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決意
しおりを挟む一体、ボクに何を期待してるんだろう。
疑問が身体に出て、自然と首を傾げると「ミドリくんは本当に面白いねぇ。」と何時もの笑顔をボクに向ける。
それがまた不思議でまた首を傾げて、自然と眠るコタの手を握ってしまう。
手を握るとコタはその手を抱き寄せて、スリッと甘えるように頰を擦り寄せて来る。
それが少し照れ臭くて愛おしくて嬉しくて、つい、パタパタと床に付かない足を遊ばせてしまう。やっぱり、幸せそうに寝ているのが一番。苦しむのは良くない。
だから早く良くなるようにといっぱい念を送りながら頭を撫でる。
「君は本当にコタくんが大事なんだねぇ。」
頭をいっぱい撫でているとガウェインさんが苦笑し、そう言葉を溢した。大事だとこくこくと頷くと「それは良かった。」とニコニコと紅茶を啜るが、ふと憂いの表情を浮かべ、ため息をつく。
「でもこのままの状態ではもって三年行くか行かないかなんだよ。」
その言葉にグッと唇を噛んで悲しみを堪える。
もって三年。
ガウェインさんの口移しでの魔力供給と魔力増強剤を使ってもコタはこの世界にいる限り三年しか生きられない。だけど、後三年でサヨナラなんて認められない。
ガウェインさんによると今の所、延命方法は三つあるが、実質、今の所一つだ。
「粘膜接触での魔力供給が一番リスクが少ないねぇ。だけど生命活動を補うとなると莫大な魔力が必要になる。」
しかしそれも条件がかなり厳しい。
子をつくる為に男性から女性に送られる大量の魔力でないと賄えない事。そしてその大量の魔力を送る相手も一般人並みの魔力量ではコタの空の魔力を完全に満たすにはいたらない。それが現状出来るのは…。
「僕でギリギリのラインだねぇ。」
「なラっ…。」
「君はそれでいいのかい? 」
これでコタが助かるとホッと胸を撫で下ろそうとした瞬間、そう問われて固まる。
ギュッとコタの手を握る手に力が入る。
すべすべとしたコタの白く綺麗な肌と自身の緑色の綺麗とは言い難い肌が目に入り、ゆっくりと目を閉じて、感情を外に追い出すように息を吐いた。
「それでコタが…助かるなラ。」
すんなりと言いたかった言葉は途中でつまり、声にもいらぬ力が入っていた。ガウェインさんは「それで本当にいいのかい? 」と眉の根を下げた。今、ガウェインさんの翠の瞳にはどんな顔をしたボクが映っているんだろう。知りたくなくて目を伏せた。
コタが大好きだ。
本当は誰にも渡したくないし、触れて欲しくない。
だけど、ボクは…。
『やっぱり、ゴブリンって低能だな。』
小さくコタをその手で守る事もその知識で助ける事も出来ない無能。ボクの仲間達みたいに失いたくないのに結局、自身では何も成す事の出来ないちっぽけな存在。
『何でこんな穢らわしくてくだらない生き物が産まれて来たんだろうね? 誰も必要となんかしてないのに。』
緑色の肌はお世辞にも綺麗とは言い難く、何もかもが綺麗なコタの隣には本当は自身が相応しくない事は分かっている。この想いを伝えずにともに生きるとしても。
下を向く頭の上から溜息が聞こえた。
ボクに呆れているのだろうか?
ビクリッと溜息に肩を震わせると優しい声が鼓膜を揺らした。
「それでも僕は本当の意味でコタくんを救えるのはミドリくんだと思っているよ。」
それから君が一度目覚めるのは一ヶ月と二日目のこと。
君は魔力を粘膜接触で供給してもらう方法を断固として拒んだ。その時ボクは君を失う恐怖とともに少し安堵を覚えた。
ボクはボクが思っているよりも自分勝手でプライドを捨ててでも生きて居て欲しいと言えなかった。
あんなに喧嘩が好きなのに魔力が足らず、動く事さえ出来ずまた懇々と寝続ける君の手を握る事しか出来ないくせに。
「心配すんな。ひとりにしねぇよ。」
そう無理して笑ってる君をただ見てるしか出来ないのに…。
「なら、答えはひとつだねぇ。ミドリくん。」
ボクに何かを期待するあの翠の瞳が眼前でキラリと光る。
「君はコタくんの為に死ぬ覚悟はあるかい? 死ぬまで逃れられない運命に飛び込む覚悟はあるかい? 」
それは苦難だらけの旅立ちの入り口。
それでもあの時のボクには一筋の光に見えた。
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