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俺が魔法師である意味
51 和解
しおりを挟むある程度の話し合いが終わって外に出たら、リリアちゃんと遊んでいたマシロはザイルさんに抱っこされながら半べそになってた。リリアちゃんもエアハルトさんに抱っこされてて、同じように半べそ。
ほんとに何があったんだろ?
……魔力の残滓みたいなものを感じるから、マシロが魔法を使ったらしいってのはわかるんだけど。
「マシロ、おいで」
手を伸ばすと、マシロは潤ませた大きな目を俺に向けてきた。
「…あき、め、しない?」
「しないよ」
「あぃ…」
ザイルさんの服を握りしめていた手をおずおずと解いて、マシロの小さな手が俺の方に伸びてくる。
ザイルさんは笑いながら俺の腕の中にマシロを移動させてくれた。
「……ういすも、め、しない?」
ぽんぽんと背中を叩いていたら、マシロは俺の後ろを見てそう聞いてくる。
「アキが許したんだろ?」
クリスがトビア君の家から出てきてたんだ。
クリスの大きな手がマシロの頭を撫でる。それからすぐに、俺の腕の中からマシロを抱き上げて片腕に抱き直した。
「ザイルもエアハルトもいたんだ。特に問題はない」
「う。いるもるとも、にこにこしてくれた」
「そうか」
「あね、りりもね、にこにこ」
ニコニコしてるようには見えないけど。
クリスの後からオットーさんもアルフィオさんも、トビア君一家も出てきた。
それを確認したエアハルトさんが、苦笑しながらリリアちゃんを降ろす。
「あのね」
リリアちゃんは辿々しい足取りで歩いて、俺の足に抱きついてきた。
「まほう、わるくない?」
「ん?」
「ましろね、だめ、って、おこられる、って」
「ああ」
ようやくなんとなくわかった。
マシロ、魔法を使ったんだ。それを見たリリアちゃんは喜んでくれたけど、勝手に魔法を使っちゃ駄目って約束を思い出して怒られる…って思ったんだろうな。
「リリアちゃん」
マシロが魔法を使って落ち込んでるから、魔法は駄目なものなのか…って今度はリリアちゃんが不安になったんだね。
その場に膝をついて目線を合わせる。
真っ直ぐな目が、この先もこのままであればいい。
「魔法は、駄目なものじゃないんだよ」
リリアちゃんの頭を撫でながら、集まってきた人たちに視線をめぐらした。
畑仕事をしていたらしい人たちや、エプロンをつけたままの人たち。小さな子供から、俺と大差ないくらいの人たちも。
それから、表情を歪ませている、男の人。
「昨日も言ったけど、魔法は悪くない。いいことに使おう、って言ったよね?」
「うん」
「使い方をちゃんと覚えたら、リリアちゃんの大好きな人たちを助けることができるんだよ」
首にかかってる鎖を手にとって、魔水晶を服の下から取り出した。淡く光る石は、しっかり魔力を取り込んでいる。
「でも、一人で練習するのは危ないからだめ。危なくないように、トビア君にしっかり教えるから。だから、魔法の練習をするときは、必ずトビアを君と一緒に、ね?」
「うん」
「それから、ぐるぐるしたときはクッキーを食べること。これも覚えてる?」
「おぼえてる!」
「うん。いい子」
笑顔になったリリアちゃんを抱き上げる。
胸元の魔水晶が太陽の光でキラリと光った。
「――――魔法が使えるからと言って必ず軍属になる必要はなくなりました。だから、魔法が使える人を排除することも、魔水晶を持って生まれてきた子を追い出すようなことも、国から罰が与えられるとか恐れることもないんですよ、村長さん」
「………っ、はい」
リリアちゃんをトビア君に預けた。
立ち上がった俺の隣にはクリスがいて、左手で俺の腰を抱いてくる。
「魔水晶を持って生まれてきても届け出は必要ありません。…けど、魔法の使い方を教えてあげる必要はあるので、今度そういう子が生まれてきたら、届け出るとかではなくて相談に来てください。手紙でもいいです。どうか、お願いします」
「……はい、………っ、はい…っ」
最初、話を聞いたとき、魔水晶持ちを追い出すとか、ここの村長な人はひどい人なんだな…って思った。わからず屋で頑固者なんだろうな、って。
でも今俺の目の前にいる村長さんは、そんな雰囲気は何もなかった。
歪ませていた表情は、後悔しているような、そんなものだった。
「……改めます……っ」
苦しそうな言葉と混じる嗚咽。
もしかして、村長さんが魔水晶持ちを排除したかったのは、国からの罰を恐れてだけじゃないのかもしれない。
「今まで住みにくかっただろう……っ。申し訳なかった……っ」
トビア君たちにむけて頭を下げる村長さん。
「村長……そんな、いいです。大丈夫ですから」
どんな事情があったのかは知らない。俺が聞くことでもない。
ただこの先、魔水晶持ちだからってびくびく生活を送るようなことにならなければいい。
他の子と同じように、みんなで慈しんで見守って、元気に育ってくれればそれでいい。
少しずつでも、みんなにわかってもらえればそれでいい。
村長さんにはトビア君の身分証の発行をお願いした。そしたら朗らかに笑った村長さんがあっという間に用意してくれたから驚いた。
ちゃっちゃと書類を準備してしまおう…と、帰りはトビア君と一緒にお城に戻った。
名前を書くのに滅茶苦茶緊張していたらしいトビア君は、速攻で陛下に回され速攻で承認の降りた書類を前に真っ白に燃え尽きてた。ご苦労さま。
正式に魔法師団所属となったトビア君。
まだ魔法師ローブはできてないから、クリス隊のマントだけを羽織ってもらった。
その日はクリス隊へ紹介した。多分、この先も何かと関わることが多いと思うから。
それで今日は心身ともに疲れてるだろうし、昼前にアルフィオさんに村に送り届けてもらった。
で、明日からは朝迎えに行って(アルフィオさんが)、夕方頃に村に送る(アルフィオさんが)という形になる。つまり自宅からの通勤移動魔法での送迎付き、ってわけだな。
十五歳だしね。アルフィオさんが問題ないって言うんだから、問題ないだろう。うむ。
「なんか、一歩前進した感じがする」
「そうだな」
夜。
クリスの腕にすっぽりと抱き込まれてベッドに座りながら、甘い葡萄酒を少しだけ飲んだ。
「まだまだ全然なのはわかってるけどさ、最初から作ってるみたいなものだし、ゆっくりだけど、いいかな、って」
「もちろんだ。アキのやりたいようにやればいい。誰も反対はしない」
「それはそれで困るけどさ。……でも、俺が間違えそうなときはクリスが止めてくれるよね?」
「ああ」
笑ったクリスは俺の手からグラスを取り上げて、葡萄酒を一口口に含む。
それからそのまま、後ろから抱かれながら口付けられる。
流し込まれる甘い葡萄酒。
甘くて甘くて、頭の芯がくらくらしそうな。
飲み込んで、喉が熱くなって、体も熱を持って。
「クリス」
キスの合間に名を呼んで、体の向きを変えてクリスの首に腕を絡ませた。
*****
もう少し続きます
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