魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜団長は副団長を嫁にしたい〜

ゆずは

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団長は副団長を鍛えたい

4 団長と副団長の愛馬は兄弟馬である

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◆side:ザイル

 早朝からオットーさんに連れ出された。
 夜警の兵士たちがまだ交代にならない時間。目的地は王城の敷地内にある厩舎だった。

「ジード、いますか」
「ああ、はい、こっちです。オットーさん」

 厩舎の中から少し嗄れた声が聞こえてきた。
 オットーさんは躊躇うことなく中に入ると、声のした奥の方に進んでいく。

「おはようございます、ジード」
「はいはい、と。…おや、そちらが新しい」
「ええ。ーーーーヴェルの調子はどうですか。半月ほどでまた北に向かいます」
「いつでも問題ありませんよ。今すぐにでも殿下と駆け出したいようですからね」
「ザイル、厩舎番のジードです。ヴェルは殿下の愛馬なので覚えておいてください」
「はい」
「それで、ジード。馬ですが」

 殿下の愛馬…と言われたヴェルは、優しげな瞳をしていた。殿下の愛馬……もっと猛々しいのを想像していたのだけど。

「ザイル…さんですか。もしかして、貴族のお方?」
「え?あ、はい。すみません。ザイル・リクシーと申します。殿下から先の御前試合でーーーー」
「ああ。いいですいいです。お貴族さんなら、馬の扱いには慣れていらっしゃいますね」
「……それなりに、ですが……」
「なら、こいつですかね」

 ジードさんは一頭の栗毛の馬の前に私達を誘導した。

「雄馬ですけどね。多少気性は荒いですけど、オットーさんともうまくやってるらしい貴方なら乗りこなせるでしょう」
「ルドの兄弟馬ですか」
「ええ。なかなか乗り手がいなくて不貞腐れてるんですよ。名前はリドです」
「リド、ですか」

 気性が荒い、と聞いても、怖さはない。オットーさんの愛馬の兄弟馬……怖がる必要がなにもない気がする。

「乗ってみますか」
「はい」

 考えるほどのことでもなかった。
 ジードさんがリドを厩舎から連れ出す。
 私を見る瞳からは気性が荒いだなんて思えなくて、手綱を渡されて首筋を撫でてみた。
 嫌がることもなく、私に身を委ねてくれる。
 問題なんて何一つなかった。
 私が鐙に足をかけ飛び乗れば、ふるりと一度首を振り、私を見る。

「リド」

 呼びかければ応えるように低く嘶き、軽く脇腹を蹴れば力強く足を踏み出した。
 なんとなく、わかる。
 リドは、私の相棒になるんだ。

「リド、これからよろしく。私はザイルです」

 リドはまた低く嘶き、駆け出した。






◆side:オットー

 俺の相棒であるルドは、多少気が荒い。そのせいで今まで乗り手がいなかったが、それは俺にとっては都合のいいことだった。
 一年前からずっとルドは俺の足として十分な力を発揮してくれているのだから。
 その兄弟馬であるリドが、まさかザイルを認めるとは思わなかった。屈強な騎士さえも振り落としてきた馬だったはずなのに。
 だが、それもまた良かったかもしれない。リドならヴェルやルドについてくることができる。

「手続きは後ほど」
「ええ。いつでもよいですよ」

 リドの件は後で殿下に報告すればいい。

「ザイル、今日はこのまま少し郊外に出ますよ」
「あ、はい!」
「ジード、ありがとうございました」
「いえいえ」

 俺もルドに鞍を付け、飛び乗った。

「東から行きます」
「はい」

 二騎で王都を駆け抜ける。
 東町から王都の外へ。
 王都周辺に凶悪な魔物出没の情報はないが、警備にもなるし丁度いい。
 一旦後ろを確認したが、リドを駆ることに特に問題はなさそうだ。疲れた様子もなく、遅れることなく、ザイルは俺の後ろについてくる。
 遠征までの間に慣れれば問題はなさそうだ。





「ザイル、止まってください」
「はい!」

 王都から半日ほど走った場所に広がる森まで来た。
 ……ああ、本当に丁度いい。

「剣の調子はどうですか」
「特に問題ありません!」
「そうですか。では」

 下馬し、ルドを適当に逃がす。ザイルも俺に倣い、リドを逃した。戻ってこないとも考えないのだろうか。

「ここ一帯の魔物を殲滅してから帰城します。無理だと思ったら口笛でリドを呼びなさい。いいですね?」
「……!は、はい……!」
「くれぐれも私から離れないように」
「はい!」

 森の奥から空気を震わすような咆哮が響いた。

「来ますよ」
「はい」

 息を整え、剣を抜く。
 枝を踏む音と、醜悪な匂い。
 ……この感覚、久しぶりだ。

「………っ」

 木々の間から現れたのは、俺たちの倍ほどもある巨体の魔物。……思わず溜息をついていた。比較的王都に近いこの場所に住み着いたとでも言うのか。
 こいつの被害報告がないのは不幸中の幸いか。

「行きますよ!」
「は、はい!」

 二足歩行の巨体の魔物。人形ひとがたのそれは、片手にでかい棍棒のような武器を持っている。
 滅多に遭わない魔物だ。この一年で俺も遭遇したのは一度か。

「この規模の魔物が王都近くに出没するっていうのは、脅威でしかありませんね」
「……はい」
「怖いですか」
「……大丈夫です」
「まあ、怖い気持ちは持ち合わせていた方がいいですよ」

 魔物と目が合った。
 腕が鳴る。

「怯えて体が動かないというのであれば、さっさとこの場を去りなさい。足手纏は必要ありません」

 答を聞く前に地を蹴った。
 恐怖は慎重さを生む。けれど、怯えは駄目だ。体は竦み、動きを止めてしまう。
 ザイルはどちらだろうな…と思いながら、魔物の足を狙う。
 まず狙うのは足首の腱。動きを止めてしまえば戦いやすくなる。
 振り下ろされた棍棒を避けながら右足の腱に刃を振り下ろした。硬い。だが、問題はない。
 俺が右足の腱を断ち斬った直後、俺と同じように左足の腱をめがけて剣を振り下ろすザイルの姿があった。



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