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新婚旅行は海辺の街へ

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「さっき、感知で『視て』いたときに、凄く大きな魔力があったんだ。なんか、いつも感じる魔力と違って、銀色のような青銀のような、もやっとしてるようで、はっきりとした色がついたような」
「…それで?」
「うん。その魔力と、目が合った」
「……は?」
「それから、その魔力が笑った感じがして」
「いや、まて。そもそも、お前が視ているのは魔力そのものだろ?そこに、それを有している者の表情とかは見えないはずだ」
「うん。俺もそう思う。……自分でもよくわからなくて。でも、なんか、怖くなかったし、知ってる魔力だった気がしたんだよね」

 右手で左肩のマシロを撫でたら、指にすりすりと額をこすりつけてくれた。

「多分マシロも、俺が感じた知ってるような不思議な魔力って言うのを感じ取って……、いや、共感?共鳴?して、尻尾ぶわってなってたんじゃないかな」
「…アキの魔力とつながっているから、か」
「うん」

 クリスが難しい顔で黙り込んじゃったよ。
 ……心配、させちゃったかな。
 でも、言っておかないと、何かがあったときにクリスの対処が遅れるし。

「体に不調は?」
「んー…、さっきも言ったけど、ほんとにそんなに魔力が減ってる感じはしないんだよね。結構広い範囲を視たと思うんだけど」
「その魔力があった場所は?」
「……この街にそんなに近くはないと思う。慌ててたから、あまり方角とかも視てなかったし……」
「慌ててた?」
「うん。悪意とかは感じなかったけど、『早く戻らなきゃ』って思った……ような?や、感じた?のかな。だから、すぐ魔力を切って感知をやめた……んだったかな。……なんか曖昧でごめんね?」

 曖昧なことも言葉にすることで明確になっていく、っていうのはよく聞くことだけど、言葉にすればするほど曖昧になっていく感じがして、ものすごく自分が役立たず感半端ない。

「……それと同じ魔力を感じたら、すぐ俺に言うんだ。わかったな?」
「うん」

 こつん、って、額が触れた。

「中々すんなり『新婚旅行』にはならないな」
「……でも、クリスと知らない街を歩けるのって、凄く楽しみなんだけど」
「そうだな。俺もアキと過ごせるのが何より嬉しい」
「みゃ」

 二人で笑い合っていたら、マシロの肉球が頬にあたった。
 どうやら『自分もいる』ってことを主張したいらしい。

「マシロも一緒だよ」
「みゅ」

 嬉しそうに揺れる尻尾が二本。
 ふさふさしてて可愛い。

「もう少し口付けてもいいか?」

 珍しいクリスのお伺いに、ちょっと笑ってしまった。

「クリスだったらいつでもしてくれていいのに」
「ほう?」

 ニタリ…と笑ったクリスが、すぐに俺にキスをしてきた。
 唇を舐められて、首筋を撫でた指が鎖骨まで下がる。
 ちゅ…って何度も触れるだけのキスをして、口端にもキスをしたクリスが、首筋に唇を押し当ててそこをきつく吸ってきた。

「んっ」

 多分そこに痕がついたはず。
 クリスは何度も場所を変えて吸い付いてくる。

「ん、くりすっ」
「アキは俺のものだからな」

 嬉しそうに楽しそうに俺の首筋で笑うクリスは、右耳につけてある耳飾りを指でいじって、それから、顔の位置を変えて耳にも舌を這わせてきた。

「や」

 ぞくぞくする。
 それはダメ。ほんとにダメ。

 胸元をはだけただけで脱がされはしなかったけれど、『まもなく夕餉が』って連絡が来るまでずっと、クリスの膝の上でいじられまくって、ぐったりしてしまった。







 制服から普通の服に着替えて、クリスに手を引かれて部屋を出た。
 マシロはどうしても一人(一匹?)は嫌みたいで、俺の左肩にちょこんと座ってる。…左肩なのは、多分俺の右隣にクリスがいるからだと推測…。
 案内してくれる侍女な人は、俺の方を見てなんとも言えない目になってる気もするけれど、特に何も言われない。まあ、面と向かって言うはずもないか。

 こちらです、と、案内された部屋は、とても広い食堂?だった。
 俺達が部屋に入るとすぐに、そこにいた人たちが一斉に立ち上がり礼の姿勢になった。

「楽にしていい」
「ありがとうございます」

 伯爵さんはその場にいる面々を紹介してくれた。
 伯爵さんの実弟である子爵の人とその夫人とその子供とか、伯爵夫人の実妹とその旦那さんの子爵さんとか、伯爵さんの実父の弟(ってことは叔父?)の息子(従兄弟?)男爵とその夫人との息子さんとか。
 うん。名前?そんなのすでに覚えてない。
 無理無理。
 クリスはなんの躊躇いもなく挨拶を受けて返して、張り付けた笑顔を振りまいていた。
 テーブルは長い四角のやつ。
 上座下座の概念がどうなっているのかさっぱりわからないのだけど、正直こんなに貴族の人に囲まれての食事なんて、経験皆無なんだよね。リアさんのところではビュッフェスタイルとかワンプレートとかだったし。
 俺の右隣はもちろんクリスで、クリスの右隣は伯爵さんで、伯爵さんの隣に夫人さん。そして、俺の左隣はまたしてもフランツさんで、その隣にニノンさんと、伯爵さんの実弟の息子さん。向かい側に実弟夫妻、義妹夫妻、男爵家族って配置になった。

 クリスはにこにこしながら、ちらりと俺に視線を落として、テーブルの下で俺の手を握る。
 うん、わかってる。気を付けるよ…って思いを込めて、俺もクリスの手を握り返した。



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