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鬱金香の呪い
しおりを挟むレンブラント王にはひとりの娘がいる。彼女の名はリニフォニア。十六歳の愛らしい姫君だと言われているが、彼女を実際に見たことがあるものは、両手で数えるほどしかいない。
なぜなら彼女は呪われた姫君だから。
「鬱金香の呪い、か」
いまは亡き大魔女べルフルールがかけたその呪いを解呪するのは困難だと、レンブラントの魔術師たちは諦めきっている。あのレンブラント王が解けない呪いなのだ、呪いが解けることはつまり、王を越えるということ。
「いままで誰も成功したものはいないのだな」
「仰せのとおりです、スクノードさま」
顔を向けることなく話しつづけるスクノードの前で、黒づくめの少女は素早くひれ伏す。けれど彼は彼女の顔を見ることなく、夢見るように言葉を紡ぐ。
「もし、僕が呪いを解いたら、ヘルミオネ王家はレンブラントを手に入れられる……そういうことですね」
「ですが、危険を伴います」
たしかに、いままで解呪に挑戦した魔術師の多くは、逆に魔力を喰われてちからを失ったり、体力を奪われたり、精神を病んでしまったときく。解呪に失敗しながらもレンブラント王がいまも五体満足でいられるのはもとから持っている魔力が強大だからなのだろう。
自分だったら、どうなるのだろう。解呪に失敗した後も、自我を保って生き延びることは可能だろうか……? いや、失敗するのを前提で考えるのはよくないことだ。失敗しないように慎重に行動すればいい、それだけのことなのだから。
「危険じゃない解呪など存在しないでしょう」
他の魔術師が施した呪いを別の魔術師が破るのは容易なことではない、それがけた違いの魔力を持つ者によるものだとすれば尚更だ。
スクノードは自分の前にひれ伏す大魔女べルフルールの弟子だったリナリアの戸惑ったような声に、くすりと笑う。
「それに、僕は王家のお荷物ですから。たとえ解呪に失敗しても、彼らにとってみれば、痛くも痒くもないんです」
「そんな」
「リナリア。貴女だけですよ、そうやって僕を心から気にかけてくれるのは」
窓際から差し込む陽光が、スクノードの白銀の髪をやさしく照らす。リナリアはこの世のものではないような美しさを持つ青年を前に、頬を朱色へ染め、俯く。
「……いえ。あたしは、ヘルミオネ王家に仕える魔術師ですから」
けれどスクノードはリナリアの照れたような表情にも反応しない。
「それでも――僕は応えなくてはならないんです。レンブラントを手に入れたい王家と、王家に仕える貴女のため……そして自分の実力を試すために」
王位継承権を持たないスクノード・ヘルミオネにとって、これは最初で最後の好機なのだ。
精霊の加護が溢れる隣国、レンブラント。その次期女王の呪いを解けば、この世界で最強の魔術師であることを認められる……だからレンブラント王は姫君の呪いを解いた人間を、次期女王の婿にするなどという大それた御触れを出したのだ。
自分を越えられる者がいるのなら、越えてみろと。
そして、ドールハウスに囚われた人形姫を救い出し、伴侶にするのだ、と。
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