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chapter,7 Naha → Tokyo

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 マツリカの制服につけられていたGPSを辿っていたカナトは、都内のとある高級ホテルで動きが止まったのを確認し、ため息をつく。

「やっぱりイッセーか……」

 カミオオオカ・インペリアルホテル・トーキョー。
 世界に名を馳せるホテル王、上大岡興一の三人の息子たちのなかでもいちばん優秀とされているイッセーの長兄、上大岡一富かずとよが総支配人として拠点にしているラグジュアリーシティホテルである。
 瀬尾とともに車でここまで追いついたカナトは、周囲にマスコミがたむろしているのを見て舌打ちをする。

「本日十五時メインバンケットホールにて――キャッスルシー代表による会見予定……これか、マツリカが言っていたのは」

 そんなことはさせないと、カナトはエントランスから正々堂々と入っていく。受付を素通りし、GPSの動きが落ち着いている十二階の客室周辺に狙いを定めてエレベーターに乗り込む。時刻は午前十一時半、会見開始までにマイルはマツリカを説得して公の場に連れ出すだろうが、彼のことだから無理矢理にでも彼女を従わせようとそれこそ既成事実を作りかねない。
 別行動をしている尾田はすでにホテル内で客を装った警察の人間とともに十二階のラウンジで待機しているという。はじめ警察は誘拐疑惑だけで乗り込むことに難色を示していたが、尾田が持参した違法薬物が染み付いたハンカチと、連れ去られた女性が鳥海の若き海運王の未来の妻でマイルの義理の姉だと知らされあっさり態度を翻した。城崎浬がキャッスルシーの社長に就任してから蔓延る黒い噂の真相を鳥海の人間が明かしたことで信頼を得られたのだろう。

「カナトさま、お待ちしておりました」

 エレベーターを降りたところで尾田が出迎え、カナトの前で跪く。
 そんなことよりもマツリカはどこに囚われているのかとカナトが小声で訊ねれば、一番奥の部屋のようだと刑事が応える。カナトが頷き、奥の部屋へ向かおうとしたそのとき。
 がちゃり、という重々しい音が響く。
 慌てて廊下を駆け出して部屋からこちらへ歩いてくる女性に気づいたカナトは、BPWの船上コンシェルジュの制服を着ているのが、マツリカでないことに愕然とする。

「――お前」
「あらぁカナトさまじゃないのぉ。あぁんなふしだらな女など捨て置いて、わたしと一緒にイイコト、しましょ?」

 彼女もまた違法薬物を摂取していたのだろう、どこか酔っぱらっているような金髪の女性を瀬尾に任せ、カナトは刑事に確認する。
 違法薬物所持、売買、そして誘拐……城崎浬の容疑はすでに固まっている。
 ホテルにも警察から事情を説明しており、すでに該当する部屋のロックは無効になっている。マツリカの現状を知らせたことでマイルを逆上させた上大岡氏の三男坊はあとでこってり叱られると思うがカナトの知ったことではない。
 警察の応援要請もホテルにお願いした。せっかくだからマスコミも利用しよう。キャッスルシーの社長の婚約発表会見はまさかの逮捕劇へと変貌するのだ。

 マイルを捕らえ、罪を白日のもとに明かす――マツリカを取り戻すため、カナトはあたまのなかで計算したすべてをいま形にする。

「あの部屋に、マツリカはいるんだな……突入する」

 コンシェルジュの制服を脱がされた彼女を想い、カナトは静かに怒りを湛えながら刑事とともに奥の部屋の扉を勢いよく押し開ける。



「警察だ! 城崎浬、お前を違法薬物所持と営利目的等略取及び誘拐罪の現行犯で逮捕する!」



 そこにはぐったりした下着姿のマツリカと、彼女に注射針を突き立てようとしているマイルの姿が――……
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