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蜜月は続くよどこまでも!?
7 異世界料理を振る舞います
しおりを挟むバーベキュー、意外とないんだよね。
野外での炊事は当然ある。
遠征に出たときに、何度もクリス隊のみんなで大鍋料理をしてたし。
でも、料理ってなると基本スープ。あとは、パンとか干し肉とか果物なんかは、収納魔法箱に入れておけば持ち運びは普通にできる。時間停止も付いてるはずだから、やろうと思えば温かいスープなんかも鍋ごと箱に入れられる、はず。
……あ、時間停止はついていないのかもしれない。だとすれば、パンが固めなのも干し肉なのも理解できる。
騎士団や兵団に支給されている魔法箱。でも、魔法箱は遺跡とかからたまに見つかるもので、貴重品。なので、高額。
冒険者の人たちはそういうものを持っていない。
魔物から剥いだ素材は、背負袋や革袋に入れて自力で持ち帰らないとならないから、大変なんだよね。荷物の量が多すぎて。
だから、保存食とか簡易的な調理器具でお湯を沸かしたり簡単なスープを作る程度しかできない。
そんな状況でバーベキューの道具を持ち歩くなんてできないよな。
「火が弱かったら少しうちわで扇いでくださいね」
……うちわ。
リアさんの手に、たしかにうちわが。
え。作ったの?
「そっちは金網を付けてください。こっちは鉄板を半分載せてください」
みんながリアさんの手足みたいに動いてるのはちょっとおもしろい。
テーブルの上にはお皿とかフォークとかグラスが置かれてる。紙コップとか紙皿とかじゃないのが違和感あるけど。
「団長様は箱の中の鍋を金網に移してください。重たいですからね。副団長様は焦げないように中身を混ぜてください。ディック様とエルフィード様はそちらの食材に串を刺して金網の上で焼いてください。神官様はこの中身をぐるぐるかき混ぜてくださいね」
流れるように指示を出していくリアさん。さすが…。
この中で一番年下のはずなのに、めちゃ年上に見える。
「へぇ」
ギルマスはしきりに感心してて、何やら考え込んでる。
「……坊主、これは、むこうでよくあるのか」
「よく……っていうか、やる人は多かったですよ。火起こし楽しいし、美味しいし」
「なるほどなぁ…」
なにがなるほどなのか、わかんない。
俺にもなにかやれること…って思ったら、ザイルさんがかき混ぜてた鍋に、なんだかみんな集まってた。
なになに…って近づくと、スパイシーなあの匂いが。
「リアさん、カレー!」
「ふふ。ちゃんとご飯もありますよ?本当なら豚汁が良かったんですけど…。味噌が…」
「あー、うん。早く味噌汁食べたいね…」
「全くですよ……」
二人で『はぁ』ってため息をついてたら、なんかみんなに注目されてた。
「アキラさん……これはスープなんですか?やけにとろみがついてますけど」
かき混ぜ担当のザイルさんが変な顔してた。
「匂いは凄く食欲をそそられるんですが……」
まあ……茶色だしね。
複雑極まりないそんな表情にもなるよね。
俺の左肩でマシロが鼻をひくひくさせながら頭を上げた。スパイスの匂い、気になるのかな。
「これね、ごはんにかけて食べると美味しいです!」
「ご飯……」
「パンでもパスタでもいけます」
「な……るほど……?」
うんうんわかる。
クリスも変な顔してたし。
いつの間にか指示が出てたのか、ギルマスとディーさんが箱の中からさらに色々出してテーブルの上に並べてた。
ん。ついにギルマスまで使い始めたね、リアさん。
「――――さ、やりますか」
リアさん、腕まくりをして紐で止めた。
ラルフィン君からボウルを受け取って、温めて油を馴染ませた鉄板に、ひとすくい分を丸い形に流す。
「小麦粉も卵もあるし。具材は名前が違ったりするものもあるけど、基本一緒。全部細かくして混ぜたの」
その上に何かの肉…豚肉っぽいものをのせて。
「リ、リアさん……っ」
「………ふっ」
料理もののアニメとかなら、不敵な笑みを見せたリアさんが、『シャキーン!』とでも音が付きそうな、キレッキレの動きで、あの独特な形の金属ヘラを取り出した。
「マヨネーズとソースは作り済み!カツオと青のりがないのは残念だけど、それはまた今度!」
「十分すぎるよ!」
「ふふふ」
食欲をそそる音がする。
香ばしい匂いがしてきたところで、リアさんがヘラで綺麗にひっくり返した。
「おお」
何故か上がる感心した声。
「アキ、これは?」
「お好み焼き!みんなでわいわい食べるとすごい楽しいし、美味しいんだよ!」
「むしろアキが楽しそうだ」
「楽しい!」
ウズウズする俺。
お好み焼きって、見てると手を出したくなるんだよ…!
「リアさん、俺もやる!!」
「そう言うと思ってました」
そしてリアさんはもう一組のヘラを俺の前に出してきた。
興味津々で鉄板を見つめるマシロを肩から降ろして、クリスに抱いててもらう。カーディガンも脱いでクリスに預けた。
腕まくりして、俺もお好み焼き作りに参戦する。
バーベキューでお好み焼きってのも楽しい。てか、異世界でお好み焼き。すごい違和感しかないけど、とにかく楽しい。
二人で焼いてみんなに振る舞う。
俺が焼いたのは、最初のは半分に切ってクリスとメリダさんに。それからは、とにかくみんなに。エアハルトさんにも手渡したら、何故か泣かれた。うん。変わりないな、この人!
その間に野菜や肉も焼けて、これまたリアさんが自作したらしい特製タレや塩コショウでみんなで食べて、カレーライスを口にした人たちから美味しい!って言葉が上がって。
お好み焼きをひとしきり焼いたあとは、マシロが俺の頭の上に戻ってきた。
クリスもたくさん食べてくれたし、俺も楽しく食べれた。
「貴族向きじゃないがこれはいいな。うちの宿でやるか」
なんてギルマスが言うから、ラルフィン君が滅茶苦茶やる気になった。…ラルフィン君がやるってことは、必然的に幼馴染みズも参加になるんだろうなぁ。
冒険者宿は酒場も兼ねていて、ギルマスも料理をする人だから、リアさんからマヨネーズなんかのレシピを聞いていた。
ギルマスがものすごく商売人の顔してたから、儲かる…ってことなんだね、きっと。
*****
カレーライスは以前クリスとアキは食べてました。
これから暁亭のメニューに出てくるのでしょう……。
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