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『嫌われても。』
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「正直、言うと魔物であるミドリくんしか最短でコタくんの器を満たすだけの魔力を手に入れる方法を持ち得ていないんだよ。」
だから決断してくれて良かったと月明かりに照られた翠の目が三日月型に細まった。
先程まで煌々とボクとガウェインさんの手の甲に輝いていた太陽の形の紋様は光を失い、あれは何だったのだろうと、首を傾げる。するとと「契約印だねぇ。」ともう一度紋様を光らせた。
「僕は三年間のコタくんの安否を保証した。もし、その契約が破綻しそうになった時、この契約印が点滅する。つまりこの契約印がコタくんの危機を教えてくれるって訳だねぇ。」
契約印が輝く手をヒラヒラと振り、便利でしょ? とガウェインさんは笑ったが、ボクの心は穏やかではなかった。
つまり、これが点滅する時はコタが死に掛けている時。
そんなの絶対ごめんだ。だが、この契約印が使わずに終わる事は絶対にありはしない。
「先に謝っておくけど、三年っていうのも希望的観測だよ。三年指咥えて黙ってくれる程、コタくんの主人は気の長い方じゃない。確実に二年以内には事を起こしてくる。」
そうコタの主人は平気で召喚獣にとって命綱の魔力供給を切ってしまえる人間。そして一切の躊躇なく、生き物の命を奪え、その骸すらも踏み付けてしまえる血も涙もない人間だ。
嬉々として消えていく命を映す灰色の瞳。
仲間を奪っていったあの人間が今のコタの主人。
ボクが絶対に勝たなければいけない勇者。
「その前ニ、ダンジョンで力を付けて魔王を決める大会に出ル。」
「そう。君がコタくんを救うのには魔王の称号を手に入れる事が絶対条件。魔王の称号を手に入れれば、名を与えられて進化出来た君なら更なる進化を遂げる筈だよ。」
「魔王になれバ、コタを満たすだけの魔力を手に入れられル。」
「その代わりに勇者との因果が出来てしまうけどねぇ。」
「でモ、魔王にならなくても勇者はコタを奪いに来ル。」
「だから因果を背負おうが変わらないって言いたいのかい? 君は潔いねぇ。」
本当は君、争い事は苦手なんだろう? と、ボクの本心をこの人は簡単に理解してしまう。
ちょっと残念な所もある人だが、三千年以上生きているのは伊達じゃなく、コタの性格もこの人は熟知している。わざとふざけて見せて、上手く強情なコタを転がしている。
ー きっとボクもこの人に転がされているんだろうな。
そう頰を掻き、苦笑を浮かべる。
確かに争い事は苦手だ。命を奪うのも奪われるのもごめんだし、何かを失うのも誰かの大切なものを奪うのも嫌だ。
痛いのも嫌だし、血も苦手。元々、ボクはゴブリンだった頃からそういう周りとは異質な考えを持って生まれてきてしまっている。
コタのいう喧嘩は何も奪わないし、コタがとても生き生きしてるから好き。コタがボクを頼ってくれるのが心地よく、だから頼られたくて頑張る。でも、コタがいない時に誰かと喧嘩したいとは思わない。基本、ふっかけられても無視しているくらいだ。
この人はボクがコタとともに喧嘩を嬉々としてしている理由も分かっているのだろう。「健気だねぇ。」と今もニマニマ笑っている所を見るに。
ボクはコタが楽しそうに笑ってくれるならなんでも出来るし、やってしまう。コタが生きて隣に居てくれるならこの先が破滅が待っていたとしても突き進めてしまうのかもしれない。
「嫌われても良イ。もう二度と笑い掛けてもらえなくてモ、憎まれてモ、生きててくれるなラ。」
例え、自身の抱いたこの想いがズタスダに引き裂かれる結末だって受け入れてみせる。
ギュッと寝ているコタの手に伸びそうになった手をもう一つの手で抑え込む。不安になるとまるで助けを求めるようにコタに触れたくなるのもやめなければいけない。もうコタには頼れない道を進んでいくのだから。元よりゴブリンである以上、この想いは届く事はないのだから。
「君は本当に潔いよ。悲しい程に。」
折角、覚悟を決めて全てを心の底に沈めて歩き出そうとしているというのにそう言葉を溢すとガウェインさんは悲しげな笑みを浮かべた。
「君の気持ちは本当に報われないものなのかい? 捨て去らなければいけないものなのかい? 」
何故、そんな事をそんな顔で問うのだろう?
