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エルフの隠れ里
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しおりを挟むどういう仕組みなのか、エルフの隠れ里の森を抜けると、王都に翌日には到着するだろう場所に出たらしい。さすがの王子様も驚いていた。
「国外に出るほどの距離は無理で、この距離が限度です」
…と、アルフィオさん。
「十分だ」
と、王子様は頷き、場所の確認をオットーさんたちとしてから、先頭をオットーさんとザイルさんが走り、次に王子様、殿はエアハルトさんとアルフィオさんて並びになった。
……エアハルトさんが凄くげんなりとした顔してたな。
「寒くはないか?」
「大丈夫」
森からどんどん離れていく。
馬に乗るなんて初めてのことのはずなのに、どうやればバランスがとれるのか…とか、王子様の言葉が嘘じゃなくて、この腕が凄く力強くて安定してて、なんの不安もないこともわかった。
空気が変わる。
不思議な感じ。
「み」
ましろはマントから顔を出して、俺の服に爪を引っ掛けて体も伸ばしてきて、俺の頬を舐める。
「ましろ、くすぐったいから」
「大人しくしないなら荷物袋の中に入れるぞ」
「ぴっ」
……俺の背後からおどろおどろしい声が響いて、ましろが大人しくなった。
「……荷物袋の中にいれるのは可哀想……」
「アキを舐めるマシロが悪い」
……暴れるとか動くとか、そんなんじゃなくて舐めること、なのか。心狭いな……王子様。…………………王子様?
ちらり…と後ろを振り返ったら、王子様…は、すごく優しい目で俺を見てきた。
「どうした?」
「な、なんでもない…っ」
ふぁい!心臓がいつもどおりバクバクしてます!
ほんと、なんなの。その優しい目…!
意識しすぎると心臓が壊れるから、流れる景色を見るけれど、お腹に回る腕に結局王子様…を意識してしまう。
ヴェルは二人も乗せてるとは思えないくらい力強い走りだった。あまり飛んだり跳ねたりはしないで、揺れも少ない。ほんとに優しい子だぁ…って思う。
そういえば最初からそうだった。
ヴェルはいつだって俺のことを気遣ってくれていて、人じゃわからないことにもいち早く気づいてくれて。
だから、あのときも――――
「あ、れ?」
「アキ?」
不思議そうな声を出した俺に、王子様…が、不思議そうな視線を向けてくる。
俺はまた振り向いて見上げて、……やっぱり格好いい王子様だよなぁ……と、何度も思ったことを改めて思った。
「どうした?疲れたか?」
「あー……、や、まだ大丈夫…」
走り始めてからまだそんなに経ってないし。
「そうか」って頷いて、笑顔のまま俺の頭にキスを落とす王子様はやっぱり王子様だ。普通の人がやったらただの格好つけ仕草に見える。なのに、これがとても自然。
……ああ、これは無理だ。
俺が太刀打ちできるはずもなければ、抗うこともできるわけがなかった。
ふう……と体の力を抜いて王子様によりかかる。あー……すごい楽。馬上で寝れるのもわかるくらい。
俺が体を完全に預けたのが嬉しいのか、王子様は何度も頭にキスしてくるし、左腕にはもっと力が込められた。
けど、待って。
それ以上締められたら、お昼に食べたものリバースするからぁ……。
「………………クリス、んと、右前方から魔物二体」
「ああ」
唐突な、なんの前置きもない俺の言葉に、王子様は短く答えて指笛の合図を響かせる。
魔物の気配、魔物の魔力。それを感じ取れることにちょっとほっとする。エルフの里じゃ何も感じなかったし。
五騎は進路を若干変更しつつ、平地を彷徨っている魔物と遭遇する。
先陣を切って斬り込むのはオットーさんだったけど、それよりも早く風の魔法らしきものが魔物を切り裂いた。
軽く舌打ちが聞こえた気がしたけど、聞かなかったことにしよう。
魔物二体で彷徨っていたというか、風で切り刻まれた魔物――――ちょっと小さめなヘルハウンドを、ちょっと大きめなウォーウルフが追い回してた……狙ってた?感じ??魔物の世界も大変だ。弱肉強食ってことだもんね。
ちょっとお前育ちすぎだよね…っていうウォーウルフと最初に接敵したのは、オットーさんとアルフィオさんだった。
オットーさんはいつもの愛剣を、アルフィオさんは細い体からは想像できない大きな戦斧。それを片手でひょいっと扱う。重くないのかな。
戦闘は………特筆すべきことはなにもない。あっという間に終わった。
ザイルさんはヘルハウンド子犬型から素材を取り出していたけど、それより早く終わった。何なんだろう……この人たち。
そしてエアハルトさんは、首なしオオカミからも素材を取り出し終わったあと、その場に穴を開けて二体の死体を埋めていた。もちろん、魔法で。……それを見たアルフィオさんが、褒めちぎっていたけど……、まぁ、いいや。
そして一行は再び帰路へとついたわけだ。
しかしなぁ。
それにしてもなぁ。
「気分は悪くないか?」
「え?」
「魔力、少しは使っただろ?」
「あー……、うん。でも大丈夫」
「辛かったら無理するなよ?」
「うん」
……優しくてイケメンな王子様は、こうして本気で俺のことを心配してくれるし気遣ってくれている。ちゅ、ちゅ、って、何度も頭にキスもしてくれる。
……さて。
本気で困ったぞ。
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