155 / 216
俺が魔法師である意味
53 この世界での杖の役割
しおりを挟むトビア君が入団した。
制服も出来上がった。
少しは魔法師団ぽくなったかも。
トビア君には、五日間出勤(と言っても今やってるのは魔法訓練だけ)してもらって、二日間お休みしてもらう。こっちに週の概念はないけど、俺の感覚的には週休二日がいいと思うから。まだ未成年だしね。今後、本格的な活動が始まったら、どうなるかわからないけど、できればそんな感じで休ませてあげたい。
……正直、クリス隊のみんなが働きすぎだと思うんだよ。いつ休み取ってるの?って言いたくなるくらい。夜警のあと、普通に昼間の訓練にも参加してるし。
オットーさんとザイルさんは特に休んでる姿を見たことがない。確かにこの二人がいないとクリスの仕事が滞りそうだけど、それにしたって休んでないように見える。……新婚さんなんだから、もうちょっとお休みとか……いらないのかな?……や、流石にこれはお節介がすぎるだろうか。
今度、ザイルさんにシフト表的なものを提案してみようか。騎士団の人たちだって休日があるんだから、クリス隊のみんなにもちゃんと休日をとって欲しい。
「んー、杖があったほうがいいな」
トビア君の魔法練習を見ていたギルマスが、そんなことをいった。
「杖?」
魔法使いと言えば杖、だけど。
そんなイメージがあったから、魔法師団の印に杖モチーフを使うことをなんの疑問もなく決めたけど。
「え、やっぱりこっちの魔法師の定番装備…!?」
「何が定番なのか知らんが、使ってるやつは結構いるぞ」
結構、ってことは、誰もが持ってるわけじゃないんだな。
「ギルマスは持ってないよね?」
「そうだな。必要なときは愛剣を使うしな」
ギルマスはいつもの剣の柄を撫でた。
剣が杖の代わりになるってどんなだ?
「必要なときって?」
「自分の腕に自信がないとき」
ニヤリと笑うギルマス。
自信がない……なんて、ギルマスに起こり得ないと思うんだけど。
……そういえば、あの男も持ってた気がする。軍所属だった他の魔法師たちも。他に、冒険者の人も持っていたような。
「えっと、魔力が強くなったり、使える魔法が増えたりとか、そういう補助的な感じ?」
「持つだけで魔力が増幅されるような武器は国の宝物庫にでも収められてるだろうな」
ギルマスに苦笑された。
てか、俺が想像する杖は国宝になってしまった。
「坊主んとこの杖は魔力増幅されるのか」
「や、別に、その実物があったわけじゃないですけど。ゲームの中の魔法使いが使う定番武器的な」
「ふうん?」
「魔力に関係ないなら、この世界の杖ってどんな役割してるんです?俺、持ったことない。……あ、エルフィードさんも使ってるところ見たことない」
「エルフィードはいざとなりゃ俺と同じだ。剣を振るだろうな」
「むぅ…」
どうして剣が杖の代わりになるのかさっぱりわからない。
若干、本当に若干だけ、口を尖らせてしまった俺の頭を、ギルマスが笑いながらぐしゃぐしゃに撫でてきた。
「ギルマスっ」
「杖は、発動の補助みたいなもんだ」
笑いながら説明してくれた内容によれば、杖を持つことで魔法を出す方向を確定しやすくなったり、集中しやすくなったりするらしい。
ベテラン、手練になればなるほど、杖の補助なしに、腕、手のひら、指先だけでも思うように魔法を繰り出すことができるようになるらしい。
「じゃ、俺も使ったほうがいい?」
「お前さんは指先だって使わないことあるだろ。それは誰もが目指す最終的な到達点だ。どこに魔法が飛んで来るのか、すぐには判断できないからな」
「あー………攻撃特化」
この世界の魔法は攻撃に特化してる。使う場面はほぼ戦闘時。杖や手の向いた方向に魔法が飛んでくるから、対人や知能の高い魔物相手の場合『これから魔法攻撃するよ!』を知らせるようなもの。…だから、なんのアクションもなしに魔法を放てるのは、どんな場面でも有利になる、か。
俺の場合、杖はいらない。そのかわり初撃には対象に手を向ける。クリスのサポート付きで。そのほうが正確に狙えると思うから。……甘えてるとかは思わない。うむ。
「杖って、なんか特別な木とか使う感じ?」
「いんや?基本的には手に馴染めばいい。人によっては木ではなくて金属の細身のものを使ったり、魔水晶を杖自体に組み込んだりもする」
「へえ…」
「ぶっちゃけて言うなら、そのへんに落ちてる木の枝でもいいんだ」
あは。ほんとにぶっちゃけだ。
お城の魔法師たちは比較的大きな杖を使ってた。補助だけなら、魔法師です!って誇示するような大きな杖なんて全く必要ない。むしろ、邪魔。
魔力を帯びてる必要もないから、だから剣でも代用が効く。そういうことか。
「こだわりがないなら、でかいやつより腰にくくりつけることができる程度の大きさでいいだろう。杖に魔水晶はつける必要はない。破壊されたり奪われると問題だからな」
「えっと……、トビア君に必要、っていうのは」
「魔力の込め方や方向性が不安定だろ。手元になにかあったほうが集中しやすいだろうからな」
「あー……なるほど」
細い杖がいい。某有名魔法使いが使ってるようなやつ。なんか、それを腰につけていたら、『いかにも魔法師!』って感じで格好いいし。
「じゃ、ギルマス」
「ん?」
「杖の手配お願いします」
「おまえなぁ…」
「俺、そういうの知らないし」
職人さんも知らないしね。
ニコニコ笑いながらギルマスに丸投げした。ギルマスは苦笑しながら、俺の頭をがしがしかき回してくる。
「仕方ねぇな」
うん。
ギルマス、なんだかんだで面倒見のいい人だよね。頼りになるよ!
*****
クリスもマシロもいないアキとギルマスの会話回………
ローブ着てる段階ですでに魔法師とまるわかりだが……。
応援ありがとうございます!
31
お気に入りに追加
2,207
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる