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本編

王立学園 男子寮

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馬車を降りて足を踏み入れたこの豪華な建物は・・・どうやら男子寮らしい。
今は学園で講義中との事らしく、人気の無い廊下を延々と爺やの後ろに付いてく形で進んでいた。

時折、メイド服に身を包んでいる女性達が優雅にお掃除をしているのを見かける位で・・・生徒、つまり貴族の御子息は一人も居ない様子だ。

(それにしても・・・何処まで行くのかしら?奥に行けば行くほど・・・何だか部屋の扉の装飾が凄い事になっているのだけれど・・・。)

寮の部屋と言ってもどうやらランク分けされている様で・・・
奥に行けば行く程に部屋の扉の装飾が豪華になっており、扉の大きさや材質も高級なものになっている。
部屋の扉だけでここまで差別化されているのだから・・・恐らく部屋の中はもっと凄い事になっているに違いない。

「フレイヤ様・・・こちらが坊っちゃまのお部屋で御座います。」

爺やが足を止めて、私の方へと向き直して紹介してくれたお部屋の扉は・・・一際目立つ金の装飾が光り輝いており、思わず顔が引きつってしまった。

「お、王族の方のお部屋と間違えているのでは無くて・・・?ここが、エドのお部屋なの・・・?」

「左様で御座います。ーーーほら、鍵も回りましたので、間違いありません」

爺やが胸ポケットから出して来た金色の鍵を差し込むと、確かにガチャリと音がして扉が開いた。
私は・・・〝とんでもない場違い感〟に襲われてしまい、頭がクラッとしてしまった。

「どうぞ・・・フレイヤ様、坊っちゃまから許可は頂いておりますので・・・お入り下さい。」

まるで何処かの御令嬢かの如く爺やに扉を開けて貰った私は、恐れ多いと思いながらも軽く会釈をすると部屋へと足を進めた。



(な・・・何だ・・・ここは!!!)



扉の装飾に負けず劣らずの絢爛豪華な部屋に思わず面食らってしまった私は・・・開いた口が塞がらず玄関ホールを抜けた先で立ち尽くしてしまった。

「フレイヤ様?お茶をお淹れしますので・・・どうぞ、ソファへとお掛け下さい。」

背後から聞こえた爺やの声にハッと我に帰った私は、自分が何の為にここへ来たのか思い出した。

「い、いえ!客人では無いのだから・・・!そんな事は止めて頂戴!爺や!」

慌てて爺やの後ろ姿を追いかけてそう伝えるが・・・爺やはまるで私の声が聞こえていない様子で優雅にポットを火をかけ始めた。

(これは・・・何を言っても聞いて貰えない感じね・・・。)

爺やの背中からそう悟った私は、仕方なくソファへと腰を掛ける。
部屋を見渡して観察してみると、相当広い部屋だと言う事が分かる。
ダイニングに、主寝室に、書斎迄ある。勿論、小さめではあるがキッチンに、バスルームまで揃っており、何不自由なく学園生活を送れる様に配慮された部屋である事が伺えた。

(凄いお部屋ね・・・こんなお部屋を与えられているだなんて、エドは凄いのね。)

離れている間に遠い雲の上の人になってしまった幼なじみに、少し寂しさを感じはしたが・・・とても喜ばしい事だと下らない考えを追い出すかの如く、頭を振った。



「失礼致します。フレイヤ様は・・・確かミルク多めがお好きでしたよね?」

「ふふっ、よく覚えているわね?そんな事・・・。ミルク多めが大好きよ?有難う、爺や」

爺やがカートで運んできたティーセットをダイニングテーブルの上にセッティングすると、幼い頃の私の好みを未だに覚えていてくれた様で、思わず笑みが溢れてしまった。

美味しそうな紅茶を早速、一口頂いてみると・・・見た目以上にとても美味しくて思わず眉が上がってしまった。
そんな私の表情を優しい笑顔で見つめる爺やに・・・幼い頃の記憶が呼び起こされて、令嬢として過ごしていた夢の様な時間にタイムスリップした様な気持ちになった。

「ではー・・・フレイヤ様、私は坊っちゃまをお迎えに行って来ますので・・・こちらでお待ち頂けますか?」

「え?いやいや、私も一緒に行きたいわ!連れて行って頂戴!」

主人が居ない部屋で優雅に紅茶を飲んで待っているメイドなんて聞いた事が無い・・・。
そう、自分の置かれている状況を冷静に客観視する事が出来た私は、今のこの姿がとんでもなく不味い状態だと気付いた。

「じ、爺や・・・私ったら主人の部屋で寛いで紅茶を頂いてしまっているけれど・・・エドは謝ったら許してくれるかしら?」

青い顔を浮かべならがカタカタと手が震え始めてしまう・・・。
爺やに流されてしまったとは言え・・・働く前からとんだ失態である。

「そんなお気になさらず、さぁ、紅茶をお飲み下さいませ。全て坊っちゃまからのご指示で爺がやった事ですから、お咎めなぞあり得ませんよ。」

「そう・・・?爺やの言葉を信じるわ・・・。信じるしか道は無いもの・・・!」

藁にもすがる思いで爺やの言葉を信じた私はーーー・・・、爺やを見送ると、一人きりの部屋でソワソワしながらその時を待っていた。


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