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エルフの隠れ里

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 西の空が濃いオレンジ色に染まってきた頃に、今日の野営準備になった。
 そういえば箱がない…と思っていたら、クリスポーチの中からこぶりな天幕が二つ。流石にびっくりだわ。天幕まで入ってたの……。
 簡易ベッドは数が少なかったけど、夜の見張りを交代制でやるから、三台あれば足りるんだって。もちろん、その簡易ベッドもクリスポーチから取り出されてたから、もう何も言えない。
 王子様……クリスは、ずっと俺を抱いたまま。絶対降ろさないぞ!って意気込みが見える。

 焚き火を囲んでの夕食の時間。
 アルフィオさんも含めて六人で丸太に座ったり地面にあぐらをかいたり、様々。
 春月の夜はまだ少し冷えるから、焚き火の熱が丁度いい。
 エアハルトさんが料理担当してた。元冒険者らしい豪快に肉を焼いたもの(肉はエルフの里で貰ったらしい)、色んな野菜を入れたスープ。あとは簡単に食べれる果物とパン。
 ……それらがどこから出てきたか、なんて、今更言わなくてもいいよね。これは本格的にどうにかしなければ。

「ほらアキ」
「自分で」
「駄目」

 俺はずっと王子様なクリスの膝の上。
 スープを掬ったスプーンを口元に運ばれる。
 マシロはテーブル代わりの敷物の上で果物を食べてる。お行儀のいい子。
 どんなに断っても俺の口に食べ物を運ぶクリスの手が止まらない。
 ………まあ………、わかって、いること、だけど。
 正直、俺は今とても困ってる。
 エルフの里を出たときは、なんともなかった。それまでと同じだった。
 けど、里を出て時間が経つほどにははっきりとしたものになってきてる。

「いつもどおりのことだ。諦めろ」
「そうですね。いつもどおりですね」
「いつもと同じです」
「いつもどおりアキラ様は美しく……!」
「エアハルト殿もお美しい」
「うぐ……っ」

 いつもどおりコールに、アルフィオさんのうっとりとした声が混ざって、ちょっとカオス。
 いつもどおり、ね。
 確かにそうかもしれない。
 じ…っとクリスを見たら、微笑まれて口に果物を押し当てられた。

「好きだろ?」
「うん」

 葡萄を口に入れられて、咀嚼してたら突然体を引かれて唇が重なってきて、潰れた葡萄を半分持っていかれるのも、それを態々人前でやるのも、………いつもどおり。

「……っ」

 声が漏れそうになってなんとか耐える。
 葡萄は十分甘いのに、クリスの唾液が流れ込んできてもっと甘くなって大変。
 んく……って飲み込んで、熱くなった息を自覚しながら唇を離してクリスを見上げる。
 目を細めたその表情は格好いいというか色っぽいというか、ドキドキして大変なことになった。

「どうした?」
「……なんでもないしっ」

 つい、目をそらしてしまった。
 ……タイミングが、難しくて。どう切り出せばいいのかもわからない。
 悶々としながらも、一口分のパンが口元に運ばれてくれば普通に口を開けた。
 その間にマシロは食事に満足すると、俺の足によじ登ってきて、膝の上で大きな欠伸をし始めた。

「マシロ、眠い?」
「ぅみゃ」

 まだ夜が更けたわけじゃないけど。なんとなくマシロの元気がない。

「里でアキラ殿の魔力と精霊たちの力で急激な成長をしたので」

 マシロの頭をなでていたら、アルフィオさんが話し始めた。

「里を離れたことで精霊の力が弱まったんだと思います」
「え」

 そういえば、マシロのこと半精霊って言われたけど、里にいないと駄目だった…?
 心配になってマシロの頭をなでていたら、アルフィオさんは慌てて言葉を続ける。

「もちろん、里の外にも精霊はいます。世界中、どこにでも。マシロ殿がこの環境に慣れれば、何も問題はありません」
「慣れるまでは人化できない?」
「おそらく」

 マシロ自身が半精霊。けど、精霊としての自覚なし。……精霊の力、って、何だろう。
 ……ん、わからないことばかりだ。
 うんうん唸ってたら、クリスが呆れた溜息を漏らした。

「単にアキに甘えていたいだけだろ」

 …と、ジロリとマシロを見る。

「しおらしくしていればアキが心配して構うからな」

 ……クリスの言葉は相変わらず容赦ない。
 そんなことないよねー?と思ったけど、俺の膝の上で、マシロがビクリと体を震わせた。……もしかして、あたりなのか?

「マシロ……」
「みゃ、みゃっ」

 慌てた様子のマシロに、もう苦笑するしかなかった。





 夕食後、明日の打ち合わせをする。
 夜間の見張りに俺もやるぞ!と意気込んでいたら、ザイルさんから笑顔で却下されて、クリスに天幕に連れ込まれた。

「お前を見張りに立たせるわけ無いだろう」
「でも」

 いつもなら隊員さんも多いから、短時間で交代できるけど、今は限られた人数だし。
 クリスは、うん。ほら、王子様だし。しなくていいと思うけど。……夜間の見張り、ちょっとやってみたいって気もするし。
 結局、眠かったのはそれなりにほんとだったらしいマシロは、あの後俺にしがみついて眠った。
 だから、天幕に連れ込まれた時に、マシロの寝床用の籠を出してもらって、その中で眠らせている。

「アキ」

 見張り……してみたかった、ってすねていたら、クリスが俺の顎を捉えて口付けてくる。

「んぁ」

 テーブルに置かれた魔導具。
 制服のボタンを一個ずつ外されて、シャツのボタンも外される。

「ふぁ……」

 素肌に触れるクリスの指先。触れた場所が熱を持つ。
 ズボンも脱がされて、とても恥ずかしい下着だけにされて、唇を離したクリスに全身を見られた。

「アキ」
「ん……、っ、な、にっ」

 いつの間に出していたのか、頭からクリス服を被せられて、裾を降ろされたら手が中に入ってきて、恥ずかしすぎる下着の紐を解いた。

「ひぅ……っ」
「アキ」

 耳朶をべろりと舐められて、耳の中息を吹き込むように。

「俺に話すことがあるだろう?」

 低く甘い、俺の大好きな声が、言った。









*****
20話で終わらせたかったのに終わらなかったー…(;^ω^)
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