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蜜月は続くよどこまでも!?

8 餌付けも色々

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◆side:クリストフ

 アキが可愛い。いつも通り可愛い。
 大勢の前で腕まくりをしたのは正直腹立たしさもあったが、あまりにも楽しそうに笑うから怒る気にもなれなかった。
 見たことがない形の道具を器用に使って生地を裏返す。隣のセシリア嬢と時折楽しそうに話しながら、焼き加減を見ているようだった。

「できた!」

 円形に焼いていたものを二つに切り分け、それぞれを皿に盛り付けた。
 そこに白っぽいクリーム状のものと、とろみのある茶色のものをかけ、フォークを添えてくれる。

「これ、クリスの分!」
「ありがとう」

 もう一皿は簡易日除けの下で椅子に座り寛いでいるメリダに持っていくようだった。
 俺の傍に戻ってきたアキは、俺の手から皿を取ると、置かれていたハシで器用に切り、ひとくちを俺に向けた。

「はい、あーん!」
「ん」

 なんのためらいもなくしてくることに、頬が緩む。

「みゅ」
「これはマシロは駄目。後でミルク上げるからね。……クリス、どう?」
「……これは、食べたことのない味だ」
「口に合わない?」
「いや…うまいな」
「だよね!」

 俺の返答にアキは満面の笑顔を見せてくれた。

「アキが食べさせてくれるともっと美味い」
「じゃ、もう一口!」

 照れもせずに行動に移したアキ。
 可愛すぎる。

「俺にも」
「ああ」

 ハシは未だに上手く使えないから、俺はフォークで一口分をアキに食べさせる。
 大きく口を開いた姿に劣情が掻き立てられるのは、まあ仕方ないか。

「んー……うまっ。すごいリアさん、ほんと天才!!」
「ふふ」

 手放しでセシリア状況を褒めるアキに若干の腹立たしさは覚えるが、これも仕方ないこと。唯一の同郷者だから、懐くのも当然だ。
 その後もセシリア嬢と焼き続け、直接エアハルトに皿を手渡していたときには溜息が出たが、この頃はエアハルトも大人し目だからな。これくらいは許してやろう。





◆side:エアハルト

「エアハルトさん、どうぞ」

 と、私の女神様が御自ら私なんぞに皿を差し出してくださった。しかも、その御手で焼かれたものだ。

「あ、あ、アキラ様ー…!」
「火起こしもありがと!慣れない属性だから疲れたでしょ?これ、ほんとに美味しいから!いっぱい食べて!」

 ……と、私のことを気遣う言葉まで。
 ああ……信じられない。
 叶うものならばご婚礼姿を目に焼き付けたかったが、シャツにベストだけというお姿も捨てがたい。それに、惜しげもなく晒された、白くて細い腕。たまらん。

「あ、アキラ様からそのようなお言葉がいただけるなんて、私は、私は――――」

 お顔をまともに見ることもできず、皿を受け取ってから下を向き続けていた私の肩が叩かれた。

「アキラさんな、あっち」
「ブランドン殿」

 呆れたような苦笑をしながら、ブランドン殿が私の肩に手をついていた。
 示された方を見ると、確かにすでにアキラ様は他の団員たちのもとに行ってしまっていた。

「あああ………」
「諦めが悪いというかなんというか……」
「いえ、いいんです。アキラ様が、直接私にこの料理を届けてくださった……。もう、本当に、それだけで……!!!」
「俺ももらったけどな?アキラさん、全員に……………って、聞いちゃいねぇな」

 ブランドン殿の言葉はほとんど耳に入ってこなかった。
 笑うアキラ様。
 驚くアキラ様。
 嬉しそうなアキラ様。
 ああ、本当になんて素晴らしい。

 アキラ様のお姿を視界一杯に収めながら食べた『オコノミヤキ』と言うものは、嘘偽りなく美味しかった。
 ……きっと、アキラ様の慈愛の心が全て入っていたに違いない……!





◆side:セシリア

 本当は豚汁を作りたかった。けど、どうしても味噌が見つからない。世界は広いからこれはもう気長に行くしかないのよね。幸いにも私はまだ十四歳。人生は長いわ!

 アキラさんのために何かできることを考えたとき、料理のことしか思いつかなかった。
 ならば、きっとこっちではやっていないはずのバーベキューにしましょう…!と、王都にある金物屋に突撃して、絵を買いて形状を説明してなんとか形になった。
 お買い物に付き合ってくださったレヴィ様が、「何に使うんだ?」と訝しげな顔をされていたけれど、わたしは当日までの秘密です、と、説明はしなかった。

 野外だからお好み焼きはどうかと思ったけれど、一度食べたくなると作りたくなる。聞いたことはないけど、多分アキラさんもお好み焼きは嫌いではない(はず)!
 カレーのスパイスの調合がうまく行ったときも嬉しかった。それもこれもお米を見つけることができたからこそ、その熱意が湧いたというもの。

「リアさん、ほんと天才!!」

 ってアキラさんが笑顔全開で褒めてくれたときには、なんだか本当の弟に褒められたように嬉しくなった。
 本当なら関わりなんて持たなかったはずの同郷者。
 知らない他人で終わるはずだったのに、女神様のお導きなのかしら。今じゃ親友と言っても過言ではない絆を感じてる。

 ああ、もう。
 頑張るわよ。
 大豆だって味噌だって醤油だって見つけてやるんだから!
 渾身のお味噌汁に『美味しい!』って言わせてみせるんだから!



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