魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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新婚旅行は海辺の街へ

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「マシロ、膝の上においで」
「み」

 みんなが席について歓談を始めたあたりで、マシロに手を伸ばして膝の上に誘導した。
 隣のフランツさんはその様子をまじまじとみている。

「お部屋に置いてきては?」
「それも考えたんですけど、まだ子猫で寂しいらしくて。離れなかったので連れてきました。駄目でしたか?」
「あ、いえ。ただ、奥方様が落ち着かれないのでは、と」
「それなら問題ないです。マシロ、すごく頭もよくておとなしいので」
「そうなんですね」

 何を納得したのかはよくわからなかった。
 食事を待ってる間に食前酒なるものが配膳されたけど、俺の分はさっさとクリスが奪い取って行った。

「私の伴侶は酒が飲めないので」

 って、態々言い置いて。
 飲めないわけじゃないけど。飲んだらあっという間に理性が消えるだけで。
 周りの反応は、まあ、普通?それなら、と、伯爵さんは果実を絞ったもの……ジュースを俺に用意してくれた。
 濃い葡萄ジュースみたいなもので、とてもおいしい。
 俺がそれを飲んでいると、なんとも言えない視線を感じた。顔をあげたら男爵さんの息子さんと目があった。
 すぐにふいっとそらされたけど、視線には敵意というかなんというか、いい感じはなかった。
 ああここでもか……って思っていたら、クリスの手が俺の頭を撫でていく。

「ゼバルト伯爵、私にも伴侶と同じものを」
「ええ。すぐにご用意いたします」

 クリスは頷いて、すごく優しい目で俺を見る。
 うん、大丈夫。ありがとう、クリス。

 葡萄ジュースは甘すぎなくて、クリスも気に入ったようだった。
 そのあとに食事も始まったけれど、なんというか、ほんとに皆さんよく食べるらしい。
 俺の食べる量が前に戻ってきてはいるけれど、少ないことに変わりない。
 やーほんと参った。
 半分も食べられない。
 女性陣もほとんど同じ量を食べているのに、男の俺はほとんど食べられない。
 コース式だから、一品一品食べ過ぎると次の料理は更に食べられなくなるし。
 美味しいのに苦しい。辛い。

「無理しなくていい。残していいから」
「ん…」

 クリスがそう言ってくれるから、半分以上残して次の料理…になってしまう。致し方ない…。

「お口に合いませんか?」

 って、フランツさんに微妙な顔で言われてしまった。

「あ、いえ。すごく美味しいです」
「私の伴侶は食が細いので。美味しい料理でいつもより食べている方ですよ」

 と、クリスのフォロー。
 俺に注目していた伯爵さんも、ほっと息をついている。

「存じ上げず申し訳ありません。奥方様用に明日からは量を控えた物を用意させますので」
「すみません…。ありがとうございます」

 貴族だから残すこと当たり前、残すくらい料理を振る舞うのが一種のステータス……って考え方じゃなくてよかった。
 残すのもったいないから。絶対だめ。

 美味しいのに食べれない……って残念に思いながら、食後のお茶まで進んだ。
 量をひかえながら食べていたのに、満腹すぎてつらい…。

 食後の歓談の時間。
 膝の上のマシロをなでながら、隣のフランツさんからの質問攻めに答えていたのだけど。好きな食べ物とか、花とか、明日行きたいところとか、とかとか。
 ちょっと、ね。ちょっとだけうんざりしてたんだよね。お腹が苦しいんだもん。仕方ないじゃん。いいから放っておいて!と言いたいのだけど、言えない。
 そんな俺の感情を感じ取ったのか、マシロが俺の腕をよじ登って左肩に上ってきて、しっかり一本になっている尻尾をびたんびたん動かしてる。

「…本当に可愛い子猫ですね。触ってもいい――――」

 俺の許可を得る前に伸ばされた手。
 クリスの手が俺の腰を捉えるのと、マシロの尻尾が伸びてきた手を叩き落したのはほぼ同時。

「マシロ」
「私の伴侶に触れるな」

 ……お茶会のときもこんなことあったな……なんて、気楽に考えていたけど。

「人にそのような危害を加える獣をこの場に連れ込むというのは、あまりにも私たちを軽んじていらっしゃるのではないですか。殿下はその伴侶様を寵愛するが故に、無茶な我儘を聞いていらっしゃる…。伴侶様に対して甘すぎではありませんか」

 ……って言葉に、視線を巡らせた。
 発信源はあの男爵さんの息子さん。棘のある視線ばかりを俺にむけてきた人。
 男爵さんは嗜めようとしているけれど、その視線は俺に刺さったまま。

「申し訳ございません。殿下、奥方様には触れませんのでお怒りをお納めください。ただ、少し、奥方様になついているこの子猫に触れたかっただけなのです。突然手を伸ばされて、子猫も驚いたのでしょう。――――私には怪我もないのだから、ダルウェンも剣を収めてほしい」

 フランツさんは笑いながら、マシロの尻尾に叩かれた手を振って見せた。
 …驚いたわけじゃなくて、多分俺の感情に応えた結果だったと思うけど。
 男爵さんの息子さん――――ダルウェンさんというらしい人は、舌打ちをして俺から視線をそらせた。

「あー…、クリス、ごめん。俺、先に戻るから――――」

 こんな気まずい空気にしてしまったのは明らかに俺のせいだし。

「問題ない。――――伯爵、私たちは部屋に戻る。明日からもよろしく頼む」
「え、ええ。もちろんでございます。至らぬところばかりで申し訳ありません、殿下」
「いや。十分有意義な時間だった」

 そう答えて、クリスは俺に手を伸ばして、手を重ねようと俺も手を伸ばしたら、そのままいつものように抱き上げられた。

「ク」
「子猫――――マシロは陛下より存在を認められた物だ。がなければ人に対して牙は剥かない」

 それは明らかにダルウェンさんに向けたもの。

「私が伴侶を寵愛するが故にその我儘を許しているわけではないということを、よく理解しておいた方がいい」

 誰も何も言わないままだった。
 クリスはそれ以上何かを言うつもりはないらしく、じっとクリスを見ている俺に微笑んでくれる。

「まあ、私が伴侶に対して甘いということは間違いではないな」

 ……って。言って。
 ふにっと唇が触れてきて、抵抗するよりも先に舌までいれられて。

「っ」
「いつでもどこでも口付けていいと言ったよな?」

 ……言いましたね。
 いつでも、って。どこでも、とは、言ってないと思うけどっ。

「では先に失礼する」

 クリスは部屋の中を一瞥すると、俺を抱きなおして歩き始めた。
 俺はもうなんか色々一杯すぎて、クリスの胸元を握りしめて、ただただじっとしていた。



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