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団長は副団長を鍛えたい
5 団長と殿下は副団長の入団を許可する
しおりを挟む◆side:オットー
「浅いです!追撃を!」
「はい…!」
間髪入れずに剣を翻す。
騎士団の者でもこの規模の魔物相手では気後れし、怯え、使い物にならないというのに。
いい。本当にいい。
腱を断ち切られた巨体は、その場に倒れ込む。
それは地を揺るがすような振動で、一帯の鳥が飛び立った。
「地に倒しても腕の力は強いです。気を抜かないように」
「はい!」
ザイルは体勢を整え、剣を構え直す。――――と、魔物は片手で体を支え上体を起こすと、周囲を棍棒でなぎ倒した。
木々が簡単に薙ぎ払われ、その風圧が俺たちに襲い来る。
時間をかけて他の魔物が近づいてくるのも面倒だ。
「腕の動きに注意してください。首を狙います」
「はい!」
片腕の腱も斬ることができれば、脅威も減るのだが、それには位置が悪い。首を狙いつつ、隙きを見るしかない。
殿下と二人ならなんの不安もないが、今はザイルと二人だ。経験の浅いザイルでは、無茶をしでかすかもしれない。
魔物の動きに注視し、ザイルの様子を観察し、時に指示を与え、随分と神経を使う戦闘となった。
俺が棍棒を抑えている間に、ザイルが腕を剣で斬りつける。特に指示をしなくとも、それくらいの動きは見せるようになった。
ザイルの目つきが変わっている。戦闘の雰囲気に飲まれることなく、冷静に研ぎ澄まされた視線だ。絶え間なく動き、現状を把握している。
魔物が棍棒を取り落とした頃には、若干の足のふらつきは見られていたが、倒れるほどではないな。
がら空きになった魔物のうなじ。
地を蹴ったザイルが飛び上がり、そこを目指して渾身の一撃を叩き込む。だが、まだ足りない。悔しそうな顔をしたザイルを視界に捉えながら、両手で剣を握り直し、ザイルが与えた切り口に更に剣を叩き込む。
骨も全て絶つ手応えがある。
剣を振り切ったのとほぼ同時に、ゴトリと重量感のある音が響き、首をなくした巨体は地に沈んだ。
この型の魔物から取れる素材はほぼない。
俺が剣の血を拭い小刀を取り出すと、ザイルは剣を握りしめたまま俺を見ていた。
「魔物からは素材が取れます。これから取れるものはほとんどありませんが」
背中側から裂き、活動を止め、結晶と化した心臓を抉り出す。
「動きを止めた魔物からはこうして魔石と呼ばれるものを取ることができます。獣型なら毛皮や牙、角など、その形態によって様々です。あとは死骸の処理ですが、私達二人では対処できないので、兵士を呼んで処理を行います」
「……はい」
「よくやりましたね。一度帰還しますよ」
「………はい」
ザイルはまだどこか呆然ととしながら、そこでようやく剣を拭い、鞘に収めた。
◆side:ザイル
必死だった。
オットーさんについていこうと、足手まといにならないよう必死に食らいついていた。
最初は言葉で指示を受けながら動いていた。けれど後半は、オットーさんの視線だけで次の行動を理解できた。動くことができた。
魔物の頭が落ちて戦闘が終わったのだとわかっても、しばらくの間頭の中は現実を受け入れていなかった。
戦闘の、少しでもオットーさんと共闘できたのだという高揚感に、私自身が支配されていた。
あの感覚。
あれを忘れたくない。
心ここにあらずの状態だった。
オットーさんの指笛で戻ってきたルドとリド。
私に頭を向けてきたリドに乗った……が、何故か体を大きく震わせ落とされた。
「ザイル」
「え……」
呆然としつつ、頭の中がはっきりとした。
私をたしなめるような目で、リドが見てる。
「……ああ、すみません、リド。オットーさん、ご心配をおかけしました。大丈夫です」
二度目に乗ったときは落とされることはなかった。
もう大丈夫。頭の中は正気に戻ったから。
森に行ったときよりも早く王都に帰り着いた。
厩舎にリドとルドを預け、兵士団に討伐した魔物の処理を依頼する。早く動かなければ他の魔物を呼び寄せかねないから。
そこまで手配を終わらせ、オットーさんに連れられるまま、殿下の執務室に向かった。
入室を促され、初めて執務室に足を踏み入れた。
「………また随分な格好になったな」
殿下が私達の泥や血で汚れた姿を見て苦笑する。
「二足歩行の巨人型がいたなんて聞いてませんでしたよ、殿下」
「それはまた……。仕留めたのか」
「ええ。これが魔石です」
小袋に入ったまま、オットーさんが殿下に渡していた。
「兵士団へ後片付けの依頼は済んでいます」
「ああ。――――ザイル」
「はい!」
「どうだった」
「……」
殿下の口元には笑みが浮かんでいるのに、目元は一切笑ってはいなかった。
私は姿勢を正し、殿下を見る。
「魔物は……凶悪で、手強かったです」
「なるほどな。……オットー」
「ええ。何も問題ないかと」
「そうか。お前が言うならそうなんだろう。――――ザイル」
「はい!!」
「これからも気を抜くなよ」
「はい!!」
殿下は頷くと何かの包をオットーさんに渡していた。
それを受け取り、オットーさんが一礼するから、私も一礼して退室となった。
今日はこれで終わるらしい。
兵舎の部屋に戻ったとき、オットーさんが手にしていた包を私に手渡してくれた。
「明日から使ってください」
そう言い残して、オットーさんは先に風呂場に消えていく。
私はテーブルの上で包を開けて――――言葉をなくした。
そこには真新しい濃紺の軍服が畳まれ入っていた。背中には当然殿下の『印』が刺繍されている。
私が二人から認められた証だった。
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