73 / 216
エルフの隠れ里
19 ◆アルフィオ
しおりを挟むそれは衝撃的な瞬間だった。
やけに自分の中の魔力がざわざわするなとは思っていた。だがそれは、王子殿下の怒りに触れるだろうことや、父上から更にきつい叱咤を受けることになるだろう…という未来に対する嘆きのせいだと思っていた。
王子殿下とアキラ殿には、見ていて微笑ましくなるほどの繋がりがあった。記憶の混乱が生じていて、今のアキラ殿には殿下の記憶がないにもかかわらず、二人を繋ぐ魔力の糸は途切れることはなく互いに絡み合っているようだった。
それは、アキラ殿と繋がっている半精霊も同じ。
アキラ殿と殿下が繋がっているためか、殿下の魔力も微力ではあるが半精霊と繋がっている。……視える者なら、この三人が本物の家族のように見えるだろうな。不思議なものだ。
感心しつつ、改めて謝罪をし、テーブルに擦りつけていた頭を上げたとき、アキラ殿の後ろに立つ彼を初めて真正面から見た。
どう、例えようか。
雷魔法で全身を穿たれたような、大滝を頭上から落とされたような、遥か上空から飛行魔法が解けて落下しているような、とにかく言葉で表現しきれない事態に陥った。
謝罪しているというのに、視線は必ず彼を追ってしまう。
王子殿下の仲間の一人。それはわかる。
彼は周囲を確認しながらも、アキラ殿を熱い瞳で見つめている。尊敬、敬愛、愛情……?複雑な熱だ。
申し訳ないと思いながらも、アキラ殿の記憶が戻るまでの滞在を殿下から望まれ、それを父上がお許しになっていた。
この機を逃してはならない。
彼は、きっと、俺の、唯一人。
生涯出会うかわからない、たった一人の番だ。
種族が違うことなど、些細なことだ。
亡くなれば魂は女神のもとに還る。そして、真っ白になってまたこの世界に産み落とされる。
一度見つけた魂。
俺のそばを一時的に離れたとしても、俺が見つけられないわけがない。
客間での話し合いが終わり、それぞれに部屋に向かうことになった。
王子殿下とアキラ殿は、アキラ殿に付けた者が案内するから問題ないし、俺に対して殺気を隠そうともしない男と、その男の手綱を握っている番らしき男は、他の者に任せた。
「こちらにどうぞ」
「?……ええ」
彼は『なぜ自分が?』と言いたそうな顔だったが、それでも俺の後ろについてきてくれた。
視界の隅に少し暗めの金髪が映る。
あの髪に触れたらどんなに気持ちいいだろうか。
短いのも似合うが長いのも絶対に似合うはずだ。
こんなことなら俺の部屋に近い場所を用意しておけばよかった。
まあ、まだ時間はあるのだから。
「こちらの部屋をお使いください」
「ええ」
扉を開けて促せば、彼は部屋に入った。
目の前を金色が横切っていく。
「案内ありがとうございます」
俺に振り向いた彼を、今までで一番の至近距離で見た。
暗めの金髪の合間から、色っぽい目元が覗く。瞳の色は緑色なのか。それもまたよく似合う。
「あの……お名前を伺っても?」
「?――――エアハルト・カーラー。リーデンベルグの伯爵家の三男だ。今はクリストフ殿下の直属の兵士団に所属している」
……俺に対する警戒が強い。
それはそうか。
俺はアキラ殿を攫ってきたんだから。彼にあれ程の瞳を向けていたエアハルト殿なら、俺を警戒して当たり前だ。
「少しお話をよろしいですか?」
「なぜ……」
「エアハルト殿のことを知りたくて」
「はぁ?」
「だめでしょうか…?」
「いや……アキラ様と殿下に問題がないのであれば……」
訝しげな表情を見せるエアハルト殿。
どう説得しようかと思っていたところで、部屋にノックの音が響いた。
エアハルト殿はすぐに扉を開け、応じる。
「副団長殿」
副団長と呼ばれた彼は、俺のことを感情の見えない瞳でみると、にこりと微笑みエアハルト殿に向き合った。
「私達はこれから殿下のもとに行くので、貴方はそこのエルフ殿から話を聞いてください」
「え」
「では任せましたよ?」
「あの」
にこりと微笑んだまま副団長は扉を閉めた。
エアハルト殿はあからさまに肩を落としていたが、溜息一つで気持ちを切り替えたらしい。
椅子に座り、俺に向かいの椅子を勧めてくる。
「………それで、話とは」
とてもとてと嫌そうに。
それでも俺の内心は幸福の鐘が鳴り響いていた。
根掘り葉掘り彼のことを聞き出し、夕飯近くにはもう彼のことを口説いていた。
アキラ殿のことは女神のように想い敬愛を向けていることは聞き出した。婚約者も伴侶も、恋人もいないことも確認した。
――――なら、なんの問題もない。
強引に夕食も共に摂り、就寝までずっと愛を囁いた。
彼は心底嫌そうな顔をしていたけれど、その表情ですら愛おしく感じるのだからどうしようもない。
できれば同じベッドで抱き込みながら眠りたかったが、そこまでは許されず部屋から追い出された。
けれど、俺はとにかく嬉しく、番が見つかった報告のために父上の部屋に出向いた。
……そこで聞かされた「殿下方は明日の昼過ぎに里をお発ちになる」って内容に、頭の中は真っ白になったが。
なんとか父上を説得し、翌朝の食卓で殿下方にどれほど俺が使えるか訴え、それでも許可と言ってもらえず、結局、「折角見つかった番と離れたくない」と、駄々をこねる子供みたいな訴え方をしてしまった。
………意外にも、それであっさりと許可が降りたのだが………。一体なんの基準があるのだろう………。
なにはともあれ、俺は番とともにいることができる。
はやくエアハルト殿も俺のことを見てくれるよう、口説き続けるしかない。
*****
エアハルトさんの外見表記を探しにあちこち読み返してきました………。髪しか見つけられなかった。
アルフィオ入団理由をみんなが聞いたら、全員『納得』って顔をするはず。
もしかしたら、ユージーンあたりは、純粋に、「よかったですね!」と受け入れるかも……ですね。
リオはとことんいじる。いじりまくってディックに怒られる。
応援ありがとうございます!
32
お気に入りに追加
2,207
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる