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当て馬救済企画番外編「臆病Dr.の再愛処方」
* 1 * 泌尿器科医はモテない(後編)
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そもそも泌尿器科医はモテない。合コンの場で職業「医師」に飛び付く女性は多いが、専門で「泌尿器」と口にしたとたん「あ、うん」という気まずい空気になってしまう。反対に琉のような整形外科医はモテる。病院の診療科目のなかでも整形外科は体育会系の人間が多いのが特徴的で、一説によると男女間のやりとりが積極的だとされている。現に琉が三葉を見初めて猛アタックをしているのは調剤部だけでなく病院の受付スタッフや医療秘書にも目撃されている。それゆえいたたまれなくなった彼女は総合病院を退職していちど琉の前から姿を消したのだが、それでも諦めきれず彼女を捕まえたのだからその時点で自分は「負けた」と思っている。
だからといってすぐに次の恋を探せるほど飛鷹は器用でもない。ただでさえ多忙な勤務医に出会いの場は少ない。合コンに行ったところで「あ、うん」と拒絶されてしまうのだ、飛鷹が新たな出会いに臆病になるのも仕方がない。
「お疲れさまです飛鷹先生、今日は当直ですか?」
「いや。手術の予定もないし、今夜はこれであがるつもりだが」
「このあとみんなで食事に行くんですけど、よかったら先生もいかがですか?」
「そう言って俺におごらせようとする魂胆だな? 残念、また今度ね」
「もうっ」
上目使いで見つめる若い看護師を前に、飛鷹は乾いた笑みを浮かべる。
二十代前半の彼女たちからすれば、自分はすでに「おじさん」と言われるレベルだ。金づるとして食事に誘われることはあれど、恋愛対象として見るにはすでに枯れている。それに琉を見ていた飛鷹にとって職場恋愛は鬼門なのだ。無事につきあうことができても、継続できるとはとうてい思えない。
「あー、こんなんだからダメだって言われるんだろうな」
飛鷹にもかつて恋人だった女性はいた。医大生の頃だから、すでに十年近く前のはなしだ。彼女もまた、医師の卵として自分と一緒に切磋琢磨していた。無事に医師免許を取得して、研修医として勤務をはじめた頃には結婚も意識しだしていた。けれど彼女は飛鷹の手を拒んだ。恋人よりも仕事を選んだ、それだけのこと。
飛鷹は彼女を束縛したくなかった。キャリアを大切にしたいという彼女の成功を願って、別れ話に頷いた。その後、海外に行くというメールが届いたが、飛鷹は返信することもなくゴミ箱に捨てた。もしあのとき空港まで駆けつけていたら、なにかが変わっただろうか。
病院から出た飛鷹はネオンが輝く東京の夜空を見上げる。上京してきた頃はこの眩しさに慣れなかったが、いまでは当たり前のものになっている。眩しい街明かりを横目に、飛鷹は過去に思いを馳せる。
一緒に上京してきた彼女は、ここにはいな――いる?
すれ違った女性から、懐かしい香りが漂う。過去に逆戻りさせる香水の。
そして立ち止まった飛鷹に気づいたのか、小柄な女性がくるりと振り返る。
「ヒロ……?」
「うらら」
なぜ、ここに彼女がいるのだろう。
信じられないと瞳を見開く飛鷹を見て、彼女もまた驚いている。
お互いに、見つめあったまま、時間が――止まる。
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