ズキズキと痛む胸を見ないフリしてコクリと頷けば、溜息をつき、窓から夜空を見上げた。
もう終わりにしようと部屋から出ようとすれば、唐突に彼はとある物語を紡ぎ始めた。
だから決断してくれて良かったと月明かりに照られた翠の目が三日月型に細まった。
先程まで煌々とボクとガウェインさんの手の甲に輝いていた太陽の形の紋様は光を失い、あれは何だったのだろうと、首を傾げる。するとと「契約印だねぇ。」ともう一度紋様を光らせた。
「僕は三年間のコタくんの安否を保証した。もし、その契約が破綻しそうになった時、この契約印が点滅する。つまりこの契約印がコタくんの危機を教えてくれるって訳だねぇ。」
契約印が輝く手をヒラヒラと振り、便利でしょ? とガウェインさんは笑ったが、ボクの心は穏やかではなかった。
つまり、これが点滅する時はコタが死に掛けている時。
そんなの絶対ごめんだ。だが、この契約印が使わずに終わる事は絶対にありはしない。
「先に謝っておくけど、三年っていうのも希望的観測だよ。三年指咥えて黙ってくれる程、コタくんの主人は気の長い方じゃない。確実に二年以内には事を起こしてくる。」
そうコタの主人は平気で召喚獣にとって命綱の魔力供給を切ってしまえる人間。そして一切の躊躇なく、生き物の命を奪え、その骸すらも踏み付けてしまえる血も涙もない人間だ。
嬉々として消えていく命を映す灰色の瞳。
仲間を奪っていったあの人間が今のコタの主人。
ボクが絶対に勝たなければいけない勇者。
「その前ニ、ダンジョンで力を付けて魔王を決める大会に出ル。」
「そう。君がコタくんを救うのには魔王の称号を手に入れる事が絶対条件。魔王の称号を手に入れれば、名を与えられて進化出来た君なら更なる進化を遂げる筈だよ。」
「魔王になれバ、コタを満たすだけの魔力を手に入れられル。」
「その代わりに勇者との因果が出来てしまうけどねぇ。」
「でモ、魔王にならなくても勇者はコタを奪いに来ル。」
「だから因果を背負おうが変わらないって言いたいのかい? 君は潔いねぇ。」
本当は君、争い事は苦手なんだろう? と、ボクの本心をこの人は簡単に理解してしまう。
ちょっと残念な所もある人だが、三千年以上生きているのは伊達じゃなく、コタの性格もこの人は熟知している。わざとふざけて見せて、上手く強情なコタを転がしている。
ー きっとボクもこの人に転がされているんだろうな。
そう頰を掻き、苦笑を浮かべる。
確かに争い事は苦手だ。命を奪うのも奪われるのもごめんだし、何かを失うのも誰かの大切なものを奪うのも嫌だ。
痛いのも嫌だし、血も苦手。元々、ボクはゴブリンだった頃からそういう周りとは異質な考えを持って生まれてきてしまっている。
コタのいう喧嘩は何も奪わないし、コタがとても生き生きしてるから好き。コタがボクを頼ってくれるのが心地よく、だから頼られたくて頑張る。でも、コタがいない時に誰かと喧嘩したいとは思わない。基本、ふっかけられても無視しているくらいだ。
この人はボクがコタとともに喧嘩を嬉々としてしている理由も分かっているのだろう。「健気だねぇ。」と今もニマニマ笑っている所を見るに。
ボクはコタが楽しそうに笑ってくれるならなんでも出来るし、やってしまう。コタが生きて隣に居てくれるならこの先が破滅が待っていたとしても突き進めてしまうのかもしれない。
「嫌われても良イ。もう二度と笑い掛けてもらえなくてモ、憎まれてモ、生きててくれるなラ。」
例え、自身の抱いたこの想いがズタスダに引き裂かれる結末だって受け入れてみせる。
ギュッと寝ているコタの手に伸びそうになった手をもう一つの手で抑え込む。不安になるとまるで助けを求めるようにコタに触れたくなるのもやめなければいけない。もうコタには頼れない道を進んでいくのだから。元よりゴブリンである以上、この想いは届く事はないのだから。
「君は本当に潔いよ。悲しい程に。」
折角、覚悟を決めて全てを心の底に沈めて歩き出そうとしているというのにそう言葉を溢すとガウェインさんは悲しげな笑みを浮かべた。
「君の気持ちは本当に報われないものなのかい? 捨て去らなければいけないものなのかい? 」
何故、そんな事をそんな顔で問うのだろう?
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