らない。好きな靴を用意してほしい。
俺サイズに作られた黒の制服を着て、改めて鏡の前に立った。
ほんと黒い。
俺の制服だけ、真っ黒じゃないんだけど。さりげに銀糸が使われていて、ローブを止めるボタンには碧色に近い宝石が使われてる。
……俺の色の中に見え隠れ……、や、隠れてない、クリスの色。妙に恥ずかしいけど嬉しい。
「よく似合ってる」
「でも、クリス隊の色じゃないから変な感じ」
「それなら、俺のとこの制服の上からローブだけ羽織るか?」
「うーん……」
魔法師団の師長……や、団長でいいのか。魔法師団と言うんだから、魔法師団長ってことで役職名定着させて問題ないはず。後で伝えよう。
魔法師団長になったわけだけど、クリス隊の隊員でもある……って、俺はそう思ってるんだよね。
でも、俺自身が魔法師団の制服を着ていないと、インパクト弱いかな…とかも思う。言っちゃなんだけど、歩く広告みたいな感じで。
「とりあえずしばらくは魔法師団の制服着るかな」
「そうか」
クリスが後ろから抱きしめてくれる。口元が笑っていて、俺が決めたことをちゃんと理解してくれてる顔。
「あ、これがあるから、今度魔法師として正式な場所に出るときは、この服でいいよね?」
「それは駄目」
正式な場でも使えるように揃えた制服。だから、あの黒レースが妙にエロく見える正装用ローブを着なくてもいいんじゃない、って思ったのに、クリスからはあっさりと却下された。
「なんで」
「アキの可愛らしさが引き立つから」
「う」
「レースから透けて見える脚にもそそられる」
「クリスっ」
「なにより、全身が俺の色になるからな。誰が見ても、すぐにわかるだろう?お前が、誰のものなのか」
後ろから抱きすくめられて、唇は耳の後ろや首筋を何度も行ったり来たりする。
俺に向けられる鏡越しのクリスの視線から目を離せないでいた。
「魔法師団として出席するならこれでいいが、その他はあのローブがいい。あれはアキによく似合う」
「ん……っ」
「この制服自体を銀と碧にする案もあったが…、やはり魔法といえばアキだからな。アキの色以外は考えられなかった」
「……っ、クリスの色は俺だけの色だし……っ」
「ああ。そうだな」
嬉しそうな声音。
首筋を熱い舌に舐められて膝から力が抜けかかったとき、部屋にノックの音がした。
「あき!ういす!」
離れることも返事をすることも出来ないくらいすぐに、マシロが部屋に飛び込んできた。
「申し訳ありません。坊っちゃん、アキラさん」
「構わない」
「あね、あね!」
苦笑するメリダさんに、クリスは笑いながら頷き俺から手を離した。
マシロは満面の笑顔で俺たちに駆け寄ってくる。
紺色の膝丈のワンピースに、黒い短めのローブ。ローブから見え隠れしてるワンピースの胸元にはクリスの印である杖と剣が。ローブには白猫と杖が刺繍されている。
「みて!あね!あきと、ういすと、いっしょ!」
いつものマシロバッグも肩から斜めにかけて、マシロはその場でくるくる回り始めた。ふわふわ舞うスカートの裾も可愛らしい。
「可愛い、マシロ」
「うふ」
いつもは桃色とか黄色とか、女の子が好みそうな柔らかな色が好きなのに(マシロ自身には性別の区別はないんだけど)、紺色と黒を身に着けたマシロはとにかく嬉しそう。
「マシロもよく似合ってる」
クリスがマシロを抱き上げた。マシロはそれも嬉しいのか、きゃあきゃあと大喜びでクリスに抱きついて足をばたばたしてる。
クリス隊の制服に魔法師団のローブ……って言うのは、さっきまで俺が悩んでた組み合わせ。俺自身じゃなくてもマシロがその組み合わせを着てることで(ワンピースは厳密に言うとクリス隊の制服ではないんだけど)、なんか、マシロが全部解決してくれた気がする。
「いっしょ、うれち」
「俺も嬉しいよ」
マシロと二人で笑う。それから、クリスの口元にも笑みが浮かんだ。
応援ありがとうございます!
45
お気に入りに追加
2,207
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる