その召喚獣、ツッパリにつき

きっせつ

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トリスタン視点

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「全く。あの野蛮獣め。」

ギリギリと親指の爪を噛みながらトリスタンは琥太郎が逃げ出した牢の前に立っていた。

一ヶ月と少し前。
罪人達の脱走騒ぎの中で姿を消した自身の召喚獣琥太郎
しかも罪人達の脱走の主犯は自身の召喚獣だとの事。


「きつい仕置きが必要なようだな。」

噛んでいた爪から口を離して、苛立ちのままに琥太郎の居た牢の柵を蹴る。しかし、蹴った瞬間、蹴り方が悪かったのか痺れるような痛みが足に走り、涙目で足をさすった。

「うぅ…。これもあの野蛮獣の所為だ。足が痛いのも、爪がボロボロになったのも。」

最初から琥太郎が自身に忠誠を誓い、頭を垂れていれば、こうはならなかったんだと全て琥太郎に責任転嫁しつつ、ゆっくり気を鎮めるように目を瞑った。

すると暗くなった視界に白く光る細い糸が見えた。


それを辿ると視界に森と湖の光景が広がる。
三叉の槍を持ったリザードマン達相手に夜空色の瞳を喜色に染めて、素手で相手をしている琥太郎の姿がその光景の中に映った。

「フンッ。あれから一ヶ月、ずっと森の中で喧嘩…か。やはり、野蛮獣だな。」

なんて野蛮なんだとトリスタンは鼻で笑う。


召喚獣と召喚主は常に魔力で繋がっている。
召喚獣がこの世に顕現出来るのは召喚主から魔力供給を受け続けている間。
だから自身の魔力の行き先を辿れば自然と自身の召喚獣が何処に居るのか召喚主は知る事が出来る。


だが、トリスタンは居場所を知っていて、敢えて放置している。

その手には多額の賞金が懸けられた指名手配のビラが握られており、琥太郎の人相描きと生捕りと言う文字が書かれていた。

トリスタンはおもむろにその紙をヒラリと床に落とした。

「今に冒険者達がお前をギタギタにして、僕の前に引き摺り出すのだ。それまで精々、何も知らずに仮初の自由を楽しんでいるんだな。」

琥太郎の人相描きを踏みながらトリスタンの高笑いを薄暗い牢屋に響く。

牢屋に入れられている罪人はその無駄に高音な上に耳障りな高笑いに最初、顔を顰めた。…が、高笑いのし過ぎで咽せるトリスタンを見て、残念な子を見るような目に変わった。いや。まぁ、本当に残念な子ではあるのだが…。


トリスタン・プロイ第一王子。
彼はプライドがとても高く、それが故に自身でも内心、躾けるのは無理だなと思っている琥太郎を還す事が出来ないでいた。

完璧である自身がたかが召喚獣一匹を御せなかったという汚点が残るのがとても許せない。だからこそ、還すという選択肢は彼の中にはない。

「僕は…、ごほっ、完璧じゃなければいけないのだ。」

ゴホゴホと咳き込み、涙目になりながらも負けるなと自身を叱責する。

「ごほごほっ…。召喚獣を完璧に使役してアイツに目にモノ見せてやるのだ!! 」

ある意味、彼にとって言う事を聞かない召喚獣よりも癪に触る男の顔をトリスタンは思い浮かべて唇を噛む。

トリスタンのスペアであるにも関わらず自身を差し置いて勇者になった……。


「こんな所で何をしてるんですか、兄上? 」

唐突に牢屋の中に響いた声にドクンッとトリスタンは心臓を跳ねさせた。

ギギギッと嫌な音を立てて、向きたくない声の方向に無理矢理顔を向けると、勇者として一ヶ月前に旅立っていった筈の弟がニッコリと笑顔で立っていた。しかし、その笑顔は到底好意的なものとは思えない寒々としたものだった。

