74 / 216
エルフの隠れ里
20
しおりを挟む西の空が濃いオレンジ色に染まってきた頃に、今日の野営準備になった。
そういえば箱がない…と思っていたら、クリスポーチの中からこぶりな天幕が二つ。流石にびっくりだわ。天幕まで入ってたの……。
簡易ベッドは数が少なかったけど、夜の見張りを交代制でやるから、三台あれば足りるんだって。もちろん、その簡易ベッドもクリスポーチから取り出されてたから、もう何も言えない。
王子様……クリスは、ずっと俺を抱いたまま。絶対降ろさないぞ!って意気込みが見える。
焚き火を囲んでの夕食の時間。
アルフィオさんも含めて六人で丸太に座ったり地面にあぐらをかいたり、様々。
春月の夜はまだ少し冷えるから、焚き火の熱が丁度いい。
エアハルトさんが料理担当してた。元冒険者らしい豪快に肉を焼いたもの(肉はエルフの里で貰ったらしい)、色んな野菜を入れたスープ。あとは簡単に食べれる果物とパン。
……それらがどこから出てきたか、なんて、今更言わなくてもいいよね。これは本格的にどうにかしなければ。
「ほらアキ」
「自分で」
「駄目」
俺はずっと王子様なクリスの膝の上。
スープを掬ったスプーンを口元に運ばれる。
マシロはテーブル代わりの敷物の上で果物を食べてる。お行儀のいい子。
どんなに断っても俺の口に食べ物を運ぶクリスの手が止まらない。
………まあ………、わかって、いること、だけど。
正直、俺は今とても困ってる。
エルフの里を出たときは、なんともなかった。それまでと同じだった。
けど、里を出て時間が経つほどにそれははっきりとしたものになってきてる。
「いつもどおりのことだ。諦めろ」
「そうですね。いつもどおりですね」
「いつもと同じです」
「いつもどおりアキラ様は美しく……!」
「エアハルト殿もお美しい」
「うぐ……っ」
いつもどおりコールに、アルフィオさんのうっとりとした声が混ざって、ちょっとカオス。
いつもどおり、ね。
確かにそうかもしれない。
じ…っとクリスを見たら、微笑まれて口に果物を押し当てられた。
「好きだろ?」
「うん」
葡萄を口に入れられて、咀嚼してたら突然体を引かれて唇が重なってきて、潰れた葡萄を半分持っていかれるのも、それを態々人前でやるのも、………いつもどおり。
「……っ」
声が漏れそうになってなんとか耐える。
葡萄は十分甘いのに、クリスの唾液が流れ込んできてもっと甘くなって大変。
んく……って飲み込んで、熱くなった息を自覚しながら唇を離してクリスを見上げる。
目を細めたその表情は格好いいというか色っぽいというか、ドキドキして大変なことになった。
「どうした?」
「……なんでもないしっ」
つい、目をそらしてしまった。
……タイミングが、難しくて。どう切り出せばいいのかもわからない。
悶々としながらも、一口分のパンが口元に運ばれてくれば普通に口を開けた。
その間にマシロは食事に満足すると、俺の足によじ登ってきて、膝の上で大きな欠伸をし始めた。
「マシロ、眠い?」
「ぅみゃ」
まだ夜が更けたわけじゃないけど。なんとなくマシロの元気がない。
「里でアキラ殿の魔力と精霊たちの力で急激な成長をしたので」
マシロの頭をなでていたら、アルフィオさんが話し始めた。
「里を離れたことで精霊の力が弱まったんだと思います」
「え」
そういえば、マシロのこと半精霊って言われたけど、里にいないと駄目だった…?
心配になってマシロの頭をなでていたら、アルフィオさんは慌てて言葉を続ける。
「もちろん、里の外にも精霊はいます。世界中、どこにでも。マシロ殿がこの環境に慣れれば、何も問題はありません」
「慣れるまでは人化できない?」
「おそらく」
マシロ自身が半精霊。けど、精霊としての自覚なし。……精霊の力、って、何だろう。
……ん、わからないことばかりだ。
うんうん唸ってたら、クリスが呆れた溜息を漏らした。
「単にアキに甘えていたいだけだろ」
…と、ジロリとマシロを見る。
「しおらしくしていればアキが心配して構うからな」
……クリスの言葉は相変わらず容赦ない。
そんなことないよねー?と思ったけど、俺の膝の上で、マシロがビクリと体を震わせた。……もしかして、あたりなのか?
「マシロ……」
「みゃ、みゃっ」
慌てた様子のマシロに、もう苦笑するしかなかった。
夕食後、明日の打ち合わせをする。
夜間の見張りに俺もやるぞ!と意気込んでいたら、ザイルさんから笑顔で却下されて、クリスに天幕に連れ込まれた。
「お前を見張りに立たせるわけ無いだろう」
「でも」
いつもなら隊員さんも多いから、短時間で交代できるけど、今は限られた人数だし。
クリスは、うん。ほら、王子様だし。しなくていいと思うけど。……夜間の見張り、ちょっとやってみたいって気もするし。
結局、眠かったのはそれなりにほんとだったらしいマシロは、あの後俺にしがみついて眠った。
だから、天幕に連れ込まれた時に、マシロの寝床用の籠を出してもらって、その中で眠らせている。
「アキ」
見張り……してみたかった、ってすねていたら、クリスが俺の顎を捉えて口付けてくる。
「んぁ」
テーブルに置かれた魔導具。
制服のボタンを一個ずつ外されて、シャツのボタンも外される。
「ふぁ……」
素肌に触れるクリスの指先。触れた場所が熱を持つ。
ズボンも脱がされて、とても恥ずかしい下着だけにされて、唇を離したクリスに全身を見られた。
「アキ」
「ん……、っ、な、にっ」
いつの間に出していたのか、頭からクリス服を被せられて、裾を降ろされたら手が中に入ってきて、恥ずかしすぎる下着の紐を解いた。
「ひぅ……っ」
「アキ」
耳朶をべろりと舐められて、耳の中息を吹き込むように。
「俺に話すことがあるだろう?」
低く甘い、俺の大好きな声が、言った。
*****
20話で終わらせたかったのに終わらなかったー…(;^ω^)
96
お気に入りに追加
2,283
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!
ゆずは
BL
僕の婚約者はニールシス。
僕のことが大好きで大好きで仕方ないニール。
僕もニールのことが大好き大好きで大好きで、なんでもいうこと聞いちゃうの。
えへへ。
はやくニールと結婚したいなぁ。
17歳同士のお互いに好きすぎるお話。
事件なんて起きようもない、ただただいちゃらぶするだけのお話。
ちょっと幼い雰囲気のなんでも受け入れちゃうジュリアンと、執着愛が重いニールシスのお話。
_______________
*ひたすらあちこちR18表現入りますので、苦手な方はごめんなさい。
*短めのお話を数話読み切りな感じで掲載します。
*不定期連載で、一つ区切るごとに完結設定します。
*甘えろ重視……なつもりですが、私のえろなので軽いです(笑)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる