劇薬博士の溺愛処方

ささゆき細雪

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当て馬救済企画番外編「臆病Dr.の再愛処方」

* 1 * 泌尿器科医はモテない(前編)

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※赤井茄子先生&和泉和歌先生の共同企画「当て馬救済企画」に参加したくなって書いた番外編です。本編未読でも読めるようになってます。全五話の当て馬ヒーローのおはなし、楽しんでいただけると嬉しいです。

※メインヒロイン三葉ちゃんは不在です。琉せんせーはちょっとだけ出ます。
※今回のヒーローは後日譚編「誰が為の自慰」にて当て馬(だよね?)に甘んじていた泌尿器科医の飛鷹先生です。アブノーマルなことは口先だけ(たぶん)。


   ☆ * ☆



 同い年の後輩が結婚退職するのだという。しばらくはここの総合病院で働きつづけるつもりだと言っていたのに、どういう風の吹き回しか。
 飛鷹博和ひだかひろかず、三十二歳。泌尿器科を専門にしている勤務医はどこか腑に落ちない表情で相手に詰め寄る。

「大倉、いったい何があったんだ」
「そろそろ父親の医院を引き継ごうかと思ってな」
「ふうん。三葉ちゃんには言ったの?」
「事後報告だが?」

 たいしたことではないと言い切った後輩、こと大倉琉は飛鷹が思いを寄せていた女性のことを問いただしても涼しい顔をしている。すでに婚姻届を役所に提出している彼はもはや怖いもの知らずなのだろう、かつて恋敵認識していた自分のことなどすっかり忘却の彼方である。
 実家が整形外科医院を営んでいる琉と異なり、親族に医師がいるわけでもない飛鷹にとって彼が当たり前のように「後を継ぐ」と口にしているのを見ると、彼には彼なりの苦労があるのだろう。それでも調剤部に所属していた高嶺の花と囁かれた薬剤師をモノにしたかと思えばあっさり逃げられて、どうにかよりを戻して、順調に付き合いを重ねてついに入籍までこぎつけた琉を傍で見てきた飛鷹からすると、ここにきて安定している勤務医から自営状態の開業医になるのは無謀に思える。

「いつかはそうしようと思っていたんだ。それがすこし早くなるだけだ」

 飛鷹が考えていることを読み取った琉はそう言ってにやりと笑う。給料は下がるだろうが、ふたりで過ごす時間が増えるのだから問題ないと。
 相手の三葉は彼女の叔父が営んでいる駅前薬局で相変わらずフルタイム勤務をしているという。彼女の勤務地からほど近い場所にワンルームマンションを借りたという琉は、誰にも邪魔されない新婚生活を満喫している。まったくもって羨ましい限りだ。

「三葉ちゃんに逃げられないようにね」
「うるさい。お前こそとっとといい女見つけろな。ウロちゃんよ」

 医療関係者のなかで呼ばれる泌尿器科の愛称で呼ばれ、飛鷹は苦笑する。
 英語で泌尿器科はウロロジーゆえの愛称だが、後輩の琉に言われるとバカにされているような気がするのは気のせいだろうか……
 意気揚々と病院をあとにする琉を見送り、飛鷹は誰もいない場所ではぁ、とため息をつくのだった。
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