「なっ…。何故、お前がここに…。」

「何故って。この城は俺の家でもあるんですよ? 変な兄上。」

クスクスと嗤う弟の後ろではともに旅立っていった弟の仲間の戦士が青い顔をしているのが見えた。しかし、ともに旅立った筈の僧侶の姿がない。

どうしたんだろうと首を傾げると弟はトリスタンの疑問を察して、「ああ。」と納得の声を上げた。

僧侶プリエールならある討伐依頼で俺達を置いて逃げたので、処分したんですよ。…なぁ、戦士グレイブ。」

弟がニッコリと薄寒い笑顔を今度は戦士に向ける。戦士はその巨体を抱き締め、ガタガタと震えていた。

その姿にゴクリとトリスタンは唾を飲み、一歩後退る。
震えそうになる身体をプライドと意地で押さえつける。

ー 僕は完璧なんだ。スペア如きを怖がってたまるか!!

虚勢を張り、無理矢理後退った足を前に出すが、嫌な汗が身体から流れるのは止められない。

首筋から一筋汗が伝う。
すると弟の指がトリスタンの首筋を撫でる。首を撫でる指で汗を掬うとペロリと赤い舌で舐めとり、妖しく笑った。

「本当に兄上は可愛い人だ。つい、虐めたくなってしまうね。」

サァーッと血の気が引いていくのを感じる。
その笑みに勇者の仲間として選ばれ、自信に満ち溢れた表情で旅立っていった僧侶プリエールの事が頭に過り、恐怖が加速する。

彼がどうなったのか。
先程の一言で容易く最悪の憶測は何個もトリスタンの頭の中をよぎった。

同じ腹からは産まれてないが、トリスタンは弟、ソレーユの性格は嫌と言う程に知っている。

ー 気狂いめ!!

この世で一番恐ろしく、許せない存在。
完璧な自身を脅かす狂人。
それが弟ソレーユ。

自身を差し置いて勇者になった事は許せなかったが、ソレーユが出て行ってトリスタンが最初に感じたのは安堵だった。


「俺が何故、帰ってきたか分かる? 」

久々に感じる狂気に満ちた視線とともに投げかけられた問いに身震いしながらも必死に首を横に振る。

本当は理由なら何となく分かっていた。
しかし、ソレを認めてしまえば、自身も僧侶プリエールと同じ末路を辿るような気がした。

ソレーユはじっと心の奥底まで探るようにトリスタンを見た。
自白しないトリスタンに眉を下げ、残念そうな表情を浮かべると髪をたくし上げ、トントンッとこめかみ辺りに出来た真新しい傷痕を指した。

「これはね。とある討伐依頼の時に突如現れた獣が付けたものでね。本当に一瞬の出来事だったよ。」

完全に隙を突かれたよと傷痕をまるで宝物を扱うように丁寧に撫でる。その瞳からは狂気が消え、うっとりと思い出に浸っていた。

「夜空色の髪と瞳を持つ獣。しなやかな身体をしならせて、回し蹴りを放つあの姿は力強くて美しかった。……初めての感覚だよ。ドキドキと胸が高鳴って、寝ても醒めてもあの姿が忘れならない。これが恋って奴かな? 」

どう思う? と、もう既に答えは出ているのにソレーユはトリスタンを追い詰めるように問う。

ー あの野蛮獣め。なんて余計な事をしてくれたのだ!!

魔力を通して琥太郎がソレーユを伸した場面は見ていた。

たかがゴブリン風情を切り捨てて、何故あんなにも琥太郎が沸々と怒りを湧き上がらせたのかは理解出来なかったが、ソレーユをのした時は良くやったと思わず叫んだ。

琥太郎が纏う魔力の色から琥太郎がトリスタンの召喚獣だとバレて、暴力を受けた件について問い詰める為に帰ってきたのだと思っていた。だが、トリスタンが想定していた以上に最悪な事態に今まさに転がろうとしていた。


獲物を狙う強者の目がトリスタンを捕らえる。

「ねぇ、兄上。アレ、俺にくれません? 」

それはお願いなんて優しいものではなかった。

顔面を掴むように伸ばされた手の合間から見えたのは狂気に満ちた笑顔。恐怖に悲鳴をあげる暇もなく、世界は暗転した。
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